カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

このイカれた世界へようこそ!

2013-08-13 21:59:45 | 即興小説トレーニング
 自ら選び取った道とはいえ、同人界に於けるマイナージャンルは何時だって物悲しい。

 原作である漫画やアニメが有名であっても同人的に活動者が少ないジャンルならともかく、そこそこ有名ではあるが一般受けする作品ではなく、更に連載がとうに終了していようものなら間違いなくオワコン扱いだ。
 もちろんオワコンだろうと何だろうと己の萌えに忠実たらんとするのが本来の同人者の有るべき姿であるのだが、その萌えを捨てて新たなる萌えに移行するのもまた、同人者として間違ってる訳ではないから物悲しい。

 そんなことをつらつらと考えながら、私は購入したばかりのイベント申込用紙の必要事項を埋めていく。昨今はアナログだけでなくネットでも申し込みが可能になったが、私は頑なに手書きを通している。ネット申し込みが良く判らないわけではなく、単に手書きが好きなだけなのだが。

 思えば学生時代から同人活動を始めて以来、本当に色んな事があった。
 当初は隅っことはいえ超人気ジャンルで萌えを発散していたが、あの頃の超人気ジャンルは現在のそれとは違って本当の意味での一大ムーヴメントだった。ただ、それ故に手に負えないものを感じた私が次に目指したのは相当のマイナージャンルだった。そして、マイナージャンルであるが故のしがらみというものを思い知りつつ撤退した。まだネットが普及していない頃、ちょうど日本中がバブルとやらで浮かれていた頃の話だ。

 やがてネット環境が整った頃、私が嵌ったのはやはり良く知らないマイナージャンルの、しかも特定の描き手さんの作品だった。昨今では珍しくもない『原作知らないけど描き手の作品が好き』だが、その原作から再び自分が描き手に戻るとは予想すらしていなかった。

 己の萌え発散、創作活動、同士との交流、そして恐らくは承認欲に対する充足。
 全く以て同人活動は度し難く、それ故に素晴らしいものであるが、一般人には黙っていよう。 
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仮面の告解

2013-08-12 19:42:40 | 即興小説トレーニング
 私はもう死にますと、病床の妻は言った。
 だから、許してくださいと。

 貴方とお金目当てで結婚したことも、
 ろくに家事をしなかったことも、
 実は大嫌いだった子供を作ることを頑なに拒んだことも、
 浮気とすら思わずに複数の男性と付き合いを続けたことも、
 優しかった貴方のお母さんを苛め抜いたことも、
 何もかも、許してくださいと。

 だから、僕は答えた。
 昔の話だと。
 だから、全て忘れようと。

 妻は言った。
 有難う、貴方が私の夫でいてくれて本当に良かったと。
 そして、間もなく言葉通りに亡くなった。
 死に顔は、穏やかだった。

 そして、僕は言葉通りに全て忘れることにした。
 妻と結婚した経緯も、過ごした日々も。
 家事をしない妻に代わって料理を作っていた僕が、
 日々、妻の食事にだけ毒を盛っていたことも。

 生命保険会社から支払われた保険金は、結構な額になった。
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ぼくのゆめ

2013-08-12 18:42:19 | 即興小説トレーニング
 変わった形だからと言われて、僕は買われました。
 それから随分と長い間、振り回されたり投げ捨てられたり叩き付けられてきました。
 でも、それが僕の役目でした。それだけは良く判っていました。

 洗われるどころか拭かれることもなく、僕の白い身体は見る見るうちに薄汚れ、ふわふわだった毛皮も埃と脂を吸い、ごわごわと纏い付く塊となっていきました。
 でも、それが僕の役目でした。それだけは間違いありませんでした。

 ある日、僕は他の色々なモノと共に段ボール箱の中に放り込まれて封印され、押し入れに仕舞い込まれました。そのままずいぶんと長い時間を過ごした気がしますが、幾度となく押し入れの扉が開けられても、僕と、僕を詰め込んだ段ボールに対する封印が解かれることはありませんでした。
 でも、それが僕の役目でした。それだけは運命なのだと納得することが出来ました。

 やがて、再び段ボールから出された僕は即座に色の付いたビニール袋に入れられ、そのまま不燃ゴミとして捨てられました。収集車に運ばれた先で焼却処理施設の釜に入れられ、自分の身体が炎に包まれて灰と化していくのを感じながら、最期の意識で僕は思いました。

 僕は幸せでした、僕は幸せでした。
 でも、僕が本物のアルパカに生まれていたとしたら、一体どんな生き方をしていたのだろうと。
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煉獄の祭典

2013-08-12 17:25:32 | 即興小説トレーニング
 とめどもなく流れる汗が乾きもせずに背中を濡らし続けているのが判ったので、僕はペットボトルをもう一本、自販機で購入した。最近流行りのソルティータイプにしておけば、己の肉体から失われたモノが少しは取り戻せるだろうか。

 言うまでもないことだが、今年の夏は記録的というよりは殺人的、それも必殺レベルの酷暑記録を日々更新し続けている。そして僕の向かうイベント会場はオフィス街のラッシュアワーより酷い密度の満員電車に詰め込まれ、吐き出された駅から向かった眼前にあるはずの会場に、信じられない程の時間と忍耐を酷使しながら何とか辿り着き、広々と横たわる碌に風の通らぬ空間に整然と並んだ折りたたみ長机とパイプ椅子で構成されたスペースに陣取って本日までの成果としての同人誌やグッズを展示しているサークル側と、その狭間をウロウロしながら目当てのブツを購入して回る、僕を含む買い手たちで溢れかえっているわけだ。

 ふと見上げると、無骨な骨組みを晒した倉庫の高い天井には白く霞んだ靄が浮かび、とうとう意識が薄れてきたかと不安になるのだが、全く奇跡的に(正に砂漠の砂粒から砂金の一粒を見付ける確率で)偶然電車で出会い、同行することになった友人も同じモノが見えていたらしいので安心する。

「あれはコミケ雲と言って、晴海のガメラ館あたりでは良く見られた雲だけど、今年も出たんだねー」

 キサマは何時の時代からこの地獄に入り浸っているんだという突っ込み必至の呟きが思わず口をついて出る。一説によるとアレは参加者全ての煩悩や欲望や、とにかくそう言ったモノが視覚化してたゆたっているのだと言うが、そうだとしても驚くには価しない。

 何より恐ろしいのは、イベントが終わった僕は友人たちと予約した店に繰り出し、打ち上げと称した宴会を行うことが既に決まっていることだ。だから僕は、全くの比喩ではなく何十年も、年に二度発生するこの修羅場から逃れることが出来ないでいるのだ。
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色は赤いが、火星じゃ美人

2013-08-10 08:22:41 | 即興小説トレーニング
 この宇宙時代、遺伝上の子孫を残したい場合はともかく、どのようなフォルムの相手であろうと恋愛は自由だ。ヒューマノイドタイプ、海棲タイプ、飛翔タイプ、獣タイプ、自由自在だ。
 そんな訳で僕は蛸型異星人の恋人を両親に紹介したら、発狂したのかと思うほどに泣かれた。

「いや父さん母さん、彼女はわざわざテラフォーミング処理を受けての永住希望者だから」
 それだけ地球と、あと僕を愛してくれているんだよという説得にも耳を貸してくれない両親。
「孫はどうするんだ、孫は!」
 金切り声を上げる父に、僕は少しだけ憤慨して答える。
「何言ってるんだよ、今時子どもを作るかどうかなんて夫婦だけの問題だろう?」
「花嫁衣装はどうなるのよ!」
 今度は母親が叫んだ。
「そんなもの、僕に着ろって言うの?」
「母親にとって、娘の花嫁衣装は夢なのよ!向こう様に申し訳ないと思わないの!」
「いや、彼女の母星にも花嫁衣装くらいあるから、見せて貰ったことがあるけど、コレがなかなか…… 」
 僕の言葉は更なる二人の絶叫に掻き消された。確かに一人息子の結婚話ともなれば冷静でいられないのは判るが、コレは少々常軌を逸しているのではないかと思った僕は、とにかく粘り強く両親を説得に掛かり、ありとあらゆる言葉を尽くした結果として、二度とうちの敷居を跨ぐなと勘当された。

 そんなわけで駆け落ち同然に故郷を離れて暮らしはじめた僕らだが、今は二人で幸せに暮らしている。異星間の結婚認定には信じられないくらい面倒な手続きが必要なので、まだ籍は入れられないのだが、彼女は驚くほど器用に仕事と家事を、その複数ある触手でこなしてくれたし、たまに吸い付くような、噛まれると悲鳴を上げるほど痛い嘴を使った情熱的なキスを仕掛けてくるのだ。
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狩りの果てに

2013-08-09 21:55:15 | 即興小説トレーニング
 狐狩りは貴族の趣味だと、奴は言った。
 犬をけしかけ、馬で追い、必ずや、その毛皮を手にするのだと。

 奴は常に、そうやって生きてきたのだろう。
 名門の嫡男、整った容姿、優れた頭脳、そして、放漫でありながら多くの人を惹き付ける言動。
 だからと言って、俺は奴の思うままになる必要を感じなかった。それが屈辱だったのか、奴は何とか俺を取り込もうとして、俺は常にその誘いをかわし続け、その結果、多くの人間関係を失った。おかげで世間には自分の利害に関わりのないところで他人同士の仲を取り持つのを趣味とするもの、己の利になるため他人を他人に売り渡すもの、他人同士の諍いに巻き込まれたくない故に中立という無関心を貫こうとするものが結構多く存在することを思い知ったが、これは良い勉強になったと言うより俺の人間不信を増大させる結果となった。

 学校を卒業してもそれは変わらず、奴はしつこく俺に付きまとい、俺は更に逃げ続けた。
 なぜ俺が追われるのか、なぜ奴が俺を追うのか、そんな理由は考えることもなく、ただ、逃げ続けた。
 
 だが、何故か奴はある時期を境に俺への追跡を止め、俺の周囲は久し振りに静かになった。
 これでようやく俺にも平和な生活が訪れ、やがて一人の女性と出会い、結ばれ、子どもも出来た頃。奴は再び俺の前に現れた。これでもう逃げ切れないだろう、君が巣穴を作るのを待っていたのだと。

 結局、俺は奴に取り込まれることになった。あれだけのことをしておきながら、何故か奴は俺を側に置き、身の回りの世話を殆ど任せてきた。その気になれば、いつでも俺が奴を害することが出来る立場に俺を置き、そして言った。

 君は、いつまでも私の狐のままでいてくれて良いと。
 
 
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大いなる助走と疾走

2013-08-08 22:30:04 | 即興小説トレーニング
 今年の小説新人賞は確実に頂きだね!と豪語する友人に、私はどういう顔をすれば良かったのだろう。
 確かに友人の文章は技巧を凝らした端整なものだ。だが、読んでいて楽しくはない。何というか、絡みづらい。多分、技巧を凝らした自分の文章に作者である友人自身が酔っているからではないかと思うが、非常に感情移入しにくい。

 私には貴方の小説がわからないから、とか何とか言いながら取り繕うと、友人は一瞬だけ明らかに不満そうな表情になってから、まあ仕方ないよねと頷きながら微笑んだ。
「そうだよね、アタシの文章って少し一般向けじゃないし。だからラノベとか、ありきたりの恋愛小説とか、あっちの方には興味がないし」
 アンタ普段はそんな本しか読んでいないんでしょう?と哀れんだ目を向けてくる友人。私が今読んでいるのはスエン・ヘディンの『中央アジア探訪記』なのだが、当然口には出さない。
「まあ、仮に受賞してブレイクしてもアンタとは友達でいてあげるよ」
 有難うとでも言えば喜んだかも知れないが流石に疲れたので、私は自分の分の食事代をテーブルに置いて立ち上がった。
「あれ?足りないよ、奢ってくれるんじゃないの?」
 今度こそ友人の言葉を全く聞かなかった振りをして、私は足早に店を出る。

 そして、担当と自作の打ち合わせをするために、とある出版社の編集部に向かった。 
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愛の料理

2013-08-07 23:10:00 | 即興小説トレーニング
 川に枕し、石に嗽ぐ。
 いわゆる頑固なひねくれ者のことだが、たかが味噌汁の好みごときで、そんな風に罵られるのは心外だった。

 良くある話だが、僕の故郷は赤味噌圏、妻の故郷は白味噌圏だ。一人で暮らしている際は面倒なのと、小鍋とはいえ一杯に作るのが不経済だと思って専らインスタントで済ませていたし、彼女だった頃の妻が時々僕のアパートに来て作ってくれたのは、いわゆる小洒落たイタリアンやら市販の調味剤を使った中華料理だったので問題はなかった。だが、結婚して朝晩の食事を共にするとなると話は別だ。
 はじめは密やかに、妻が気付く気配がないので更に一押し、押した際の反応が芳しくなかったので隠し立てなく明確な要求を言ったら喧嘩になった。

 妻の言い分は、早い話が出されたものに文句を言わず黙って食べろと、まあそんな当たりで、僕の意見は、結婚前には食べたいものを作ってくれると言ったじゃないかと言うものなので、まあ、こっちの分が悪いのは仕方がない。けれど、夫の好みに妻が少しくらい合わせてくれても良いじゃないか。

 そう思って職場の先輩に相談したら、食えるものを作って頂いている身で贅沢を抜かすなと冷たい答えが返ってきた。
「反論するなら一度、うちに飯を食いに来い。藍子の手料理を振る舞ってやるぞ」
 そんなわけで先輩の家で奥さんの手料理を頂いた僕は、妻に土下座して謝りたい気分になった。
 表面が苦黒くて噛むと薄甘いトンカツを、ざく切りキャベツと一緒に無理矢理とんかつソースを掛けて頂く生活を送っていたら、確かに普通の味の料理はご馳走だろう。

 人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。
 家に帰って料理に箸を付ける際、先輩の脳裏に必ず浮かぶ言葉だそうだ。
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ナゾの犬

2013-08-06 23:28:16 | 即興小説トレーニング
 そいつを雨の中で見付けたときは、何たって酷い有様だった。例えるなら濡れそぼった上にゴミが絡まって汚れるだけ汚れたモップだ。

 ヒャンヒャンとしか聞こえない声で泣くので一体何という動物だろうと思いながら連れ帰り、風呂場で洗ったら犬のように見えたので、多分犬だろうと見当を付けて友人の小沢に電話を入れた。
 犬のようなものを拾ったと話すと、完全猫飼い派の小沢は凄まじく嫌そうに話を打ち切ろうとしたが、何とか頼みこんで良い獣医を紹介して貰う。

「言っておくが、食べ物だろうとミルクだろうと人間のものは食わせるな。連中にとっては毒だ」
 そんな忠告を受けた後で礼を言って電話を切った俺は、段ボールに古タオルを敷いた中に犬のようなものを入れ、獣医まで連れて行って診て貰った。
 単に腹を空かしているだけで病気はないと言われたので、取りあえず推奨ドッグフードと犬飼いに必要な用品を購入することにした俺は、先程から不思議に思っていた事を訊ねてみる。
「ところで、これなんて種類の犬ですか?」
 すると獣医は少しだけ眉をひそめて答えた。
「うーん、雑種なのは確かだけど、これだけ混じっていると、ちょっと判らないね」

 取りあえず両親に頼みこんだ結果、世話は俺がやるという約束で飼いはじめた犬に『もっぷ』と言う名前を付け、新しい生活が始まった。
 もっぷは頭が良く、トイレの躾やお手、お預けや取って来いなど一度教えただけで完璧に覚えた。
相変わらず外観からは何の動物か判りづらかったが、雑種犬だと紹介すると大抵の人は納得してくれた。

 もっぷとの生活は楽しいが、一つだけ気になることがある。
 たった一年で大型犬と同じ大きさになったコイツは、最終的に一体どれだけでかくなるのだろうか?
 
 
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閉じる記憶のその裏に、幼い姿の君と僕

2013-08-05 22:17:39 | 即興小説トレーニング
 和喜の子どもの頃の写真と言えば、野球帽を被った半袖半ズボン姿で、クルー丈ソックスにアニメや特撮のキャラ靴を併せて履いているというのが相場だった。礼服の写真もないわけではないが、そんな写真は全くの別人に見える。

 そんなわけで友達と遊ぶのも、当時はまだ少なくなかった空き地で草野球や鬼ごっこ、住宅街の狭間で缶蹴り、ある程度大きくなってからは、自転車で遠くの町を目指したり、まあ、現在の外見からは想像も付かない、かなりアクティブな子どもだった訳だ。

 時に仲良しはガキ大将だった敬吾くんで、学区は違ったが、引っ越してきたばかりで右も左も判らなかった和樹を何度も遊びに誘ってくれた。子ども達のリーダーと言って良い敬吾くんのお気に入りと言うことで、敬吾くんの友達は何の抵抗もなく和喜を受け入れてくれ、その頃の和喜の日常は、かなり楽しいものだった。

 夢の終わりは、ありがちな親の転勤。
 和喜が自力で築き上げた子どもの世界は、こうやって何度も壊されてきたのだが、当時は子どもであった和喜に抵抗の術は一切なかった。

 引っ越すんだと打ち明けた時、敬吾くんは一瞬絶句してから和喜の顔をまじまじと見詰め、どうにかならないのかと訊ねてきた。
 どうにもならないよ。両親にさんざん言われた言葉を和喜が繰り返すと、敬吾くんは凄く怒ったような表情で和喜から顔を逸らして、どこかに行ってしまった。

 やがて引っ越し当日、トラックに荷物を積み込まれるのを、ただぼんやり眺めていた和喜に掛けられる声。振り向くと、そこには相変わらず仏頂面の吾くんがいた。
「これ、やる」
 言うなり敬吾くんは大事な宝物だった筈のシール手帳を押しつけてきた。ちなみにシール手帳というのは、アニメや特撮の名場面やキャラクターをシールにしたものを貼り付ける専用アルバムのようなもので、コンプリートには子どもにとって相当の根気と財力がいる。
「え、でも」
「いいから、やる!」
 そのままシール手帳を置き去りに、その場を駆け出す敬吾くん。追いかけようとしたが、もう出発の時間だからと母親に止められた。

 移動中の車の中でめくってみた手帳には、以前『特別だからな!』と見せて貰ったときに空いていた部分も含めて全てのシールが貼り付けられていた。あれから運良く揃ったのか、和喜の引っ越しに合わせて必死で集めたのか、そこまでは判らなかったが、和喜は引っ越し初日の夜、布団の中で一人静かに泣いた。
 それからシール手帳は和喜の宝物になったが、更に何度か繰り返された引っ越しの幾度か目に行方不明となってしまった。

 それはもう、全て昔の物語。和喜は巡り行く季節の中で何度も出会いと別れを繰り返し、やがて結婚して家庭を持った。子どもも二人授かった。
 ちなみに夫の名前は敬吾と言うが、どうやら子どもの頃仲が良かった『わーくん』と、わーくんが引っ越しするときに渡したシール手帳のことは未だに覚えているらしい。
 
 とりあえず『わーくん』がシール手帳をなくしたことは、例え墓の下に入っても黙っていようと和喜(わき)は思った。
 
 
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