やられました。
なんでアカデミー賞をかすりもしなかったのか、不思議な映画です。
今回は、とても自分の胸に納めて置けません。
ネタバレしまくりですので、もう観た方、或いは絶対にこの映画を観ないという方だけお読み下さい。
頑固で偏屈、白人絶対主義者の老人ウオルト。
妻を亡くし、息子たちにも煙たがられ、老犬をかたわらにポーチに腰かけ、
ビールを飲むか、愛車グラントリノをピカピカに磨くだけの毎日。
その愛車を盗みに来たのが、不良グループに脅されたお隣のモン族の少年タオ。
いじめられっ子タオ、その利発な姉スーと関わることから
ウオルトの生活は変わっていくのですが…
感動的な作品でしたが、いくつかひっかかる点はありました。
例えば、最初の銃撃&レイプの時点で、警察が動かなかった理由。
「モン族は口が硬いから中々証言しない」というような言葉もありましたが
モン族が被害者だと警察はまともに動かないが、白人が被害者になって漸く動くから、と思ってよいのでしょうか。
あとは、少女スーの傷をこれ以上広げたくないこと、
おそらくは処女性を重んじるであろうモン民族の誇りから、告訴できないことなども加わるでしょうが
この点は、説明不足であったように思うのです。
それにしても、あれだけ酷い、半殺しのような輪姦をされた少女スーが
ウオルトの葬儀でモン族の礼服を着て、顔を真っ直ぐに上げて参加していたのには驚きました。
まだ傷は癒えていないにしろ、ウオルトの死を通して、立ち直る覚悟をきっとつけたのでしょう。
それだけでもウオルトの犠牲は、価値があったのだと思うのです。
朝鮮戦争から帰還後、フォード社の組立工をしていた彼は
息子がイエローモンキー(日本人)の会社であるトヨタのセールスマンをしているのも許せない。
しかし、これはあんまりだと思いました。
大体あの二人の息子たちへの、ウオルトの態度も酷すぎる。
息子たちの頑固親父との付き合い方は、ごく普通のアメリカ人の姿だと思うのですが。
彼らとて小さい頃は、目の中に入れても痛くないくらい可愛がって貰ったのでしょうに。
父親として、遺産すらも残さないなんて。
ウオルトから「青二才の童貞」とこきおろされる若いカソリックの神父が
スーがレイプされた後、ウオルトの家を訪ねたとき、
復讐をけしかけるようなことを言ったのも意外でした。
あれは何だったのか?
その後ウオルトが教会に行った時は、彼を必死に止めようとしていましたが…
等など、色々思うところもあったのですが
それはこの作品を愛すればこそ。
新聞広告に、アメリカのタイムズ社だったか(うろ覚え)
「こんなすばらしい作品をどうやって作るのだろう」というコピーがありましたが
私も心からそう思います。
☆5