
2020年最後の四半期、10月に入ったばかりで地下音楽愛好家には見逃せないイベントが三日連続で開催された。新たなる地下音楽を求めて新イベント『NEO UNDERGROUND』と盤魔殿レーベル『Les Disques Du Daemonium』をスタートした筆者にとっては、命を投げ出しても見届けたい3daysである。実際に三日連続で地下現場に通うと、地下アイドル現場とは異なる種類の心地よい疲れと共にブレインダメージに似たフラッシュバックを経験することとなった。地下音楽エキスの効果が消えないうちにこの3日間の印象を書き留めておくとしよう。
10月5日(月) 下北沢pianola records
平野剛 ピアノソロ公開録音 at pianola records

新型コロナ緊急事態宣言直前の4月1日の下北沢にオープンしたレコード店pianola recordsはマニアックな品揃えの中古レコードと共に、自主レーベルconatalaから知られざる日本の地下音楽をリリースしている。しかしながら平野剛の新作のリリースを考えているとは思わなかった。前日夜にツイートを見て月曜日の朝10時半からの公開レコーディングに駆け付けた。
平野剛

狭い店内に置かれたアップライトピアノから紡ぎ出される繊細な音の雫。壁に飾られたレコードたちも美しいメロディに喜んで、ますますいい音で鳴りそうだ。最初は緊張していた平野は、演奏を重ねるにつれリラックスし、休憩を挟みのべ1時間半に亘るレコーディングを完了した。リリースが楽しみ。
10月6日(火) 荻窪club Doctor
荻窪サイケデリック!

中央線沿線の地下音楽&地下アイドルの拠点の一つ荻窪club Doctorでニューロックシンジケートの川口雅巳企画の即興系イベント。サイケデリックと名付けたのは、ジャズやフリーミュージックには収まらない広範な音楽性を持つミュージシャンによる即興演奏を言い表すのに相応しい。
チミテル(川口雅巳、山澤輝人、千草)

関西ハードコアやアンダーグラウンドシーンと繋がりのある異色のサックス奏者・山澤のやさぐれたブローと、川口の鋭角的な轟音ギター、叩くというより撫でまわすような千草のドラムが醸し出すオルタナフリージャズロックに痺れた。
MAI MAO(テラダキョウスケ、内田静男)

テラダのエレキギターには目と髪の毛がある。それだけで共感たっぷり浴び地獄だが、異能ベーシスト内田とともに膨大なエフェクターを通して生み出される有機的なエレクトロニクスサウンドの嵐は、聴き手の心を曼荼羅模様の桃源郷にいざなった。
bugs cry what(吉本裕美子、狩俣道夫)

吉本が操るダクソフォンは断末魔の叫びにしか聴こえない。対する狩俣のフルートやピアニカを通した声が共調し、断末二重唱を形成する。ウクレレを爪弾きながら狩俣が歌う「エメラルドの伝説」に吉本の悲しげなギターインプロが絡み哀愁の荻窪の夜を涙した。
10月7日(水) 大久保ひかりのうま
"水の声vol.1"サイケデリック邂逅の日

分水嶺、終古のオミット等で活動する宮岡永樹(よんじゅ)の初企画。20代の若さでPSFレコード以来の地下音楽を継承する彼が敬愛するミュージシャンを対バンに選んだという。
内田静男

異能ベーシスト内田静男の本領発揮のベースソロ演奏。セミアコースティックベースがトランク1個分のエフェクターボードを通して、思いもよらぬ周波数の音波で空気を震わせる。氾濫した音の濁流に飲み込まれる気分。ノブを操るソックスの爪先も見どころ。
分水嶺

正規ベーシストが不在の為、サポートドラムとベースが参加。不定形な演奏はマヘルやシェシズを思わせるが、若さ故のタブララサぶりが何より新鮮。宮岡永樹のサイケデリックギターとピアニスト桜井晴紀の儚いヴォーカルに天国が近づく思いがした。
水晶の舟

1999年に紅ぴらこ(g,vo) と影男(g,vo)により 結成された水晶の舟。ライヴを観るのは10年ぶりだろうか。今は亡き高円寺ペンギンハウスで何度も観たので、ひかりのうまがペンギンハウスにワープしたような気分になった。ワンコードで延々と続く呪文めいたサウンドは、幻惑と共に精神の安寧をもたらす。
水晶の舟+宮岡永樹

最後に水晶の舟と宮岡永樹のコラボ。倍近い年齢の強者二人に負けずファズギターを鳴らす姿に次代の地下音楽の希望を見た気がした。
▼10月14日まで視聴可能
「"水の声vol.1"サイケデリック邂逅の日」(10/7 wed. ON AIR)
ピアノーラ
荻窪サイケと
水の声
本日!10月9日(金) 阿佐ヶ谷 天
「水の声vol.2」Avant-free improv.& songs

*予約完売。配信があるかもしれません。
Yonju Miyaoka presents..
Masami Kawaguchi × Makoto Kawashima
Bloom Creation
Rob Noyes
Yonju Miyaoka × Riku Seki × Naoki Yamaguchi
19:00 open
19:30 start