世界的に有名な絵本作家ジュディス・カーの自伝的小説『ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ』が原作。
1933年、ヒトラーの台頭によってナチスが政権を握る直前に家族と共に故郷ドイツを出国し、スイス、フランスを経て1936年にイギリスに渡った著者の過酷な亡命生活の体験をもとに、少女アンナが貧困や差別などの困難を乗り越えていく姿を描く。
父親は有名な演劇評論家、母親は音楽家と、裕福なユダヤ人の家にアンナは生まれます。
家政婦もいる恵まれた生活をしていた彼らの生活は、ヒトラーの台頭で一変。
ヒトラーを痛烈に批判していた父親は身の危険を察知し、いち早くドイツを逃げ出します。
しかし、着の身着のままで付き合わされる子供たちは大変。
スイスの山村では言葉は通じるが習慣が違い、村の子どもたちにバカにされる。
次のフランスでは言葉もまったく分からない上、風呂もないアパルトマンに住むことになる。
裕福だった家の資金も次第に底をつき、一家は食べ物にも困るようになる。
しかしアンナは強いのです。
持ち前の明るさを発揮して、そんな逆境でも明るく前向きに生きていく。
両親に深く愛されてこそのその姿には、観る側が力づけられます。
でき過ぎ、という気もするのですけれど。
兄マックスといい、アンナといい、あんな逆境でも文句も言わず、一番の成績が取れたり、まったく話せなかったフランス語の作文で表彰されるのなら、親は苦労しないよねえと言いたくもなる。
それが実話というのですから…
アンナが出会ったのは良い人ばかりではなかった。
パリのアパルトマンの隣人は最後までアンナ一家を嫌っていたし、管理人の女性も意地悪だった。
最後にそこを出ていく時、管理人に父親は何を言ったのか?
聞こえませんでしたが、彼女の不機嫌な顔から、さぞ皮肉を込めた御礼を言ったのかと。
私はジュディス・カーの絵本「おちゃのじかんにきたとら」が好きだったのです。
女の子とお母さんがお茶をしようとしていたら、突然大きな毛むくじゃらのトラがやって来る。
トラは丁寧に、自分もお茶に加えてくださいと言い、お母さんはにこやかに受け入れるのですが、とんでもない展開が待っているのです。
でもお母さんはまるで慌てない。
こんな非日常が、予定調和のように進んでいくのです。
あの底抜けの明るさ、あの強さは、作者の体験や性格から生み出されたものなのかもしれませんね。
2019年ドイツ映画。
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