【社説①・01.12】:懲役の廃止 立ち直り支援の場に変革を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・01.12】:懲役の廃止 立ち直り支援の場に変革を
日本の刑罰のかたちが今年、大きな転換を迎える。
懲役と禁錮刑を廃止し、「拘禁刑」とする刑法改正が6月1日から施行される。
明治時代からの懲役刑では刑務作業は罰であり、働くことは苦痛として科された。今回から創設される拘禁刑は、自由の制限にとどまり、刑務作業はあくまで受刑者が立ち直る「改善更生」の手段の一つである。
収容者を呼び捨てにせず「さん」付けで呼ぶことや、刑務官を「先生」と呼ばせないなど、法務省は拘禁刑導入に先立ち、秩序維持を重視して人権意識が希薄だった組織風土の改善に乗り出している。
受刑者が自分のことを語り、刑務官と対等に向き合う一般改善指導も導入された。人間関係を築き直すことこそ、社会復帰の一歩になるだろう。
それには刑務官が、これまでの規律や管理の仕事を脱し、社会復帰への支援者であるとの意識改革を進めることは不可欠だ。さらに広く社会全体が、応報的な罪と罰についての固定観念を見つめ直し、罪を犯した人の立ち直りに心を寄せる必要があろう。
改正法による刑務作業と改善指導の位置付けを巡っては、条文の解釈次第で人権侵害につながり、かえって重罰化になる危うさがあると刑法学者らが懸念している。
刑務所長らの権限で、嫌がる人に懲罰を科すような運用をすれば、懲役と実態として変わらない。本人の主体性や意欲を重視し、刑務官との関わりの中に人間関係の温かさを感じられる処遇への転換こそが問われている。
刑務作業は、働くことのやりがいに気付く体験を基本とすべきだ。就労につながる技能習得になるよう、今まで以上に工夫してほしい。
矯正施設の実態に照らすと、制度上の課題は山積している。受刑者の高齢化率は上がり、認知症の受刑者も増えている。医療や福祉との連係は一層充実させる必要がある。立ち直りと更生を目的とする以上、認知症の人を拘禁し続けるのか、改めて議論する時期ではないか。
懲役が廃止されるが、無期刑は存続する。併せて仮保釈の制度設計も検討すべきだろう。
2021年に京都で開かれた「第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)」で採択された京都宣言では、再犯防止施策の充実も盛り込まれた。
立ち直りの支援を「保護司」として、ボランティアが担う日本独特の制度についても、大津市の殺人事件を踏まえ、見直しの議論が進んでいる。
日本の再犯率は47%と高止まりしている。元受刑者の立ち直りを阻む社会の壁を少しでもなくすよう、さまざまな職種や団体、市民社会が継続的に関わっていくことが求められる。
元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月12日 16:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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