Zooey's Diary

何処に行っても何をしても人生は楽しんだもの勝ち。Zooeyの部屋にようこそ!

どん底からのもがき「光のほうへ」

2012年04月01日 | 映画

2010年デンマーク映画。デンマーク・アカデミー賞受賞。トマス・ヴィンターベア監督。

10歳前後の兄弟は、アルコール依存症の母親と散らかったアパートで暮らしている。
母親は家事もしないで朝から酒浸り、息子たちを虐待して鬱憤を晴らしている。
兄弟の唯一の希望は、赤ん坊である末の弟だった。
育児放棄した母親に代わり、粉ミルクや紙オムツを万引きし、
電話帳から名前をつけて、二人で赤ん坊を育てていた。
しかしそこは子どもである悲しさ、遊びに夢中になっているうちに
赤ん坊は冷たくなっていた…



場面はいきなり20年ほど後に飛びます。
大人になった兄弟は、逆境を跳ね返して立派な社会人となっていた、と思いたいところですが
残念ながらそうはいかない。
兄は、傷害事件を起こして服役後、簡易宿泊所のような所に寝泊まりしている。
身体だけは日々鍛えているが、母親と同じくアル中で、ろくな友人もいない。
弟は幼い息子と暮らしているが、こちらは麻薬中毒。
息子を愛してはいるが、ろくに世話もできず、
息子の目を盗んではトイレで麻薬を打つ日々。

その二人が母親の葬式で再会するのですが…
赤ん坊を死なせたという共通の傷を抱えた二人は、共通項を思い出したくないのか
積極的に関わりを持とうとはしない。
この社会のどん底にいるような二人にどんな希望が射すのかと思って見ていると
事態はどんどん悪い方へと転がっていく。



どんなに最低の生活をしていようと
兄が弟を心配する思い、弟が自分の息子に向ける愛情は暖かいものです。
ところが愛されることを知らずに育った二人は、それをうまく伝える術を知らない。
そして二人は、なんと刑務所の中で再会するのですが
そこに更なる悲劇が訪れる。

最後に一筋の光が射すのですが…
それは、二人の引きずる過去に比べればあまりにも細く、か弱いものです。
逆に言えば、過去があまりにも悲惨であったからこそ、
そのかすかな希望の光は輝いて見えるのかもしれません。

悲惨な子供時代を過ごした者は
生涯陽が当たる道を歩くことはできないのか?
無論、この二人にも、いくらでも立ち直るチャンスはあったでしょう。
結局この二人が弱かった、ということに尽きるのでしょう。
それでもつい息子の母として、あの二人の子ども時代に
手を差し伸べてくれる人はいなかったのか?と思ってしまいます。
愛情を知らないで育つ子ども時代とは、なんとむごいものであることか…

原題の「Submarino」とは、水中に頭を突っ込まれる刑務所内での拷問を
意味するのだそうです。
デンマークのような人権先進国でもこのような拷問が?と意外な気がしますが
二人の悲しい子ども時代を表しているのか。
高福祉国家として知られ、幸福度ランキングでは1位となっているデンマーク。
私が昔訪れた時も、明るく陽気でクリーンな国、というイメージでした。
しかしここに出てくるコペンハーゲンの裏通りは
どんよりと暗く、どこまでも惨めで寒そうで…
どんな国にも底辺でもがく人々がいることを改めて思ったのでした。

「光のほうへ」この題は、金子みすずの詩から取ったのだそうです。
「明るい方へ
 明るい方へ。
 一つの葉でも陽の洩るとこへ。」
愛を知らないで育った兄弟が、絶望の底から一筋の愛を求めている。
よくできた邦題だと思います。

「光のほうへ」 http://www.bitters.co.jp/hikari/
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする