【卓上四季】:魂の色
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季】:魂の色
人種差別に対する抗議の表明が行われた1968年メキシコ五輪の男子陸上200メートル表彰式。米国の黒人選手トミー・スミスとジョン・カルロスが黒い手袋を着けた握り拳を突き上げた側(そば)で、賛意を示すバッジを胸に着けた白人選手がいた。2位のピーター・ノーマンだ▼男子短距離でオーストラリアに初のメダルをもたらした。にもかかわらず、白人優遇の白豪主義を掲げた母国では、裏切り者扱いされた。72年ミュンヘン五輪では、参加標準記録を13回も超えながら代表からは漏れた▼まるでノーマンの姿を見ているような錯覚を起こした。テニスの全米オープン女子シングルスで2年ぶりの優勝を果たした大坂なおみさんに対する日本国内の特異な反応のことだ▼黒人被害者の名前が書かれたマスクを着用、人種差別撤廃のメッセージを発信した大坂さんに対し、ネットなどで「スポーツに政治を持ち込むな」などと中傷が噴出。スポンサー企業の不買運動の呼び掛けまで起こった。これでは日本が人種差別を肯定しているとみられても仕方ない▼ノーマンは高校教師など職を転々とし、2006年に亡くなった。シドニー五輪に招待されることもなかったが、葬儀にはスミスとカルロスがかけつけ、ひつぎを担いだ▼「肌の色は関係ない。みんな平等なんだ」。父のいいつけを守ったノーマンの魂は、きっときれいな無色をしていたのだろう。2020・9・16
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2020年09月16日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。