【社説①・01.11】:芸能事務所の悪弊 不公正な慣習を改める時だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・01.11】:芸能事務所の悪弊 不公正な慣習を改める時だ
俳優やタレント、歌手などの移籍や独立を、芸能事務所が不当に妨げる。本名が仕事で使えない-。芸能界でまかり通ってきた不公正な慣習を改める契機にしなければならない。
公正取引委員会が芸能人と芸能事務所の取引に関する初めての実態調査を行った。ブラックボックスだった問題の一端が当事者から明らかにされ、旧態依然の業界体質が浮き彫りになった。
公取委は年内に改善への指針をまとめ、アニメや映画業界の実態も調査するという。コンテンツ制作に携わる人たちの権利と自由の侵害を許さぬようなルールの整備が求められる。
きっかけは、2019年、独立した「SMAP」元メンバーを出演させないようテレビ局などに圧力をかけた疑いがあるとして、公取委がジャニーズ事務所(当時)を注意したことだ。
NHKドラマ「あまちゃん」で人気者になった能年玲奈さんは15年の独立騒動後、テレビ出演が激減。契約問題から芸名を本名から「のん」に改め、物議を醸した。ほかにも芸能人が事務所を離れると、活躍の場を失うことが続いてきた。
公取委の聞き取りでは、移籍や独立を巡り「もし辞めたらつぶすぞ」と事務所から脅されたり、高額な移籍金を要求されたりする事例があった。「女性関係にだらしない」などと悪評を流されるケースや、契約解消後に芸能活動を一定期間、禁じられる例なども報告された。
こうした行為について公取委は、独禁法が禁じる優越的地位の乱用や取引妨害に当たる恐れがあると指摘。事業者に注意を促した上、悪質なケースは立件も含めて対処する姿勢を示す。
芸能界は、事務所が芸能人と専属マネジメント契約を結ぶのが一般的で、業界内からは「若手育成への投資が回収できないまま辞められては会社が成り立たない」との反論も聞かれる。
だが、力関係で圧倒的に弱い立場の芸能人は、さまざまな不利益を被りやすく、ハラスメント被害も相次ぐ。日本社会の意識も変わり、合理的な理由なく個人の自由を縛り付ける慣行は受け入れられる時代ではない。
トラブル多発の背景には、不透明な契約慣行がある。調査では、所属芸能人との契約を全て口頭で行っている事務所が2割を超え、契約内容を明示していない例も約1割あった。
望まない身体の露出など出演内容を巡るトラブルや、出演作品の利用許諾でも、事務所側の意向が過度に反映される場合が多いという。明確な内容の書面契約を浸透させるべきだ。
芸能事務所と関係の深いテレビ局側の姿勢も問われている。旧ジャニーズの性加害問題では大手プロダクションに依存して出演者起用も言いなりになり、人権侵害を放置してきた。その後の反省姿勢が現場に生かされているのか検証が欠かせない。
元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月11日 16:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。