【社説②】:不妊治療 負担軽減へ議論丁寧に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:不妊治療 負担軽減へ議論丁寧に
不妊治療は大部分が保険適用外で、助成を受けるにも所得制限があり、患者の自己負担は大きい。
高額な負担に耐えられず、治療を諦める夫婦も少なくない。
菅義偉首相は少子化対策の一環として不妊治療の保険適用拡大を掲げる。
実施には時間がかかるため、政府は来年4月から既存の助成金制度を拡充して対応する。
保険適用の拡大は2022年度の診療報酬改定に合わせて実施する考えだ。
支援の拡充は妊娠・出産を望む人たちの後押しが期待される。
不妊治療については、治療と仕事の両立など費用以外の課題にも目を向けなければならない。
子どもを望む夫婦が安心して治療を受けられる環境を整備することが必要だ。
近年は晩婚、晩産化が進み、5・5組に1組が不妊の検査や治療を経験している。17年に生殖補助医療で生まれた子どもは、全出生児の6%、5万6千人に上った。
だが、公的医療保険が適用されるのは、不妊の原因検査など初期段階の一部に限られている。
NPO法人の調査では不妊治療の治療費が総額で「100万円以上」とした人が半数を超えた。
現行では夫婦の所得が730万円未満の世帯を対象に体外受精と顕微授精は初回は30万円、2回目以降は15万円を国が助成している。ただ年齢、回数の制限がある。
通院に時間がかかり、治療と仕事の両立が難しく、女性が離職に追い込まれるケースが多い。
治療で仕事を休むための休暇制度や、出産を終えた女性への就職支援なども必要だろう。
現状では治療を行うクリニックによって治療の質や費用にばらつきがあると専門家は指摘する。
保険適用の拡大に合わせ、国は治療の指針などを策定し、医療の質の底上げにつなげてほしい。
不妊治療を受けても年齢が上がれば、妊娠・出産できる可能性は低くなる傾向があるという。
どの治療法を保険の適用とするか。現在の助成金にある治療回数の上限や年齢制限はどうするか、それぞれ検討課題となろう。
ただ、不妊治療が当たり前の状況になれば、今以上に女性に精神的な負担がかかる恐れがある。
そもそも子どもを持つ、持たないは個々の生き方だ。多様性を尊重する視点が欠かせない。
不妊治療が必要な人に支援がしっかり届くよう、制度設計する上では丁寧な議論が求められる。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2020年09月27日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。