蒐集家なら誰でも、自分だけのこだわりがある自慢のコレクションがあるに違いない。筆者にとっては、幻の名盤としてプレミアのついたレア盤よりも、あまり注目されず評価も低い地味で渋くて安いレコードのほうが思い入れが強い傾向にある。つまりそれこそB級、場合によってはC級D級名盤なのである。今回は筆者自慢の地味渋なBのレコードをメインに紹介しよう。
●Bobby Callender / Rainbow
1968 / US: MGM Records – SE4557 / 2003.7.29 渋谷Disk Unionジャズ館
インド哲学と音楽に傾倒した黒人シンガーソングライター、ボビー・カレンダーの1stアルバム。Collin Wolcott (sitar, tabla), Eric Gale (g), Richard Davis (b)など著名なジャズ・ミュージシャンが参加しているが、完全なシタール・サイケ・ポップになっている。ヘヴンリーと呼ぶにはあまりに陰が濃いボビーのヴォーカルは、極楽浄土ではなく天竺巡りの三蔵法師のようだ。71年に2nd『The Way (First Book Of Experiences)』、72年Robert Callender名義で3rd『Le Musée de L'Impressionnisme』をリリースしてシーンから消えた。
Bobby Callender ~ Rainbow (LP, 1968)
●Bodine / Bodine
1969 / US: MGM Records – SE-4652 / 1992.2.8 吉祥寺PARCO ¥1,500
シアトルのガレージ・サイケ・バンドDaily Flashを母体に68年に結成された。最初はPopcornと名乗っていた。メンバーはDavid Brooks (key), Eric Karl (g), Jon Keliehor (ds), Steve Lalor (g), Kerry Magness (b)。西海岸を幅広くツアーしていた。メジャーのMGMからの唯一のアルバムはCCR風のアーシーなロックが中心だが、アコースティック・バラードA-5 It's Just My WayやソリッドなギターのB-4 Long Way Just To Go Home、ファンキー・ロックB-6 Disasterやしっとりしたバラードなど聴きどころは多い。何よりも鄙びたジャケット写真が味わい深い(特に右端のEric Karlのあどけなさ!)、個人的な贔屓名盤。のちにJon Keliehorはダンス・舞台音楽作曲家/パーカッション奏者として成功する。
http://pnwbands.com/bodine.html
BODINE - Easy to see
●Bold / Bold
1969 / US: ABC Records – ABCS-705 / 1994.4.29 New Orleans Rock'n Roll Collectibles $24.50
65年にマサチューセッツで結成されたガレージバンドThe Esquiresを母体に60年代半ばに結成。メンバーはDick La Freniere (g), Michael Chmura (key), Robert La Palm (g), Steve Walker (vo,b), Timothy Griffin (ds)。68年にNY Playboy Clubのハウスバンドとして毎晩演奏していた。この唯一のアルバムは、プログレッシヴ・カントリーロックと呼べる内容。テープの逆回転、アンビエントなギター・ソロ、ストリングス、プログレ・オペラ等工夫を凝らしたプロダクションはレベルが高い。ボブ・ディランとバッファロー・スプリングフィールドのカヴァーは余計だったかもしれない。解散後La PalmとGriffinはカントリーロックバンドClean Livingを結成。
Bold - Factory (1969)
●The Bonniwell Music Machine / The Bonniwell Music Machine
1968 / US: Warner Bros. Records – WS-1732 / 1994.11.29 Boston Nuggets $20.00
ガレージパンクのヒット曲「Talk Talk」を放った人気バンドMusic Machineの2ndアルバムにあたるが、内容的にはヴォーカルのSean Bonniwellによる別プロジェクトと考えられるので、あえてBのカテゴリーで紹介する。65年にロサンゼルスで結成され、66年にヒット曲「Talk Talk」を含む1stアルバム『(Turn On) The Music Machine』をリリースしたMusic Machineだが、68年にメンバー3人が、Curt BoettcherのプロジェクトThe MilleniumとSagittarius に参加し、ほぼ解散状態となる。残されたSean Bonniwellがセッション・ミュージシャンを使って制作したアルバムが本作『The Bonniwell Music Machine』。ガレージロックの名残はあるが、彼のナルシスティックなシュールな音楽性を開花させた作品。深みのあるヴォーカルはLoveのArthur Leeを思わせる。
The Bonniwell Music Machine - The Trap
●T.S. Bonniwell / Close
1969 / US: Capitol Records – ST-277 / 1992.10.1 吉祥寺PARCO
上記作をリリース後もありあわせのメンバーでMusic Machineとしてツアーすることを強要されたボニウェルは嫌気がさしてMusic Machineの名前の権利を放棄しソロに転向、Capitolと契約しT.S. Bonniwell(本名はThomas Harvey Bonniwell)として唯一のソロ・アルバムをリリース。ガレージロックから一変、ストリングス、ヴィヴラフォン、女性コーラス、クラシックギターをバックにフォーク・バラードを歌う私小説的な作品。安易にアシッドフォークと呼ぶのは憚られるナルシズムは、スコット・ウォーカーに通じるように感じる。A-5 Black Snowの詠唱は情念的。このアルバムのセールス的な失敗に落胆して音楽業界を去り、持ち物をすべて売り払って、バスでアメリカ全土を旅するスピリチュアルな生活を始めたという。
T.S. Bonniwell - She Is
●The Boston Tea Party / The Boston Tea Party
1968 / US: Flick-Disc – FLS 45,000 / 1992.6.7 Pasadena Record Trading $7
バンド名に偽りあり。ボストンではなく、カリフォルニア州バーバンクで1963年に結成されたハイスクールバンドがスタート。最初はサーフロックだったが、60年代半ばにサイケに転身。メンバーはMike DePerna (key), Richard DePerna (b), Travis Fields (vo), David Novogroski (ds), Mike Stevens (g)。67年にシングルでデビューし、68年にMGM傘下の新興レーベルFlick-Discの第1弾としてリリースされた唯一のアルバム。トリッキーなギター、ワイルドなオルガン、骨太のドラムとベース、甘すぎないヴォーカルと、ガレージサイケのおいしいところを集めたキャッチ―なロックンロールが満載。難点はどれもハイレベルだが、とびぬけた1曲がないところだろうか。しばらく活動し、B級バイク映画『Cycle Savage』にカメオ出演するが、69年に解散。ドラムのNovogroskiはFlick-Disc第2弾のAmerican Revolutionにも参加。解散後、70年にヘヴィサイケバンドThe Edgeに参加する。
The Boston Tea Party - I'm Tellin' You (by EarpJohn)
●Box Tops / The Best Of The Box Tops
1976 / US: Kory Records – KK 3007 / 1988.7.31 下北沢レコファン ¥850
テネシー州メンフィスで67年に結成。主なメンバーはAlex Chilton (vo,g), Bill Cunningham (b, key), John Evans (g, key), Danny Smythe (ds),
Gary Talley (g)。ブルーアイド・ソウルを代表するバンドで、「The Letter あの娘のレター」「Cry Like A Baby」「Soul Deep」などのヒットを持つ、今回のブログでは異色の有名バンド。オリジナル・アルバムではなく廉価盤ベスト・アルバムしか持っていないのは、”アレックス・チルトンがいたバンド”という認識しか持っていなかったからだろう。チルトンのソロやBig Starの練りこまれたパワーポップに比べ、ストレートなR&R、R&B、ソウルのボックス・トップスは物足りなかった。もしチルトンと関係なく聴いていたら、カッコいいガレージR&Bとして興味を持ったかもしれないが、今となってはこのベスト盤だけで十分な気がする。
The Box Tops - The Letter (Upbeat 1967)
安物の
レコードこそが
我が宝