【今日の話題】:言葉を交わす
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【今日の話題】:言葉を交わす
今月初めに北見に異動して、市役所に転入届を出した。1月から使い始めた真新しい庁舎の1階で手続きをした。
窓口にいた女性に書類を渡し、口頭で必要事項を伝えた。すると手続きの終わりに「引っ越しお疲れさまでした」と声を掛けられた。「北見には良い所がたくさんあります。いろいろ行ってみてください」とも。少しほっとした。聞くと、同僚は転入届を出した時に、近くで食事する場所を教えてもらったという。
役所が親切に応対するのは当然かもしれない。だが食堂に「黙食」を促すポスターが目立つ今、小さな気遣いに心が和む。
もちろんコロナへの対応は万全を期すべきで、黙食の呼びかけに異を唱えるつもりはない。しかしさまざまな制限で我慢が積み重なり、ストレスも知らず知らずのうちにたまって来ている。
少し前に本紙文化欄で、写真家の藤原新也さんが、人々の非接触化が進むと腸内細菌叢(そう)が脆弱化(ぜいじゃくか)する懸念を記していた。病への抵抗力が落ちる心配がある、ということだろう。コロナの影響の幅広さに考え込んだ。
非接触が推奨される世では、コミュニケーションの形も変わっていく。日々の社内打ち合わせはオンラインになった。これはこれで便利だ。だがやはり対面での会話は時に、とがった気持ちを静めてくれる。
知らない街に来たから余計にそう思うのだろうか。コミュニケーションは不得手だが、顔を合わせ、言葉をじかに交わす大切さを感じている。(五十嵐文弥)
元稿:北海道新聞社 夕刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【今日の話題】 2021年03月30日 16:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。