【天風録・05.02】:鈴が鳴る道
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【天風録・05.02】:鈴が鳴る道
わずかに動く口で筆をくわえる詩画家、星野富弘さんと対談中、傍らの妻に作家の三浦綾子さんが水を向ける。夫婦げんかはするの―。「あまり無い」との答えに感心する三浦さんに種が明かされる。「けんかしそうなときは口に筆をくわえさせちゃって」
▲「三浦綾子対話集1」(旬報社)から引いた。死線をさまよう星野さんへの恋心に戸惑って、結婚前には「愛することをやめさせてください」と神に祈った人である。冗談交じりに話せるまで至った夫婦の軌跡を思う
▲それほど愛され、そして愛した星野さんが78歳で亡くなった。不慮のけがで手足の自由を失い、闘病中に見つけた絵手紙風の詩画が生きがいとなった
▲野の花を好んで描き続けたが、野道は苦手だった。電動車いすだとガタガタ揺れ、「脳みそがひっくり返る」感じがしたらしい。ある日、車いすに鈴をぶら下げてみると、「チリーン」。鳴る鈴に心洗われるようになり、凸凹道が楽しみに変わった
▲随筆に書いている。〈人も皆、この鈴のようなものを、心の中に授かっているのではないだろうか〉。平らな道で鈴は鳴らない。人生の凸凹道でうつむく心に、詩と絵で鈴を思い出させる人だった。
元稿:中国新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【天風録】 2024年05月02日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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