A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【私の地下ジャズ愛好癖】ドイツ新表現主義者『A.R.ペンク』の自由奔放不定形ジャズ

2017年02月04日 07時11分43秒 | 素晴らしき変態音楽


精悍な顔に惚れて筆者が愛好するサックス奏者フランク・ロウのディスコグラフィを調べた時に、子供の落書きのようなレコードが何枚かあり気になっていた。「TTT」という謎のバンド名義のアルバムで、80年代半ばにドイツでリリースされている。フランク・ロウの他にブッチ・モリス(tp)、ビリー・バング(vn)、デニス・チャールズ(ds)といったNYロフトシーンの猛者が参加したPart 1〜4の4枚に分かれたライヴ作。見るからに自主制作盤で、日本のレコード店ではまずお目にかかったことがない。Discogsに出品されていたが、どれも四桁後半の高値なので、暫く買うのを躊躇していたが、年が明けてフランク・ロウ熱がぶり返し、勢い余ってまとめてオーダーした。それが昨日届けられた次第。ロフトジャズらしいスピリチュアルな演奏や無手勝流の自由即興があるかと思えば、ファンクビートのジャズロックも飛び出してきた。多楽器主義の無節操な不定形サウンドは、ロウやモリスのスタンドプレイではなく、A.R.ペンクのドラムの飄々としたビートに牽引された集団的グルーヴに貫かれ、地下ジャズとしては極めてポジティヴな世界を描き出している。
『フランク・ロウ』ほぼほぼ完全ディスコグラフィ/Almost Complete Discography of FRANK LOWE



A.R.ペンクは1939年10月5日ドイツのドレスデン生まれ。現在77歳。独学で勉強して1968年、初個展をケルンで開催。ネオ・エクスプレッショニズム(新表現主義)の先駆者として共産圏旧東ドイツのアートシーンで頭角を現す。1980年に西ドイツへ亡命して、Gerhard RichterやJoseph Beuysと同じ国立デュッセルドルフ芸術アカデミーで1988年から教鞭を取る。当時ドイツに留学していた奈良美智に恩師としても知られる。ペンク作品の特徴は、太古の洞窟絵や象形文字を思わせる記号的モチーフが情報化社会といわれる今日においてモダン絵画として注目されている点である。

flashTV - A. R. Penck Retrospektive (Kunsthalle, 2007)

A.R.ペンク作品展記事

有能なドラマーとしても知られ、80年ペーター・コヴァルト(b)のトリオに参加、80年代半ばにフランク・ウォルニー/Frank Wollny、ハインツ・ウォルニー/Heinz Wollnyと共に「トリプル・トリップ・タッチ/Triple Trip Touch=TTT」を結成し、ブッチ・モリス、フランク・ライト、ビリー・バング、ルイス・モホロ、フランク・ロウなど世界的ミュージシャンと共演、自主レーベルから自ら描いたアートワークで多数のレコードをリリース。90年代に地元ハイムバッハを拠点にインスタレーション、パフォーマンス、絵画とコラボしたライヴイベントを主催した。
The A.R.Penck LP Discography

●TTT Featuring A.R. Penck ‎– Be Cool In Munich - Live Concert


Heinz Wollny, bass, percussion
Butch Morris, cornet, percussion
Dennis Charles, drums, percussion
Frank Wollny, guitar, bass, percussion
A.R. Penck, piano, flute, drums
Frank Lowe, saxophone, percussion
Billy Bang, violin, flute, drums, percussion

同じジャケットでパート1〜4がリリースされている。Discogsによれば各限定500枚。ミュンヘンでのライヴ録音。83年にフランク・ロウ、ビリー・バング、デニス・チャールズらがロンドンを訪れジャズ・ドクターズとしてレコーディングしているので、同じ時のライヴかもしれない。ジャケット裏にはフィル・ミントン(vo)が参加したパート5とTTTトリオのみのパート6の記載があるが未リリース。楽器を持ち替えて組み合わせの異なるセッションが収録されており、欧米ミュージシャンの自由奔放な交歓模様が伺える。変貌する80年代音楽シーンに翻弄されたフランク・ロウたちにとっても楽しい経験だったと想像される。

●TTT featuring A.R. Penck - Butch in Hackney


Butch Morris (cornet, drums)
Frank Wollny (guitar, bass, drums)
Heinz Wollny (bass, guitar)
A.R. Penck (flute, bass, drums, vocals)

こちらはブッチ・モリスとTTTトリオのガチンコ共演。イギリス,ハックニーでレコーディング。録音/リリース年不明。上記アルバムに比べてシリアスで実験性の高い演奏が収録されている。全編を貫く緊張感は交歓というより交感と呼ぶべきであろう。どちらかというと指揮者/Conductorとして知られるモリスの演奏家/Playerとしての才能が迸る作品。ペンクをはじめTTTのメンバーのプレイヤビリティの高さも印象的。

TTT featuring A.R. Penck - Be Cool In Munich (Part 1)


年齢的なこともあり近年は演奏記録が残っていないペンクだが、機会があればまたスティックを握って欲しいものだ。

新表現
主義か主張か
生き方か



ネオ・エクスプレッショニズム
Neo-Expressionism(英), Neoexpressionismus(独)
1980年前後より、アメリカ(ニューヨーク)、イタリア、西ドイツなどの複数の場所で同時多発的に台頭した具象的傾向を備えた絵画の動向。主観主義的な感情を直接的に表出するような激しい筆致や色彩の使用によって「ネオ・エクスプレッショニズム(新表現主義)」と呼ばれる。これらの絵画では、観者の身体のスケールを遥かに超えて大型化した画面に、性的イメージ、人物像、現代的な諸現象から歴史的・神話的題材など、さまざまな主題を登用することで得られる効果を絵画的な崇高さのもとにまとめあげる手法が顕著である。多様なイメージ群を引用・消費するこれらの絵画を、ポストモダニズムの観点から評価する向きがある一方で、商業主義との結びつきや現代美術の展開に逆行するような非歴史主義的な無自覚さが批判されることもあった。
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【地下音楽入門】第2回:NORD(ノール)〜騒音樂派の北の果てへの旅路

2017年02月02日 08時28分35秒 | 素晴らしき変態音楽


80年代地下音楽を象徴する自主レーベル「ピナコテカレコード」は1980〜83年の間に8枚のLP、2枚のEP、8本のカセットをリリースした。いずれも前例のない特異な地下音楽のドキュメントだが、今思えば図らずとも最も時代とリンクしていたのが及川洋と片山智の二人組NORD(ノール)だった。フランスの作家セリーヌの代表作『NORD(北)』からユニット名を取り、“T・G(スロッビング・グリッスル)の行き方に全面的な支持と賛同の挨拶をおくる”(AMALGAM#7 1981.7発行)という彼らは、1980年に結成され同年2月3日にマイナーでデビューし、白石民夫やNOISE(工藤冬里+大村礼子)、絶対零度など地下音楽のグルと共に活動する。82年7月吉祥寺ぎゃていでオリジナルNORDとしてのラストライヴを行いデュオを解消。

●NORD/NORD (1981.7/Pinakotheca ‎– Nord #1)


1980年9月21日吉祥寺マイナーで一発録りでレコーディング、10月にマイナー店主・佐藤隆史宅にてミックスダウンされたオリジナルNORD唯一のアルバム。スロッビング・グリッスルやキャバレー・ヴォルテール、DOMEなどのインダストリアルミュージックに影響されたサウンドは、『愛欲人民十時劇場』やNOISE『天皇』、灰野敬二『わたしだけ?』、ガセネタ、タコなど吉祥寺マイナー出身の地下音楽の中では異質な存在に思える。マイナーの住人の多くはサイケデリックロックやフリージャズ、現代音楽にルーツを持ち、過度の情念(怨念)や強固な精神性を打ち出した表現が特徴的だといえる。ここで聴けるNORDの音響も大音量の騒音芸術であることは確かだが、通底するのは激情の発露ではなく、真逆の覚醒したクールネスなのである。その感覚は、「COLD WAVE」と呼ばれたジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダー、ディス・ヒートやデヴィッド・カニンガム(フライング・リザーズ)等のニューウェイヴ世代と共通する。レコードのB面を占める「Utopie」は壮大な叙事詩を思わせる起伏豊かな騒音組曲だが、冷徹にコントロールされた禁欲主義は「NORD<北>」の名前に相応しい氷の世代(ICE AGE)のデカダンスを体現している。この時代に他のミュージシャンとの交流が殆ど見られないことも、地下音楽の坩堝に於けるNORDの"冷たい孤立感"を表しているのではないだろうか。

Nord - Labyrinthe


リリースから35年が過ぎて、本アルバムがArt Into Lifeから初めてCDとして再リリースされた。未発表のスタジオレコーディングとライヴ音源収録CDとの2枚組。長年封印されていた作品がどのような経緯で発表されることになったのかは分からないが、地下音楽の宝石が陽の目を見ることは大いに歓迎したい。
Art Into Lifeホームページ



オリジナルNORD分裂後、及川はソロでNORDを名乗りL.S.D.Recordsから84,5年に2枚のLPと1本のカセットをリリースするが、90年代以降の活動は不明。

Nord - Ego Trip


片山は83年に伊藤真(現・まく)とのデュオでNORDとしてぎゃていを中心に活動。MERZBOWやNULLとコラボもしている。2003年に伊藤と別れ長谷川洋((ASTRO)をメンバーに迎え新生NORDとなり、2015年に内田静男を加え活動中。
グンジョーガクレヨン/K.K. NULL/陰猟腐厭/NORD@高円寺ShowBoat 2015.4.23(thu)

北の果て
地下音楽の
棲むところ



<ライヴスケジュール>


2017年2月11日 sat 大久保ひかりのうま
【NORD / MIMINOKOTO】
Open 13:30 / Start 14:00
Charge ¥2500+1D

NORD (片山智/長谷川洋/内田静男)
みみのこと(スズキジュンゾ/西村卓也/志村浩二)
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【JazzTokyo#226更新】『山口正顯・渡辺生死 duo / 砂山』+書き下ろしアナザーレビュー

2017年02月01日 01時59分41秒 | 素晴らしき変態音楽

#1369 『山口正顯・渡辺生死 duo / 砂山』
聖地・高円寺グッドマンから現れたリード&ドラム・デュオによる叙情曲集は、パンドラの箱からフリージャズの精霊たちを解放し、ギミック無しの生のジャズのパワーを世に知らしめるパラレル・モーションである。


●Another Disk Reviewアナザーレビュー


『山口正顯・渡辺生死 duo / 砂山』

Bishop Records EXJP023  1,800 円 +税

山口正顯 Yamaguchi Schoken (ts, cl, b-cl)
渡辺生死 Watanabe Shouji (ds, perc)

1. 砂山 tenor saxophone version (中山晋平)
2. Danny Boy (Traditional)
3. Grandfather’s Clock (Henry Clay Work)
4. 渓流(たにがは) (齊藤コメゾウ)
5. 赤蜻蛉 (山田耕筰)
6. 音叉 (渡辺生死)
7. You don’t know what love is (Don Raye and Gene DePaul)
8. Summer Time (George Gershwin)
9. 砂山 bass clarinet version (中山晋平)

2016.10.13 at Knuttel Hosue, Tokyo
recorded, mixed and mastered by Kondo Hideaki
photos by Tanikawa Takuo
directed by Yamaguchi Schoken and Watanabe Shouji
produced by Kondo Hideaki

楽曲解説ストーリー

砂山(テナーサックス)
童謡メロディーを長く引き伸ばされたロングトーンで吹くうちに次第に激するテナーに、不穏な連打のドラムが木霊して、ハンターの血が騒ぎだし逸るテナーへの放置プレイが享楽へ導く。

Danny Boy
ドラムが先鞭を切って朝日の中へ飛び出してく。後を追うクラリネットは歓喜の雄叫びを上げるが、つれないドラムに我に帰り、心地よい風の乗ってジャンプする。

Grandfather’s Clock
逞しさを誇示するテナーが太いメロディを奏でる。後半でしゃくりあげるブロウに骨太なドラミングが加わり祝祭の始まりを告げる。お花摘みで席を外したテナーが、砂が零れるような細かいドラムロールに召喚されて加えるハイトーンは夢に魘され昼寝から目を覚ました猛禽類の呻き声。

渓流(たにがは)
再び眠りに落ちた暗闇の中、テナーの低い声で子守唄が囁く。パーカッションが遠い野鳥のざわめきを模倣する。寝ぼけ眼の子守歌は次第に覚醒するかのように、森の住人を脅かす。

赤蜻蛉
突然の赤い曙光に狂ったような雄叫びを上げる。大地を震動させるドラムの連打に、ペリカンのようなバスクラが忘我の境地で狂女の歌声を奏でる。低音が抜けて拉げた声に驚いて戸惑うドラムの彷徨。我関せずと鼻歌謳うバスクラの泥酔。

音叉
雲の割れ目から光が射し、天上の玩具ピアノのチャイムがひと時の気の迷いを諌め癒すように降り注ぐ。

You don’t know what love is
手の声に刺激され酔いから覚めたバスクラとドラムが睦みあう。遅く起きた朝への夕刻からのレクイエム。

Summertime
キーの高いテナーで奏でる夏のメロディーは、やはり夏の暑さではなく、森の中のひんやりした木陰でまどろむ動物の鳴き声のよう。突然狂いだしたのは発情期にパートナー選びに乗り遅れたことを思い出したのであろうか。荒れ狂うテナーをクールに見守るドラムの慈しみ。マーチのビートに釣られて歩調を合わせようと努力する健気さに心和む。

砂山(バスクラリネット)
エンディングはバスクラがタイトル・ナンバーでリベンジ。オープニングと同じ鈴の音で焦らそうとするドラムが夜の訪れを告げ、ふたりの意識は生まれる前の微睡の中へ沈殿していく。明日はどんな物語を語り合おうかと考えながら。

CD "Yamaguchi Schoken & Watanabe Shouji duo / sunayama" PV


精霊の
還る先には
グッドマン

●NY撮って出し動画
Makoto Kawashima solo @ Downtown Music Gallery 1-29-17

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