A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【100フォークスのススメ】第3回:心の実存を自問するフォーク界のコールドウェイヴ〜佐々木好『心のうちがわかればいいのに』『にんじん』

2019年01月17日 08時57分50秒 | ガールズ・アーティストの華麗な世界


一昨日の盤魔殿vol.21で筆者は『Another Side of Japanese Folk Music』というテーマで日本のフォークばかり回した。半分以上が中古レコード店の100円コーナーで購入したブツ(一部は消費税込み108円)であり、筆者の提唱する「100フォークス (One Hundred Folks)」の中核を成す布陣である。(残り半分はフォークソングの概念をアンダーグラウンド化する「地下フォーク」中心の、地下音楽文脈では重要な存在であるが、それを論ずることは本稿の趣旨ではない。)
【100フォークス (One Hundred Folks)のススメ】第1回:パンクとフォークの発火点〜かつての敵・フォークソングを巡る自分語り。
【100フォークス (One Hundred Folks)のススメ】第2回:青春の鈍痛を忘れないスウィートヴォイス〜佐藤公彦(ケメ)『片便り』

日本が世界に誇るアシッドヴォイスの持ち主「さだまさし」率いる「グレープ」、パワーフォークの先駆者「谷村新司」および「堀内孝雄」を擁する「アリス」、13歳と11歳の姉妹デュオ「チューインガム」、猫ブームでも再評価されない男性語人組「猫」など、昭和フォーク界を象徴するユニークなグループに混じって、唯一ソロシンガーとして選曲したのが「佐々木好(ササキコノミ)」であった。



1959年12月9日北海道札幌生まれ。札幌のライヴハウスや小樽の「海猫屋」等を中心に活動、CBSソニーのオーディションに受かって1982年にデビュー。同年、由紀さおりに自作曲「ストレート」を提供。シングル6枚、アルバム5枚をリリース。熱心なファンを獲得するが一般的な人気やセールスには結びつかず1987年に引退。その後音楽活動はしていない模様。

同じ北海道出身ということで中島みゆきの再来と呼ばれたらしいが、中島の情念的な歌に比べ、佐々木のヴォーカルには「熱」がない。素朴な歌声で歌われるメロディは起伏に乏しく、全体的に凍てつくような覚醒感が貫かれている。それは1stアルバム『心のうちがわかればいいのに』で薄明の中に溶け込んで消えて逝く少女であり、2ndアルバム『にんじん』の寒空の下に無表情に佇む少女であり、陶酔と孤独が凝結した世界の住人であろう。歌詞は恋や愛をテーマにしつつも徹底して一人称のIntrospection(内省)でありConfession(告白)である。内的宇宙を誰も分からない言葉に翻訳してしてbotのように呟いているように聴こえる。真意に気がつくのは偶然に彼女の呟きを「言葉」ではなく「音楽」として認識してしまった者だけなのかもしれない。

LOVE YOU LIVE 佐々木好 1983 06 04


『客観』
夢か誠か幻か 人間様が生きている
泣いて 笑って 又悩み
愛して 別れて 又愛し
生まれて 死んで 又生まれ
周り灯籠の絵のように
人間様が生きている
夢か誠か幻か

どういう訳かアルバム『にんじん』で唯一自作詩ではなく「作詞:不詳」とクレジットされている不条理なこの歌に、彼女の生き方が表明されている気がする。諸行無常でも輪廻転生でもなく、同じところを回り続けることしかできないのが「人間様」である。生活や感情の浮き沈みを一喜一憂しても何も変わらないことは分かっていても、一度限りのライフサイクルを悩み愛し続けて全うするしかない。その有様を「客観」して歌にして世に解き放つのがフォークシンガー佐々木好なのである。だからこそレコードとして記録された彼女の呟きを、ターテーブルとレコード針で拾い上げ拡大して、実存する現実として解き放つことが必要なのだ。

佐々木好の「寒さ」はアイス世代の代表作『THIS HEAT』に通じている。

This Heat - "24 Track Loop" (Light In The Attic Records)


心のうち
わからないから
歌を聴く

コメント
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