炎上の城を討ち出て山路をゆく きみと誓いて吾は戻らん
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※佐和山城の大手門が
宗安寺に移築されている
誹謗中傷が50件以上の書き込みが集中するブログ炎上が話題
だ。情報交換の要諦は「言葉は沈黙」(discommunication/Comm-
unication gap)ということぐらいネット利用の常識だ。デジタル
世代には法規制でしか学習出来ないという現れはともかくとし
て、図書館の帰りに立ち寄った佐和山城を登った。天候は良か
ったが伊吹山も、琵琶湖も霞んでいた。頂上の灌木を打ち払え
ば最高の眺望をえることができる。三島由起夫もここへきてヘ
ンダーリンの詩を歌えば良かったのだ。「岐阜は高すぎた、佐
古はほどよく、見晴らしもよい」と織田信長も安土城築城をここ
で決意したのだろう。
ところで、佐和山に入城した井伊直政は落城した惨状のままで
使えたものではなかった。修築しようにも中世の山城で交通が
不便なうえ、戦闘形態が鉄砲主体の時期には不適当な城だった
ので近世城郭の建設を西の湖畔の磯山に築城しようとしたが、
関ヶ原合戦の鉄砲傷が原因で慶長7(1602)年がわずか2年後に
急死したため、幼少の嫡男直勝への重臣の木俣守勝の進言で、
金亀山(現彦根城)を最適地として移築・築城したといわれて
いるが、世間では三成の亡霊に呪い殺されたとも噂され、家康
は三成に関わる城や寺であろうと破却させたが、その見せしめ
としての政治的背景の犠牲になった周辺住人の沈鬱な怨嗟はい
かばかりかと想像するだにない。
『余湖くんのホームページ』から
上の一首は、落ち武者として炎上の城を捨て生き長らえた後は
必ずきみと二人して戻り再興を果たすんだという気概を石田三
成の時代と重ね合わせ、「後二年の辛抱だ、それまで力を蓄え
再興を機す」とこの困難な時代(第二の敗戦期)を乗り越えて
いくんだという誓いを詠った。
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ポール・セザンヌ「ガルダンヌから見た
サント=ヴィクトワール山」1892-95年
油絵同好会で活動していた時から、明るく色彩豊かな、安定感
のある構図それでだけではない、色合いの深さ、日本では言い
古された‘熟(な)れた’、‘枯れた’画風のセザンヌが好き
だった。その仲間にはゴッホ風やルソー風の絵を描く埜坂昌宏
もいたが好きではなかった。父親の影響もあり、異常なまでの
潔癖症で人付き合いが、極端に苦手な性格といわれ心を許せる
友人は、カミーユ・ピサロなど数人に限られていたというが、
後期印象派の代表画家のフィンセント・ファン・ゴッホ、ゴー
ガン、スーラら比べ、彼のしっとりした色彩感覚や明るい画風
は一番気に入っている。それとは対照的にゴッホの絵と接した
時のいいようのない不安感に襲われるのはわたしだろうか。そ
のことを、生きていたなら棟方志功や岡本太郎に確かめてみた
かった。スーラを除いてセザンヌは、ゴッホやゴーガンと同じ
く生前中は評価されなかったが、ゴッホと異なり経済的に不安
がなかった。ところで、この四人のうちスーラが一番早く夭折
していった。Cafe Terrace at Night
Portrait of Pere TanguyTahitian Women on the Beach
Self-portraitDer Zirkus
グランド・ジャット島の日曜日の午後
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しかし、セザンヌの絵画は誰の目にも魅力的に映る一方でその
表現はとても複雑で難解である。「近代絵画の父」、そうピカ
ソが敬愛し、「セザンヌ主義」という言葉が存在するのは彼の
絵画が20世紀初頭のフランスの革命的な芸術運動に与えたとさ
れる。「自然を円筒、球、円錐として捉える」という主張は、
キュビスムに大きな影響を与えた。時間とともに移ろう光を追
いかけている印象派に不満で、「絵画は、堅固で自律的な再構
築物であるべきである」という考え、自然を写すだけではなく、
ひとつの空間で個々の形態が他の形と呼応し、荘厳かつ明澄な
絵画を完成させる。
Les Joueurs de cartes,
カミーユ・ピサロらの印象派の影響を受けがその豊かな色彩や
明るい画風は地中海気候の南仏のエクサン・プロヴァンスの風
土と切り離せないもの。セザンヌが生涯描き続けた、エクスの
東約20kmに位置する標高1,011mのサント=ヴィクトワール山。
石灰岩質の山肌の為、日中は白く輝き、夕刻には紅に染まる。
幾つも登山道があるが、ヴォヴナルグとル・トロネから標高
945mのプロヴァンスの十字架までの登山道が適度の難易度で人
気がある。
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さて、セザンヌを訪ねることは南フランスを知ることでもある
が、難解な彼の作品を理解し絵画を継承するには字数制限で無
理だ。また、別の機会にするとして、南フランスを訪ねる夢を
膨らませ、プロヴァンス料理を先ず理解することとしよう(乞
うご期待を)。
※アイオリソース(材料:ニンニク、卵黄、オリーブ油、レモン汁、塩、コショウ)
■ 映画『おくりびと』
妻の誘いで急遽、彦根ビバシティシネマで観てきた。映画『お
くりびと』は、監督黒沢、伊丹監督などの遺産を継承しその才
能を如何に発揮した滝田洋二郎、脚本家小山薫堂、宮沢賢治の
小説のようなチェロ伴奏等の映画音楽を指揮する久石譲。そし
て、山形県庄内平野の名峰月山の四季の美しいロケーション。
「人生に迷いながらも成長していく新人納棺師大悟(本木雅弘
)、夫の仕事に嫌悪感を抱きつつも彼を理解し尊敬していく妻
(広末涼子)。ベテラン納棺師佐々木(山努)らの俳優とが
織りなす日本の生死観。観客に飽かすことなく、最上川の如く
貫きつつ雄大かつ、匂い立つ雪深い山形の万象の響きと、繊細
、ユーモラスにして味わい深い日本人の心の襞を最大限醸しだ
しすことに成功した秀抜の一品。
月山のミヤマリンドウ
※パーム・スプリングス映画祭において観客賞
(Audience Award for Best Narrative Feature)を受賞。
※サウンドトラック盤(視聴)
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