新型コロナウイルス感染症拡大防止の緊急事態宣言が21日まで延期された。例年3月、4月は歓送迎会、花見などで稼ぎ時となるカラオケ業界は「3密」「飛沫(ひまつ)」のイメージが強く、昨年から厳しい状況が続く。しかし苦境を脱するために、各社は感染予防対策を徹底して独自の企画やキャンペーンを展開。もはや「歌う場所」という固定観念は崩れ始めている。コロナ禍をバネに、日本が世界に誇る身近なレジャーのカラオケ店が、変わりつつある。【笹森文彦】
カラオケルームは個室で3密となり、歌うことでの飛沫による感染、マイクやリモコンなどから接触感染するのでは、と心配する人もいる。それだけに、カラオケ業界では、徹底した感染予防対策を講じている。
一般社団法人日本カラオケボックス協会連合会などカラオケ業界の3団体では昨年5月、詳細な「感染症拡大予防ガイドライン」を作成。事業者もこのガイドラインと、自社の「感染防止対策マニュアル」を順守している。
特にカラオケ店は防音のために窓のない密室のため、「換気が悪く心配」と思われがちだが、逆にその構造から、建築基準法で機械換気設備による必要な換気量の確保を厳しく義務づけられている。
前出の連合会では藤田医科大医学部の吉田友昭教授に、またカラオケチェーンの「BIG ECHO(ビッグエコー)」では一般社団法人クリーンエアと慶大理工学部の奥田知明教授に換気状況の調査を依頼。いずれも法的基準を上回る良好な換気がなされているという結果を公表している。
各社とも「3密」は入場制限などで、「接触感染」は常時の徹底した消毒で、それぞれ対応。利用する側の感染予防の意識、行動ももちろん大切だ。世界に誇るカラオケ文化を、すたれさせたくはない。
◆笹森文彦(ささもり・ふみひこ)
北海道札幌市生まれ。83年入社。高校在学中、ヤマハポピュラーソングコンテスト(略称ポプコン)の札幌予選会に、級友バンドのドラムで出場も落選。大学在学中、アパートのあった東西線落合駅近くのスナックでバイトして、暇な時に当時のハチトラのカラオケで歌いまくった。おはこは「酒場にて」(江利チエミ)「氷雨」(佳山明生)「北の蛍」(森進一)「酔歌」(吉幾三)「You’d be so nice to come home to」(ヘレン・メリル)など。血液型A。
■<大手カラオケチェーンの企画>
大手カラオケチェーンでは、コロナ禍に対応したさまざまな企画やキャンペーンを展開している。
◆「JOYSOUND(ジョイサウンド)」
通信カラオケ機器メーカーでもある(株)エクシング傘下の直営カラオケ店。同社の注目が「みるハコ」。19年6月に最新機器「JOYSOUND MAX GO」の発売とともにスタートしたサービスで、カラオケルームに「観て楽しむ」という新たな価値を創造した。音楽ライブ、映画、アニメなどさまざまな配信映像が楽しめるほか、コンサート会場などとつないだライブ・ビューイングも堪能できる。
JOYSOUNDの「みるハコ」のイメージ
今月28日午後3時から、1日限りのイベント「ヒトカラフェスwith鬼龍院翔」を、全国の店舗でライブ・ビューイングできることが決まった。ゴールデンボンバーの鬼龍院と人気ラジオDJのやまだひさしが「コロナ禍で苦境に立たされたカラオケ業界を応援したい」と企画した。エクシング広報担当の島村舞氏は「直営店だけでなく、弊社の対象機器(「MAX GO」)を導入されている全国5000室以上で、室料だけで楽しめます。視聴者が一体となって楽しめる企画です」。
◆「カラオケまねきねこ」
(株)コシダカホールディングスが全国展開するカラオケチェーン店。同社でもカラオケルームを、歌うだけではない「プライベートエンターテインメントルーム」に進化させる種々の取り組みを行っている。
スマフォにつなぐだけのミラPon!
1つが昨年12月に導入した新サービス「ミラPon!」。専用ケーブルにつなぐだけで、自分のスマホやタブレットの中にあるコンテンツを大画面、大音量で楽しめる。IR広報室長の小室昌彦氏は「校歌とかカラオケにないものを歌えますし、ゲームやホームビデオも楽しめます」。
昨年10月にオープンした東京・渋谷本店には本格的なライブスペースがある。プロ仕様の機材を使い、ライブ映像を全国の店舗に配信できるという。
◆「BIG ECHO」
(株)第一興商が全国展開するカラオケチェーン。同社の人気通信カラオケ機器「DAMシリーズ」が全店舗・全室に完備されている。一部では、感性で評価する精密採点AIなどを搭載した最新鋭機種「LIVEDAM Ai」が導入されている。
第一興商の最新鋭機種「LIVEDAM Ai」
最近では他のカラオケチェーンも導入したテレワークプランを、17年からいち早く「オフィスボックス」として一部店舗で開始。今では全店舗で、低料金で利用できる。フリーWi-Fi、充電器等の無料貸し出し、ソフトドリンクは飲み放題。駅に近い店舗が多い利便性から、コロナ禍でもあり、昨年同時期比較で利用者数は約10倍。法人契約も増えているという。「テレワークはもちろんオンライン会議、商談のほか、最近ではオンライン飲み会、オンライン授業、楽器の練習など、『個室』としての需要が広がりつつあります」(同社広報)。
品川や横浜の関東5店舗では、10日からビッグエコーの人気メニューを「Uber Eats」で注文可能な「デリバリーサービス」を開始した。
◆「カラオケ館」
(株)B&Yが全国展開するチェーン店。緊急事態宣言が今も出されている東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県の店舗を対象に、お得な料金で利用可能な「緊急キャンペーン」を行っている。当初は緊急事態宣言の終了予定だった7日までのキャンペーンだったが、緊急事態宣言延長を受けて21日まで継続。1都3県のすべての店舗ではないが、利用条件によってはフードやアルコールが全品半額にもなる。
カラオケ館の東京・銀座総本店
感染拡大を受けて、昨年6月、「安心・安全に歌える自分専用マイク」の販売を開始した。専用ケース付きで1800円。全店で使用できる。
このほか「カラオケ館でテレワーク!」キャンペーンも好評だ。同社広報では「コロナ禍でもお客様が安心・安全に楽しんでいただけるサービスを、今後も展開していけたらと思います」と話している。
■カラオケ年間ベスト10
カラオケの年間ベスト10の上位にはその年のヒット曲が並ぶが、名曲は息長く歌われている。過去10年で見ると、95年発表の「残酷な天使のテーゼ」(高橋洋子)、98年の「糸」(中島みゆき)、04年の「ハナミズキ」(一青窈)が突出している。86年の「天城越え」(石川さゆり)、88年の「酒よ」(吉幾三)など演歌も歌われ続けている。通信カラオケ機器大手の第一興商とエクシングのデータによると、昨年のベスト3はいずれも「紅蓮華」(LiSA)「Pretender」(Official髭男dism)「マリーゴールド」(あいみょん)だ。