conparu blog

ささやかな身の回りの日常を書き綴ります。
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『人間の条件』

2011-08-22 22:57:00 | 日記
青少年だったころに見た夢はモノクロームが殆んどだったが、ある時期になると続けざまに天然色で現われるようになった。
今であれば色を扱う環境なら当然と思えるのだけれど、当時は特別な能力であるかのように得意気になっていた。

日常が色に溢れた食傷気味のデジタル化の中では、白黒が醸すハイコントラストな映像が、かえって清新な映像世界に誘ってくれるものだ。

名画中の名画と言われるものは、脚本もそうだろうけれどキャメラアングルが素晴らしい。先日、六日連続で放映された、NHKBSプレミアム『人間の条件』はまさにそうだった。

戦争終末期の大陸で、敗色濃厚な前線部隊の規律の厳しさ、規律に胡坐をかいて部下を扱く上官、、、やがて怒涛のように崩壊してゆく部隊の末路は、梶と云う一兵士を強固な正義感で爆発させる。

小林正樹監督は戦争体験があり、「梶」を通して戦地の不毛な人間関係と、戦争の不条理を描いた。画面から押し寄せる気迫と言うか迫力には、圧倒されてしまった。

小林監督(原作者五味川順平)はなぜタイトルを『人間の条件』としたのだろうか。
戦争という国家体制が引き起こした非日常性の統制下にあって、際立って現われる軍規約の非人間性。それらは国家体制の名の元に個人を押しつぶし、人間本来の尊厳をも傷つけてしまう。

しかし国家体制を保持すべく大々的に運営されてきたはずの『軍隊』が、儚くも潰え去ってしまう。

上等兵梶が逃走するシベリヤの雪原。思いは遥かな日本で待ち続けるだろう、妻「美千子」への思慕が切ない。
ラストシーンの一歩一歩美千子に近づく梶の姿と想いは、吹きすさぶ雪の中で「お帰りなさい」の言葉に迎えられて美千子の胸に帰った。

個としての人間の尊厳と、最も近しい妻への愛は潰えなかった。そこに潜んでいるのは基本的な人間への愛だろう。『人間の条件』は観終わった後も重い。
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