Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

元祖ばかミス「カリブ諸島の手がかり」

2009-05-10 08:48:02 | 読書
T S ストリブリング 著, 倉阪 鬼一郎 訳 「カリブ諸島の手がかり」 (河出文庫 2008/08)

ばかミスは,ばかばかしいミステリのこと.けして評価が低いジャンルではなく,この本の訳者の倉橋さんも書いておられる.
これは5本の中・短編集だが,うち2篇は本格っぽい,ただしどれもあまり面白くなく,読み進むのに苦労した.結末まで行ったら開いた口がふさがらない.この最後の短編「ペナレスへの道」だけ読んだら「なんだこりゃ」で片付いてしまうところだが,最後まで読んだご褒美となれば有り難み倍増.
ただし後味は悪い.

探偵役のポジオリ教授はおっちょこちょいで性格も良いとは言えず,ピントはずれなことばかりして,好んで窮地に陥る有様.なんだか身につまされる.ポジオリ教授ものはこれが最初のシリーズで,以下全部で37篇もあるとのことだが,「ペナレス...」の最後からどのように復活したのだろうか.

舞台はカリブ諸島で,英米仏人・現地人・インド人・混血人などが描き分けられる.ユーモアといっても黒いユーモア.
1920年代の小説だからか,人種偏見などものともしない筆致だが,最後はこの偏見がしっぺ返しを食らう...と解釈出来なくもないところが名作とされる所以だろうか.

*****内容「BOOK」データベースより*****
殺人容疑を受けた亡命中の元独裁者、ヴードゥー教司祭の呪術、ヒンドゥー寺院の死体…多様な異文化が交錯するカリブ諸島を舞台に、アメリカ人心理学者ポジオリ教授が怪事件の数々に遭遇する、皮肉とユーモアに満ちた探偵譚。“クィーンの定員”にも選ばれた、ミステリ史上前代未聞の衝撃的名作。
*****

文庫のカバーが良い.デザイン倉橋愛子,装画影山徹,フォーマット佐々木暁とあるが,デザインとフォーマットはどう分担したのだろう.
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新球場で野球観戦

2009-05-08 08:10:27 | エトセト等
10年近く前に学生さんたちについて行って以来の野球観戦.
「ぎゅう詰の外野で,何の因果でこんな硬いイスの上に何 時間も...と思っているうちに、時間がたつに連れ周囲の温度と同じになって、カープのプレイに一喜一憂.物理法則の正しさを認識した...」
と当時のブログに書いてあった.

今回は内野席.開始30分前ですでに満員の球場は,豚ウィルスにとっては願ってもない環境だろう.
ぼくのとなりの若い男性ふたりは,小声では「あいつはランナーがいると打てない傾向」などと冷静に評論家しているのに,野次は映画の広島やくざそのもの.
外野の端っこでは鯉のぼりを振り回しているのが見えた.

しかし,J 子とふたりきりでは温度が周囲と同化するには至らず,というより,われわれの周囲だけ温度が低かった感じ.みなカンフーバットや応援ハンド等のプラスチック打楽器?で景気をつけていた.われわれも家からマラカス,タンバリンなどを持ってくればはずみがついたかなと,反省.

相手はヤクルトだが,ときどき聞こえてくる東京音頭から,東京のチームだったの...と認識するのが小生のレベル.
この日のためにTVで予習観戦をしたのだが,そのときは鯉軍が大量得点.しかしあそこで運を使い果たしてしまったらしく,試合は始めから押され気味.風船飛ばしもむなしく,2死満塁のチャンスを活かせず,4番打者の三振でおわり.

新球場の席はらくらくでも,何時間も座りっぱなしはやはりつらい.しかしずらりと並んだテイクアウト店は見て回るだけで楽しかった.試合はあきらめて食べることに熱中するひと多数.

こどもの日の前日だったが,こどもたちには「世の中は思うようにはいかない」という教訓を得たはず.
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酒井俊「満月の夕べ」

2009-05-06 07:49:49 | ジャズ
先月のNHKのチャリティコンサートに酒井俊さんhttp://www.sol.dti.ne.jp/~s-shun/itop.htmlが登場,オーケストラをバックに「満月の夕べ」を歌った.ライブハウスとちがい,普段着に見慣れた方を久々に見かけたら,結婚式で盛装していたという感じ.
ライブではときどきお話ししたが,ここ数年はご無沙汰しているのです.
酒井俊さんのことをわが家では勝手に「しゅんチャン」と言っている.

俊さんがライブの度に歌ってきたのが「満月の夕べ」で,この歌に付き合わされて,スリーコーズに戸惑ったジャズメンも多数と思う.
YouTube では竹内直のフルートによるオブリガートがいい.
レコーディングも少なくとも3回はあるはず.この鬼怒無月・桜井芳樹の2ギターとの盤が気に入っている.

自分的には俊さんの刷り込みが強く,あとからソウルフラワーユニオンのオリジナルを聞いたときには,突然割り込んでくる琉球音階に戸惑ってしまった.

阪神大震災の歌ということも,はじめは
「ときを越え国境線から...」
という歌詞から想像しなかった.
こどものとき飼っていた犬の名がシバなので,
「飼い主を亡くしたシバが,同胞とじゃれながら道を往く」
の一節が気になっている.一生鎖に繋がれて暮らすはずだった犬が,これ幸いと自由を謳歌するリアリズムだ.

俊さんの原点はジャズで,Send in the clowns, When I fall in love, My coloring book など,歌詞にも凝った曲がお好きのようだ.スローな曲がビブラート無しの歌いかたと合っていると思う.

お習字みたいな字を書かれるので,ライブでCDを買ったら一筆お願いすることをお薦めします.
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2000円の遺作

2009-05-04 08:46:59 | お絵かき
駅前の画材店 -山陽本線西条駅 ギャラリー風見通り- で買った絵.

おじいさんが遺した絵が段ボールに一箱持ち込まれたのだそうだ.
明るい絵と暗い絵に分類出来そうで,これは明るい絵のほう.画風は確立されていて,多くは高原に家がある風景.手前に花があるのは稀少だったので購入した.
お店の方によれば,日本画用のキャンバスに,なかなか高い絵具で描いてあるとのこと.サインがないし,そもそも画家の名前も分からないが,ぼくは気に入っていつまでも見たりしている.額縁を思案中.

2000円で売れるのだからたいしたもの.ぼくの遺作はみな,燃えないゴミ行きかな.
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一昨日のお豆腐

2009-05-02 10:50:03 | 新音律
芦原すなお「ミミズクとオリーブ」創元推理文庫(2000) のなかの短編「おとといのおとふ」のネタばらしです.

******
エスの頭をやさしく撫で,頼みごとを強く念じながら妻に教わった呪文をエスの耳に囁いた.三度目,エスはぴくぴくと動かし,木立に向かって駆け出し,古い大きな切り株の根本を懸命に掘りはじめた.出てきたのは犯人がエスの主人を殺したときに履いていた靴...
******

というのが,上記短編のハイライト.
妻に教わった呪文というのは「おもとにとうろう おとといのおとふ」である.妻によれば,この呪文をとなえると犬は喜んで,すごい信頼感を持つのだと言う.「おもとに...おとふ」はほとんど「お」の段の音で,「お」段は響きが柔らかくてやさしい.これに対し「あ」段は響きが強く叱られてるみたい,「い」段は鋭く敵意を感じさせ,「う」段はなんだか不機嫌,「え」の段はぼやけて犬にははっきり聞き取れない...とのことである.




母音の音声波形を,板橋秀一編「音声工学」森北出版 2005で参照した.ほんとは自分で測定すればいいのだが,さぼってこの本の図を引用させていただく.図によれば「お」の波形は滑らかで,高周波数成分が少ないからやさしい感じがするのだろう.「あ」「い」「え」はぎざぎざして汚い.「う」は「お」と似たようなものだが,山の数が半分である.言い換えると,「お」が4倍波(2オクターブ上の音)を含むのに対し,「う」は2倍波(1オクターブ上)までしかない.「お」のほうが明るい感じ.

この本にはもちろん周波数スペクトルも載っているが,この音声波形のデータと対応するのか否か不明.

「おもとに...おとふ」の効用は怪しいが,小説家は,「そんなことがいかにもありそうだ」というくらいのことをネタに,小説にしてしまうところが偉い.
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