金曜夜の美術館シリーズ。今週は王立美術院(ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ)で先週から始まった「ドガとバレエ展」に足を運んだ。有難いことに、王立美術院は、金曜日は夜10時まで開館している。
副題に「動きを描く」とあるように、ドガがバレエの動きを絵に描いたがテーマ。バレエスタジオでの練習風景を描いた初期の作品から、晩年までバレエのスケッチ、パステル画、油彩、彫刻作品が、オルセー、メトロポリタン(NY)、近代美術館(NY)、ワシントン、ハーバード大学、デトロイト、ローザンヌ、トレド、グラスゴーなどなど世界中の美術館や個人から集められて展示されている。
私はドガのバレエの絵は、臨場感、構図や色合いがとても好きで、特にロンドンのコートルードギャラリーにある「舞台の2人の踊り子」(冒頭の絵。今回のこの美術展にも展示)はお気に入りである。今まで、いろんな美術館で1枚ないし数枚のドガのバレエの絵を鑑賞することはあっても、こうして画家の一生を通じてのバレエの絵を集まった個展を見るというのは、初めての経験である。よくもまあ、こんなにバレエに執着して描き続けたものだと、それだけで感心する。よほどバレエかバレリーナが好きなのだろう。さしづめ、バレエ・フェチなのかと。
しかし、この個展を通して相当数のドガのバレエの絵を見て感じたのは、果たしてドガはバレエが本当に好きだったのだろうか?という疑問だった。練習風景、スタジオでの休憩、舞台での踊りなどの絵から感じるのは、どれも醒めた観察者から見た一場面であり、私には絵描きの対象への情熱や愛情は全然感じられない。バレリーナの個人的な心情を汲み取っているわけでもない。人は描かれるが一つの風景として、個性的な構図ではあるけどもスナップ写真のように切り取られているに過ぎない。そうか、彼は(性的嗜好としての)バレエ・フェチではなかったのだ。
まさにこの個展のテーマのとおりだ。ドガが好んだのは、動きとしてのバレエであり、その動きを如何に描写するかが彼の関心ごとだったのだ。何だ、そういうことなのかと、企画者の狙いに簡単に嵌ってしまった自分の単純さに呆れる。ただ、この個展で、今後、彼のバレエの絵を一枚見る時の自分の中のスタンスが変わることは明らかだった。一つの座標軸が出来てしまった。良いのか、悪いのか・・・、もっと素直に、直感的に、絵を楽しみたいのに・・・。ちょっと、複雑な気分で、夜10時人影もまばらになった美術館を後にした。
12月11日まで開催。
2011年9月23日 訪問
※企画展のHPはこちら→
(余談だが、この個展の難点は入場料がロンドンの美術館としては異例の14ポンドもすること。てっきり、7,8ポンドぐらいかと思って10ポンド手に持ってチケットカウンターに出向いたら、14ポンドと言われ、引き返すわけにもいかず、あわてて財布の中の現金を探す羽目になった。ただ、これだけのドガのバレエの絵を集めた個展はそうは無いと思うので、14ポンドの価値はあると思う。でも、2回はこないかな。やっぱり、無料のナショナルギャラリー等は偉大だ!)