Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

ジャズの「ノリ」を科学する

2019-11-28 09:07:07 | ジャズ
井上裕章,アルテスパブリッシング (2019/11).

帯の惹句がこの本を的確に紹介している.
***** チャーリー・パーカー「後ノリ革命」の秘密をあざやかに解明!
「ノリ」の感覚を数値化・分析した画期的なジャズ研究! *****

フリーソフト Audacity を用いて,オーディオ波形にイコライザ処理を施す.低音域の抽出からベースの波形が,中音域の抽出からサックスの波形ができる.そこから,4分音符一拍に8分音符をふたつ入れる時,ベース音に対してソリストが出す音のタイミングを求めていく.

図では下の3行のどれかが楽譜どおりのタイミングだが,ホーン・プレイヤーはそうは吹かない.(Davis-cool 型につけた青字は 16 トンが書き入れたものだが) ひとつ目の8分音符は頭からの「遅れ値」を持つ.2つ目の音符との時間が「ハネ値」である.遅れ値とハネ値の和が裏拍値である.ふたつの音符の時間関係は図に示してある.また,(遅れ値,ハネ値,裏拍値)がプレイヤーず代表する「型」の後に書いてある.



このようにまとめる以前には膨大なデータがあり,それらを本書では横軸を遅れ値,縦軸をハネ値として散布図として示している.

本書の目次は
第1章 ジャズのリズムをヴィジュアル化してみる
第2章 パーカーの後ノリ革命──スウィングからビバップへ
第3章 レスター・ヤングからチャーリー・パーカーへ
第4章 ファッツ・ナヴァロとマイルス・デイヴィス──ビバップからクールへ
第5章 パーカーとヤングの遺産──ハード・バップへ
第6章 モダン・ジャズの巨匠たちの8分音符
第7章 ビハインド・ザ・ビートの巨匠──デクスター・ゴードンとエロール・ガーナー
第8章 ドラムスとベースの微妙な関係
全体の印象は,遅れとハネから見た演奏論である.

第1章でベースの時刻を基準としてタイミングを測ったことに多少抵抗を感じたが,第8章を読んで納得した.その前の第7章では,デクスター・ゴードンとエロル・ガーナーは,いろんな「ノリ」を使い分けていることが示される.

上の図は第5章からの引用.著者はコールマン・ホーキンスの「ノリ」をスイング時代の典型とし,チャーリー・パーカーの「後ノリ」レスター・ヤングの「裏ノリ」がジャズに大きな影響を与えたと説く.他に図に示されているのはファッツ・ナヴァロと「クールの誕生」時代のマイルズである.第6章に登場するのはロリンズ,モブレー,コルトレーンなどのホーン奏者が中心だが,チャーリー・クリスチャン,ウェス・モンゴメリなどのギター奏者もいる.

P値による検定が少しだけ記述されているが,むしろ散布図に縦横2方向のヒストグラムを付け加え,遅れ値とハネ値の標準偏差を計算し誤差棒として示したほうが良さそう.

自分の演奏も測定にかけてみたい...とは思ったが,すごく大変なことになりそう.それでも,遅れとハネに注意して聴いたり演ったりできるようになれば,本書のおかげだろう.
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reading

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