【岸田政権】:2年たったけど…「低位安定内閣」の返上は遠い? かすむ看板政策 説明不足の大転換
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【岸田政権】:2年たったけど…「低位安定内閣」の返上は遠い? かすむ看板政策 説明不足の大転換
岸田政権の発足から4日で2年となった。岸田文雄首相は、前政権から引き継いだ安全保障政策の大転換や原発回帰などを推進したが、国会での議論も不十分で、国民への説明を尽くしたとは言い難い。「新しい資本主義」をはじめとする看板政策は成果に乏しく、自民党総裁の任期が残り1年を切っても岸田カラーは見えない。(近藤統義)
◆リベラル色どこへ 防衛費大幅増、原発回帰
「これからも先送りできない課題に一つ一つ正面から向き合い、決断し実行していくことが重要だ」。首相は3日、官邸で記者団にこう述べた。岸田派として引き継ぐ自民党派閥の宏池会は「軽武装、経済重視」のリベラルとされるが、目の前の課題に対処するという現実主義を重視する思いをにじませた。
その最たる例が安保政策だ。昨年2月にロシアがウクライナに侵攻すると、核ミサイル開発を強行する北朝鮮や海洋進出を強める中国の脅威を念頭に「ウクライナは明日の東アジアだ」と危機感を強調。防衛力強化を訴え、憲法の平和主義の理念を尊重して歴代政権が控えてきた防衛費の大幅増や敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を決めた。
原発政策もエネルギー価格の高騰を理由に「福島以前」に回帰。原発の建て替えや運転期間の延長を認める基本方針を今年2月に閣議決定し、2011年の東京電力福島第1原発事故を受けた脱原発の方向性を変えてしまった。
◆安倍政権からの宿題こなすだけ
いずれも歴史的な「大転換」にもかかわらず、国民の理解を得るための丁寧な説明があったかどうかは疑問符が付く。敵基地攻撃能力の保有に関しては「手の内は明かせない」と曖昧な答弁を国会で重ね、原発の積極活用も国民的議論がないまま決めた。
これらの政策は安倍政権からの積み残しで、反対を押し切って開始した福島第1原発の処理水放出も菅政権が敷いたレールだ。その「宿題」をこなすだけで「何が本当にやりたいことなのかよく分からない」(省庁幹部)との声が上がる。低迷する内閣支持率は日韓関係の改善や5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で持ち直したが、下落傾向は続いている。
◆少子化、物価高…どう解決したいのか
首相はかつて金融所得への課税強化を訴え、富裕層や大企業を優先して格差拡大を招いた「アベノミクス」を見直すかに思われたが「金融市場の反応を受け、徐々に修正」(首相周辺)。「新しい資本主義」では、自身がこだわっていたはずの「分配」はかすみ、いまだに理念も成果も見えない看板倒れの状況だ。
「異次元の少子化対策」も児童手当の大幅拡充といった項目は示されたが、財源確保など具体化作業はこれから。少子高齢化や格差是正、物価高といった懸案に対し、どんな問題意識を持ち、どう解決したいのかはっきりしない。
政権浮揚に向けて「最優先に取り組む」のが今月中にまとめる経済対策だ。衆院解散・総選挙を意識してか、税や社会保障負担の軽減を行う姿勢を示すが、一時しのぎではなく、国民全体の所得を底上げできるような道筋を示せなければ「低位安定内閣」(自民関係者)からの脱却は遠い。
◆「過渡期的な政権に終わるかの瀬戸際」
岸田文雄首相の政権運営の特徴や評価について、東京大先端科学技術研究センターの牧原出教授(行政学)に聞いた。
コロナ禍やウクライナ危機、物価高など来た球を打ち返す対症療法のような政治に終始している。政権発足時に打ち上げた「新しい資本主義」や「デジタル田園都市国家構想」に取り組む余裕がないのか、政権の軸にはなっていない。岸田カラーを出さないままになっている。
「聞く力」で求められるのは、国民のニーズに的確に対応するということ。対症療法的な政策では比較的ニーズに応えているが、首相が主導した安倍晋三元首相の国葬は世論の反対が多く、聞く力を発揮したとは全く言えない。東アジアでの有事や大規模な自然災害など、行政的対応では限界がある危機が起きたとき、岸田首相では心もとない。
今のように来た球を打ち返しているだけでは支持率は上がらないだろう。第2次安倍政権の誕生から10年が過ぎ、状況は変化している。異次元金融緩和や安全保障など、安倍政権とは異なる大きな構想に支持が集まると思う。その構想を出すのが岸田首相とは限らない。岸田政権は新しい政治構想が出るまでの過渡期的な政権に終わりつつあり、今は瀬戸際にあるといえる。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 政治 【政治・岸田政権】 2023年10月04日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます