《社説②》:ワクチンへの異物混入 信頼守る情報開示が必要
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②》:ワクチンへの異物混入 信頼守る情報開示が必要
米モデルナ製の新型コロナウイルスワクチンに異物が混入していたケースが相次ぎ、混乱と不安が広がった。
東京、埼玉など5都県の接種会場で、未使用のワクチン39本に金属の微粒子が混入していた。黒い粒子が見つかった例もあった。
厚生労働省は、同時期に製造された約163万回分の使用見合わせを決めたが、そのうち約50万回分は既に接種されたとみられる。
さらに、見合わせの対象となったワクチンを接種した3人が、直後に死亡したことも判明した。
モデルナなどの調査によると、金属の微粒子はスペインでの製造過程で、部品同士の摩擦によって生じたという。黒い粒子は、容器のゴム栓が削れたものとされる。
モデルナは、いずれも健康への影響はないと説明している。接種後の死亡についても、因果関係が確認されておらず「偶発的に生じたもの」との認識だ。
今回の問題で明らかになったのは、海外製ワクチンの安全性確認の難しさだ。
厚労省や国内供給を担う武田薬品工業は、問題が発覚した後、原因究明をモデルナに頼るだけだった。厚労省は、今回の調査結果について、現地で確認する予定もないという。
情報共有にも課題を残した。武田が金属混入について厚労省へ連絡したのは、最初に事実を把握してから9日後だった。すぐに対応していれば、使用見合わせの対象となったワクチンの接種をもっと早く止められたはずだ。
黒い粒子についても、武田は混入する可能性があるとの情報を公表していたというが、現場では十分に理解されていなかった。
ワクチンは健康な人に投与するため、安全性の確保が最優先されなければならない。
副反応を疑う事例が起きた場合、政府が情報を集めて因果関係を検証し、健康被害を救済する仕組みになっている。3人の死亡との関連についても徹底的な解明が求められる。
ワクチンはコロナ対策の重要な柱の一つであり、政府は接種を推進する立場だ。トラブルが起きた場合には、迅速に対処し、国民の信頼に応える丁寧な情報開示に努める責任がある。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年09月11日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。