【卓上四季】:統治者の明知
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季】:統治者の明知
通産大臣も務めた小此木彦三郎氏は、建設官僚から横浜市長に就いた夕張出身の高秀秀信氏に助言した。「人事でわからないことがあったら菅に相談してください」。1990年のことだ▼市議1期目から市幹部との朝食会などを常態化させ、市役所人事を掌握。2期目には「影の市長」とも呼ばれた(「影の権力者 内閣官房長官菅義偉」松田賢弥著)。きのう第26代自民党総裁に選ばれた菅義偉氏のことだ▼第2次安倍政権発足時には、各省庁の事務次官を集めて、「幹部人事は事前に私に相談してもらう」と告げた菅氏。霞が関人事を抑え、官邸主導の「安倍1強」体制を支えた。人心の掌握は、政治の要諦ということなのだろう▼ただ、意に沿わない場合には容赦もない。相談なく行われた日本郵政の社長人事をすげ替えたこともある。家出同然で上京し、小此木氏の秘書から市議を経て、権謀術数渦巻く世界で上り詰めた「たたき上げ」ゆえなのだろうか。その手法には、強権的との批判もつきまとう▼臣下に対する君主の心構えを訪ねる周の文王に対し、功臣、太公望呂尚は答えた。その威光で遠ざけたり、従順させて率直な上申を妨げたりしてはならない、と(六韜(りくとう))▼菅氏が継承を掲げる安倍政治には、批判も絶えない。疑惑の検証を求める声にも耳を傾ける必要があるだろう。天下の見・聞・知を集めてこその統治者の明知である。2020・9・15
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2020年09月15日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。