A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

灰野敬二+藤掛正隆+MoE+Mette Rasmussen@荻窪Club Doctor 2019.4.15 mon

2019年04月20日 11時00分06秒 | 灰野敬二さんのこと


4月15日(月)東京 荻窪Club Doctor


HAINO/FUJIKAKE/MoE/RASMUSSEN


open 19:00 start 19:30
Adv. 2500 yen / Door 3000 yen

Keiji Haino  灰野敬二 (g, vo)
Masataka Fujikake 藤掛正隆 (ds)
MoE (from Norway):
Guro Skumsnes Moe (b, vo)
Håvard Skaset (g)
Mette Rasmussen (as, from Denmark)

ノルウェーのエクスペリメンタル・ハードコア・トリオ、MoE(モー)6回目の日本ツアー。今回は昨年から共演を続けるデンマークの前衛サックス奏者メテ・ラスムセンを加えたカルテット編成の予定だったが、来日直前にドラマーが急病のため参加できず、ドラム抜きの日本公演になってしまった。17日間で18公演というハードスケジュールの中、行く先々で地元のドラマーを探しながらライヴをこなすという異例のツアーは、リーダーのGuro Skumsnes Moe(ギュロ)に言わせれば「地獄のように大変だったけど、天国のように楽しかった」とのこと。MoEのメンバーは元々オスロの実験音楽シーンの出身であり、その手法をロック/ハードコアのスタイルで展開している。そう考えると即興ジャズ畑のメテ・ラスムセンとのコラボも納得できるだろう。



帰国前日の4月15日に企画された本公演は、もともとMoEのドラマーが先に帰国予定だったため、藤掛正隆がドラムで参加することになっていた。その縁でMoEの名古屋、岐阜公演に藤掛がドラマーとして同行するという交流も産まれた。灰野とMoEは2017年4月11日に渋谷で共演しており、昨年灰野がノルウェーを訪れた際にはGuroとのデュオでレコーディングを行ったという。つまりそう考えると、MoEにとって今回の日本ツアーで唯一プランとおりに運んだコンサートであるとともに、初共演ではなくある程度お互いの手の内を知った上でのコラボレーションと言える。当初は組み合わせを変えたデュオやトリオ演奏も予定されていたようだが、最終的に五人全員で2セット演奏することになったのは、この貴重な機会を余すこと無く全員で共有したいというMoEの希望だった。



その気持ちの通り、スタートから激しいプレイの応酬が繰り広げられる。灰野は比較的抑えめのプレイで、場面場面でプレイヤーを指差して演奏の指示をする。灰野の指揮のお陰で即興演奏が一本調子にならず、起伏に富んだ展開を見せた。Guroはディストーションベースの重低音を轟かせるだけでなく、動物の雄叫びを思わせるヴォイスパフォーマンスで演奏を別世界へワープさせる。Håvardのギターはメタリックなノイズで電気のこぎりのように亀裂を入れる。藤掛のヘヴィドラムはMoEのハードコアサウンドにピッタリだが、所々に顔を出す即興ドラムの異能感が既成音楽の限界を突き破る。灰野のギターはクリアなサウンドと地鳴りのような轟音を使い分け、演奏の舵取り役として務めを果たす。



特筆すべきはメテ・ラスムセンのアルトサックス。轟音のバンドサウンドに負けまいと全身から気迫を漲らせて発するフラジオは、マイクを通さなくても会場にいる全員の耳の中で破裂する。一昨年の来日時に観た仏教寺院での思索的なソロ演奏とは打って変わって鬼のような激情を解放するプレイもまた彼女の内観の表出なのである。世代的には厳粛な実験音楽よりもフラストレーションを発散するロックやノイズの方が身近なのかもしれない。



今回MoEを観れたのはこの一回だけだったので、他の公演と比較できないが、この夜のライヴは間違いなく前衛ロックと即興音楽とハードコアパンクの次元を超えた進化形であった。日本好きのMoEとメテが再び来訪する日を楽しみにしたい。

北欧は
パンクと即興
近い距離



MoE + Mette Rasmussen /‎ Tolerancia Picante
Conrad Sound ‎– CnRd330

2018年9月26,27日スタジオレコーディングされた共演アルバム。ライヴでの爆音演奏とはひと味違った楽曲重視の音造りが、MoE特有の変拍子ハードコアメタルを意外なほど聴きやすいサウンドに仕上げている。メテのサックスがバンド演奏と交配し、火に油を注ぐが如くサウンドスペクタクルを攪乱する。今風のオルタナ感とは次元の異なる地に足の着いた前衛精神が北欧の風土に染み付いた自由主義の伝統を証明している。80年代以降のチェンバーロックの香りもあり、プログレッシヴ・ロックの現在進行形と捉えることも出来る。いまや真の音楽革命はジャンル偏重主義者の思惑を遥かに超えたところで産まれていることは確かであろう。

MoE/Mette Rasmussen "Tolerancia Picante"
コメント
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