【卓上四季】:盗っ人の人相書
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季】:盗っ人の人相書
江戸中期の東海道筋で、200人もの手下を率いて夜盗を働き、日本左衛門の異名を取った浜島庄兵衛。歌舞伎「白浪五人男」の日本駄右衛門のモデルともなった大親分が観念し、町奉行所に自首したのは人相書がきっかけだった▼「せい五尺八寸ほど年二十九歳、見かけ三十一、二歳、月代(さかやき)額濃く、色白く、鼻筋通り、目細く…」。背格好や見た目の年齢から着衣、所持品に及ぶまで事細かに描写された。写真もない時代のことだ。本人と特定するには詳細な特徴が欠かせなかった▼情報があふれると、かえって身元特定がおろそかになるものなのだろうか。NTTドコモの電子決済サービス「ドコモ口座」のことだ▼なりすましのメールアドレスで開設されたドコモ口座に、連携先の銀行の口座から不正に預金が引き落とされていた。ドコモ口座と銀行の口座をひも付けする際の本人確認も不十分だった▼被害はドコモとの契約がない人たちにも及んでいる。知らぬ間に預金が引き出されていたという人も少なくない。まずは自身の口座残高や出入金の記録を確認したい▼背景には、キャッシュレス決済サービスを巡る利用者の争奪の激化もありそうだ。利便性向上のため安全を軽視したとすれば、業界全体の信頼の低下にもつながりかねない。仕組みの甘さを悪用する「盗っ人」を野放しにしないためにも、身元確認には一層の注意を払いたい。2020・9・12
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2020年09月12日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。