YouTubeには、鉄ちゃん達の投稿が多い。しかしどこをみてもこの本を紹介した映像が見当たらない。車両のデザインは彼らの関心の外側なのだろう。とはいいつつも、鉄道車両はれっきとしたプロダクトデザインの領域である。
鉄道を軸にすると駅舎の建築や商業のマーチャンダイジン、ユニフォームやCIといった広がりに眼を向けると、鉄道会社は総合生活産業の1つだといえる。それも私達の生活に密着した次元での展開である。
大学のプロダクトデザイン実習に搬送機器のデザインがある。それはズバリ!、カーデザインの勉強である。そこへゆくと当時鉄道車両のデザインを取り上げた大学は皆無といってよかった。今で言えば隙間産業デザインだったのである。
それに鉄道車両はデザイン要素が少なく、どうせエンジニアの領域なのだろとプロダクトデザイナーは見ていた。そこへグラフィック&インテリアデザイナーの水戸岡鋭治氏が登場し、車両もこんな風にデザインできるよと実践して見せたわけである。
もう一人あげれば、ピニンファリーナのカーデザイナーであった奥山清行氏である。プロダクトデザイナーがきちんと鉄道のデザインに取り組んだ例である。
ところで私が感心を持ったのが、車のデザイン同様に鉄道車両の車体の図面は線図という方法で描かれる。それは曲面を持つ立体の設計における作図方法である。私も椅子の作図実習で線図を描いたことがある。
JR東日本の本は、鉄道とデザインという展示会(1989年10月14日-11月12日,東京ステーションギャラリー)の時の産物だから市販はされていない。だが鉄道をデザインという切り口で語ったらどうなるかという編集は、大変面白い。編集者にGKの記載をみてなるほどと納得した。
さらにこの本には、モデルとなる本がある。それがブリティッシュ・レイルウェイの本である。これが出発点だった。そんな風にみてゆくと、デザイナーの関心を引きつけて放さない大変面白い本である。JR東日本の本が市販されなかったのが大変惜しい。
鉄道を鉄ちゃん達の興味本位ではなくデザイン文化表現体として語ってゆく事も大切な事であり、それによって次世代プロダクトデザイナーを養成し、社会の文化啓蒙につながると私は考えている。こうした本がもっと多方面の分野から出版されてよいと思われる。
JR東日本:鉄道とデザイン,東日本旅客鉄道株式会社・GK,1989年.
James Cousins*British Rail Design,Danish Design Council,1986年