【社説・12.12】:被団協平和賞演説 核廃絶の決意発信した
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.12】:被団協平和賞演説 核廃絶の決意発信した
核廃絶と被爆者救済の訴えに国際社会は真摯に向き合わなければならない。とりわけ日本は唯一の戦争被爆国として核廃絶に向け先導的役割を果たすべきである。
日本原水爆被害者団体協議会(被団協)にノーベル平和賞が授与された。代表委員の田中熙巳(てるみ)さんは受賞演説で、ロシアによる核威嚇、イスラエルの閣僚による核兵器使用への言及について「市民の犠牲に加えて『核のタブー』が壊されようとしていることに限りない悔しさと憤りを覚える」と述べた。
数万人もの人命を一瞬で奪い、その後も放射能被害が被爆者の心身をむしばむ。残虐な兵器であるゆえ、為政者は「核のボタン」を押してはならない。この「核のタブー」が揺らいでいることへの危機感を表明したのである。
同様に、フリードネス・ノーベル賞委員長も、被団協の平和賞受賞理由に「核のタブー」確立への貢献を挙げつつ、核使用が現実味を帯びていることに危機感を示した。
授賞式が「核のタブー」を守り、核廃絶の決意を発信する場となった意義は大きい。
核威嚇は国際社会に対する許しがたい脅しである。核抑止力の均衡ではなく核廃絶による平和構築こそが国際社会が目指すべき姿だ。身を持って核兵器の恐怖を知る被爆者らの言葉を核保有国は重く受け止めるべきである。
被団協が発足したのは1956年である。背景には54年3月に起きた「第五福竜丸事件」を契機とした原水爆反対運動の高まりがあった。
被団協が掲げる基本要求は核兵器の廃絶と原爆被害への国家補償である。この運動が「核のタブー」の確立につながった。被団協が提案し、各国の被爆者団体に広がった「核兵器の禁止・廃絶を求める国際署名」は2017年の核兵器禁止条約に結実した。
しかし、被団協が掲げる要求と距離を置いているのが、他ならぬ被爆国日本であることは極めて残念である。
日本政府は依然として核兵器禁止条約に批准していない。被爆地である広島市、長崎市が求めている核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加にも明確な態度を示していない。そればかりか石破茂首相は米国と日本の「核共有」に言及した。核抑止力への執着は被爆国の取るべき態度ではない。
受賞講演の中で田中さんは「何十万人という死者に対する補償は一切なく、日本政府は一貫して国家補償を拒み、放射線被害に限定した対策のみを今日まで続けている」と述べた。この訴えを政府は無視してはならない。
被団協の平和賞受賞は、核戦争回避への努力と核廃絶への決意を国際社会に強く迫るメッセージとなった。政府はこのメッセージを受け止め、締約国会議へのオブザーバー参加と条約批准に踏み切るべきである。そのことが被爆国の責務である。
元稿:琉球新報社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月12日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます