【社説・01.12】:医師の偏在対策 踏み込み不足が否めない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.12】:医師の偏在対策 踏み込み不足が否めない
適切な人材を確保し、全国どこでも不安なく医療を受けられる環境を整えてほしい。
医師偏在を是正する総合対策を厚生労働省がまとめた。医師が不足がちな地域で勤務する際の経済的な支援や、医療機関が多い地域での開業規制、医師を求める医療機関への仲介支援などが盛り込まれた。厚労省は通常国会で関連法案を成立させ、2026年度の実施を目指すという。
国民皆保険制度の下、日本は良質で安価な医療を実現してきた。将来、高齢化が進んでも制度を維持することが欠かせない。その鍵を握る医師の適材適所の配置に、政府は真剣に取り組む必要がある。
日本の医師は現在34万人。世界で見ればまだ少ないとはいえ、医学部の定員増もあって40年前と比べて倍増している。本格的な人口減少時代を迎え、数年先には逆に医師過剰が想定されることを踏まえれば、絶対数不足と言うより偏在と見た方がいいだろう。
厚労省の資料を見ても、東京などの大都市に医師が集中しているわけではない。人口当たりで比較すると、医師の割合が最多なのは過疎化の進む徳島県であり、最少は首都圏にある埼玉県である。
小児科医は鳥取県が全国最多の一方で、同じ中国地方の山口県が最少。外科医は岡山県が最多だ。偏在には地域の事情もある一方で、診療科による事情もある。それぞれを是正していくことが求められていよう。
総合対策には過疎地で働く医師への経済的支援や、地元での一定期間の勤務を義務付ける「地域枠」確保など既視感のある内容が多い。診療科の偏在対策に具体性がないことには物足りなさを感じる。
勤務医の残業時間を規制する「医師の働き方改革」が昨年始まった。手術を減らし、救急患者の受け入れを制限する病院も現れている。この総合対策で果たして十分な改善ができるのだろうか。
日本は医師が少ないとされる一方で、病院や病床は世界有数の多さである。限られた医師を多くの病院が奪い合う構図が、医師偏在の原因になってきたと指摘されている。
脳神経外科や循環器内科は高度で専門的な医療を行うために複数の医師がチームを組んで24時間体制で対応する。そんな診療科を持ち、救急救命も担う大病院が、同じ医療圏内に多数存在する地域も少なくない。病院同士が役割分担することや、病床数の見直しを進めなくては、大幅な状況改善など望み薄だろう。
医師偏在は04年の新臨床研修制度開始後にとりわけ顕在化した。ただ、研修医自らが勤務先を選べる仕組みは評価できる。救急や外科などの激務の勤務医が敬遠されて人材不足なのは理解するが、だからといって医師の自由意思を縛るような手法はできるだけ避けるべきだろう。
総合対策には偏在について「国、地方自治体、医療関係者、保険者等全ての関係者が協働して取り組む」と記されている。それはその通りだ。全ての関係者が当事者として向き合い、さまざまな角度から議論を尽くしてほしい。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月12日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます