【社説・12.01】:避難所の改善 雑魚寝の光景、もう変えよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.01】:避難所の改善 雑魚寝の光景、もう変えよ
命の危険を免れたはずの多くの被災者を、またも救えなかった。能登半島地震の発生から11カ月で、避難中に亡くなる災害関連死が247人に上った。建物倒壊などによる直接死を超えたのは2016年の熊本地震に続く事態だ。
避難生活は長期の停電や断水に見舞われ、とりわけ高齢者に厳しかった。避難先を転々とした被災者も多く、肺炎や心臓病を患ったケースが目立つ。生活環境が悪ければ関連死誘発のリスクは高まると発災当初から指摘されていた。教訓をなぜ生かせないのか直視しなければならない。
被災者はもちろん、報道で知った避難所の光景にがくぜんとした人は多かろう。学校体育館での雑魚寝が象徴である。プライバシーを保護するテントや間仕切り、段ボールベッドが誰にでも、また速やかに届くことはなかった。関連死が知られるようになった阪神大震災から30年近くたっても状況は変わっていない。
石破茂首相はおとといの所信表明演説で、避難所での生活環境を改善すると強調した。関連死ゼロを実現するため、人道の視点から最低限の設備を定めた国際基準「スフィア基準」を踏まえるとした。確実な実行を求める。
被災地で活動した専門家らは「TKB」といわれるトイレ、温かい食事を提供できるキッチン、ベッドを支援の標準にすべきだと提言している。福祉の助けが必要な家族が過酷な避難所を避けるため車中泊や在宅を選んだ結果、支援が及ばなくなる現状も問題視されている。
避難所の開設は災害対策基本法に基づく市町村の自治事務である。しかし人材や財源の不足に悩む市町村は多い。突然やってくる災害に、ノウハウが乏しいまま対応に臨むことになる。能登のように過疎地の小さい自治体が人員不足で業務が追いつかない事態は少なくない。
国はこれまで避難所の運営ガイドラインを示し、高齢者らを受け入れる福祉避難所の仕組みは整えた。市町村からの要請を待たず物資を送るプッシュ型支援も広げる。だが自らはあくまで助言する立場を変えないまま、基準だけ引き上げても改善できるのか。
災害が頻発する今、避難所は社会インフラの一つだ。国の責任で、生活の質を保てる避難所を自治体が運営できる仕組みづくりを急ぐべきだ。
企業や災害ボランティアと連携した避難生活の支援が、その一つだろう。現行では原則、被災した自治体と住民が避難所運営を担い、受け入れには差がある。能登半島地震の課題を検証した中央防災会議の作業部会がまとめた提言は、この点に重点を置く。
専門性のあるNPOや民間団体がすぐに駆けつけられる登録制度の創設や、トイレトレーラー、キッチンカーのデータベース化など提言は多岐にわたる。事前の役割分担なしでは機能しないからだ。
石破政権は避難所を改善する施策を24年度補正予算に盛り込む。南海トラフ巨大地震の被害想定で、関連死を示す動きもある。具体策は待ったなしと肝に銘じたい。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月01日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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