【社説①】:発電所維持負担 新電力に不利な制度だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:発電所維持負担 新電力に不利な制度だ
電力自由化の流れに逆行する動きになってはいないか。
将来の電源不足を防ぐ目的で、北海道電力などが持つ全国の既存発電所の維持・更新費用を負担する「容量市場」がスタートした。
新電力を含む小売り側が買い手となり、4年後の発電所の供給力に価格を付けて取引する。7月に本年度の入札が実施された。
だが、応札するのは売り手の北電など発電会社だ。国が設定した上限価格近くの高値で落札した。
道内分は計約505億円で、このうち新電力の負担は100億円近くに及ぶとみられる。
新電力は負担を電気料金に転嫁することが予想され、採算がとれないと撤退する恐れもある。
これでは新規業者の締め出しにつながりかねない。市場を管理する国は制度の改善を急ぐべきだ。
2016年の電力小売り全面自由化で、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが増え、取引価格も安くなった。
一方で、高コストの火力発電所などの電気が売れなくなると維持・更新が困難となり、電力の安定供給に支障が出る可能性がある。
このため、国の認可法人・電力広域的運営推進機関が小売業者の窓口となり容量市場を開設した。
価格競争が行き過ぎると、逆に業界全体を破壊してしまう恐れもある。欧米にも同種の制度があり、一定の意義はあろう。
とはいえ、原発や老朽石炭火発の温存につながるという危惧はある。そもそも発電所の維持・更新は、電力会社自身の責任で計画的に行う筋合いのものだ。
入札結果は、全国で出力1キロワット当たり1万4137円となった。上限価格に対し、わずか1円安いだけだ。指標価格とした同9425円の約1・5倍に上る。
初年度は経過措置で負担は減額されるが、新電力側が「公正な競争を妨げ、電力自由化に逆行する」と批判するのも当然だろう。
経済産業省の審議会も制度の見直しに着手したという。上限価格は実質的に引き下げるべきだ。
国は、二酸化炭素を多く排出する旧式石炭火発の休廃止を打ち出している。その方針に沿った市場でなければならない。
非効率な火発が市場に参加できないよう、電源のふるい分けも必要ではないか。全体の価格を下げることにもつながるだろう。
道内は北電がなお圧倒的な電源を握る。大手を手厚く保護する仕組みが続けば、道民は電気料金高止まりという不利益を被る。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2020年09月26日 05:05:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。