浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

また国家犯罪が行われた

2015-10-05 08:46:56 | 政治
 日本の刑事司法は、民主主義国家とはいえない様相を呈している。それは冤罪の多発であり、また無実の人が死刑囚にされ、絞首台に送られたり、あるいは長期にわたって拘禁されているからだ。

 名張ぶどう酒事件の犯罪者に仕立てられた奥西さんが亡くなられた。再審の壁が一端は破られたかに見えたが、名古屋高裁の別の部が再審を拒み、また最高裁も再審をさせなかった。

 今日の『中日新聞』社説である。

 
日本の司法は敗北した 名張・奥西死刑囚が獄死


 裁判に翻弄(ほんろう)されたまま、老死刑囚は獄死した。冤罪(えんざい)の疑いを消せぬまま閉じ込めておくばかりとなった長い年月は、司法の敗北と言わざるを得まい。

 冤罪が国家の罪であることは言うまでもない。

 冤罪の可能性を消せぬまま、二転三転する司法判断の末に八十九歳の奥西勝死刑囚を獄死させてしまった名張毒ぶどう酒事件は、冤罪と同じほど罪深い司法の自殺的行為ではないだろうか。

 「十人の真犯人を逃しても、一人の無辜(むこ)の人間を罰してはならない」という法格言の通り、一人の冤罪者も出さぬことが刑事司法に求められる最大の使命である。


白鳥決定無視の過ち

 日本の司法は過去、死刑囚に冤罪を認めたことがある。つまり重大な誤判の歴史を持っている。その経験は生かされたのか。

 名張事件の運命の分かれ道ともいえる第七次再審請求は、十一年もの時を経て、二〇一三年に最高裁で最終的に退けられた。

 迷走した名張事件の最も大きな問題は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が無視され続けてきたことだろう。最高裁が「白鳥決定」で、この鉄則は再審でも適用されることを確認したのではなかったか。

 そもそも、津地裁の一審が無罪だった。冤罪を訴える長い歳月を経て、一度は高裁が再審開始を認めもした。つまり、有罪の立証ができていないと判断した裁判官が少なからずいたわけである。

 それなのに最高裁は、判決を見直す姿勢は見せなかった。

 逸した機会の第一は、第五次再審請求である。逆転死刑判決の根拠だったぶどう酒の王冠の歯形鑑定の信用性が崩れたのに、最高裁は再審請求を棄却した。

 第七次請求では、凶器とされた農薬が実際に使われたかどうか疑わしいとして名古屋高裁が再審開始を決めたにもかかわらず、検察の異議の後、最高裁は高裁に差し戻してしまった。まさに白鳥決定の無視である。

 弁護団は「弁護団が判決の誤りを実証すると、裁判所は別の理屈を持ち出してくる。『疑わしきは被告人の利益に』の原則の逆だ」と訴えていた。再審の扉を重くしてきた裁判官や検察官は、明快に反論できるであろうか。


誤判への真摯な恐れは

 特に高裁が一二年五月、再審を開始しないとした決定では、弁護側に本来必要ないはずの「無罪の証明」まで求めた。

 刑事司法の基本的な考えは、こうである。つまり「被告人が有罪であることの立証責任は検察官の側にあるのだから、『合理的な疑いを超える程度の証明』がなされていないと思えば、無罪判決をすれば足りる」。

 こうした原理に照らせば、司法が原則を大きく踏み外していたように見えてしまうのである。

 高齢の死刑囚が最後の判断を仰いだ最高裁に、私たちは「自ら速やかに判示を」(一二年五月三十一日社説)と求めた。しかし、返ってきたものは、説得的理由のない棄却決定であった。

 再審無罪となった東京電力女性社員殺害事件や静岡地裁が再審開始を決定した袴田事件では、裁判所に促されて検察側が未開示証拠の開示に踏み切り、冤罪の疑いが深まる大きな要因となった。市民の常識を反映させようという裁判員裁判の時代となったのに、冤罪の疑いがぬぐえぬ名張の事件で、司法は一体、何をしてきたのだろう。

 元最高裁判事の故・団藤重光氏は退官後、死刑廃止の立場を鮮明にし、「無実の人を処刑することがいかにひどい不正義であり、どんなことがあろうとも許されるべきでない不正義であるか」と指摘している。

 この碩学(せきがく)がなぜ、死刑廃止論に転じたのか。それは、法律家として、また一人の人間としての誤判への真摯(しんし)な恐れであろう。

 奥西死刑囚は冤罪だったのか、否か。迷走した司法判断は、いわば有罪を維持した状態で幕を引くことになったが、大方の国民の感覚に照らしてみると、どうであろう。彼の獄死は裁判の権威を守ったのか、それとも損ねたのか。


法の正義と言えるのか

 多くの謎が残ったままの事件である。その謎に迫る可能性を秘めた未開示証拠を検察側が独占したまま二転三転した死刑判決を維持し、冤罪を訴え続けた一人の人間を獄死に追い込んでしまったことは、果たして国民の目に、司法の正義と映るだろうか。

 いったんは開かれた重い再審の扉は、「疑わしき」を覆い隠すように閉ざされた。獄中で老いることを強いられた死刑囚には、どんな軋(きし)み音が聞こえただろう。

 その獄死の無念を、社会は胸に刻みつけねばならぬ。未来のために、日本の裁判史に汚点として、深く刻みつけねばなるまい。
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賢明な選択

2015-10-05 07:34:50 | 社会
 指定管理者制度、これも新自由主義的な政策の一つだ。本来公的な仕事として公務員が行っていた業務を、公務員でなければできないものではないとして、その業務を外部に委託するというものだ。そこで狙われていることは、できるだけ経費をかけないということだ。経費をかけないということは、つまり実際の業務を担う労働者の賃金をできるだけ抑えるということになる。

 たくさんの業務が、外部に委託された。学校給食、図書館などさまざまな業務が外部に委託されるようになった。そこでは、低賃金で人びとは働き、収益はその業務を管理する民間企業へと流れるようになった。

 「民間でできることは民間へ」ということばが、元首相の小泉に叫ばれていたが、もちろんこの「民間」というのは「民間企業」である。「民間企業」というのは、いうまでもなく本質的に利潤追求、もうからなければいけない。公務員が担っていたときよりも低コストで業務が行われるように、行政は経費を削減して委託するわけだから、そんなにもうかるわけはない、したがってどうしてもそこで働く労働者の賃金を低くする。

 指定管理者制度というのは、低賃金労働者をつくりだすことにより、特定の企業をもうけさせる制度である。

 佐賀県の武雄市では、その業務をTSUTAYAがうけた。そしていろいろな問題が生じたことはすでに報じられている。愛知県小牧市でも、TSUTAYAに業務を委託させようとする動きのなかで、市民が立ち上がった。そして住民投票で、NOをつきつけた。賢明な選択だ。

 今日の『中日新聞』記事。


ツタヤ図書館に反対多数 小牧市の住民投票

2015/10/5 0:53

 愛知県小牧市の新図書館建設計画への賛否を問う住民投票が4日投開票され、反対が賛成を上回った。市は計画の見直しを迫られることになりそうだ。

 当日有権者数は11万6624人で、投票率は50・38%だった。

 市はレンタル大手TSUTAYA(ツタヤ)を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と連携して計画を推進。反対する市民団体は「ツタヤに図書館の運営を任せず、市直営にすべきだ」などと訴え、反対への投票を呼び掛けてきた。

 この結果に法的拘束力はないが、条例は市長に尊重するよう求めている。

(中日新聞)
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宅配の問題

2015-10-05 07:25:49 | 社会
 便利だから使ってしまう宅配。ボクは本はhonto、それ以外はアマゾンで買うことが多い。しかしそのなかで、労働者の過酷な労働実態が生まれている。

 労働者を酷使して、特定の企業だけが大もうけをする構造が、あちこちでできあがっている。こういう事態をどう打開していくか、その道筋は定かではないが、しかし知っておくべき事柄ではある。


http://lite-ra.com/2015/10/post-1555.html
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忘却戦術に乗るな、という水嶋教授のインタビュー

2015-10-05 07:23:21 | 政治
 『日刊ゲンダイ』記事。日本はとんでもない時代へと突入しようとしている。その流れを押しとどめなければならない。

水島朝穂早大教授が危惧 「自衛隊制服組の暴走始まっている」


 安保法制反対の国会前デモで、「安保法案に反対する学者の会」の呼びかけ人として何度もマイクを握ったのが、水島朝穂早大法学学術院教授だ。若者が自立して行動を起こし、全国に伝播した反対の声は、「憲法を破壊した安倍首相でも壊せない」と訴える。法案通過後、国民に求められている行動とは?

――法案成立後、ヒトラーの言葉を引用して、反対運動を続ける大切さを訴えられていましたね?

「わが闘争」に、「大衆の理解力は小さいが、その代わり忘却力は大きい」「宣伝はこれに依拠せよ」というくだりがあります。安倍首相はヒトラーの言葉通り、忘却戦術を取ってくるでしょう。

――新3本の矢とかアベノミクス第2ステージとか内閣改造の話題とかで、けむに巻いていく。安保法案のことなんか、過去の話題にしてしまう。

 改憲を狙う権力者たちは閣議決定による解釈改憲で、集団的自衛権の行使容認と地理的概念を外した自衛隊の海外展開を可能にしました。しかし、国民の反対運動を見て、「やばかったなあ」と実は思っているのではないか。だからといって、彼らは明文改憲をあきらめたわけではない。国民の慣れ、思考の惰性に期待しているのです。

――立憲主義を否定した乱暴な政治手法が、いつの間にか定着してしまう。怒りを忘れて、それが日常になってしまう?

 そうです。実際、来年度予算で防衛省は何を買うんですか? F35、オスプレイ、水陸両用強襲輸送車など、専守防衛から海外遠征型にシフトしているのは明らかです。米豪軍などとの演習を見れば、尖閣などの島嶼防衛とは明らかに異質な攻勢作戦を想定していることが疑われます。国民が知らないうちに装備が変わり、予算がどんどん膨らんでいく。法案成立の真の危うさは、今までできなかったことが国会のチェックもすり抜け、国民も知らないうちにどんどん拡大していくことです。消費税が10%になり、福祉予算が削られ、防衛費が青天井になる。

■遠からず、米軍のために自衛隊の犠牲者が出る

――そういえば、参院特別委員会では共産党が暴露した防衛省の内部資料によって、制服組の暴走が明らかになりましたね。

 昨年12月中旬、河野克俊統幕長が訪米して、米国の統合参謀本部議長や陸軍、海兵隊のトップ、空軍のナンバー2、海軍の作戦部長、国防副長官らと会談しました。その会談資料によると、河野統幕長はオディエルノ陸軍参謀総長に「安保法制は予定通りか」と聞かれ、「来年夏までに終了するものと考えている」と答えています。

――国会でも大問題になりましたが、この河野統幕長はいわく付きなんですよね?

 2008年にミサイル護衛艦「あたご」が漁船に衝突、乗組員親子が犠牲になった事故の際、記者会見したのが当時の河野海将補です。薄ら笑いを浮かべ、緊張感のない態度でメディアに批判されました。漁船が護衛艦を避けるのが当然という意識がありありでした。海自の場合、50年代から米海軍と一体で行動してきているので、エリート幹部たちは身も心も米国モードで育っている。自分たちこそが「国際貢献」「日米同盟」を担っているという驕りがある。

――だから、国会審議を軽視するような発言が飛び出すわけですね。

 しかも、この時の会談で河野氏は他にもとんでもないことを言っているんです。自衛隊はエボラ熱対策のために米アフリカ軍(AFRICOM=司令部はドイツ・シュツットガルト)に連絡官を派遣していますが、河野氏は「エボラ熱対処後も連絡官派遣を継続し、情報収集や我々のできることを検討したい。また、自衛隊は海賊対処を実施しているが、ジブチは海賊対処のみならず他の活動における拠点にしたいと考えている。防衛駐在官の増派も検討しており、AFRICOMとの連携を強化したい」(ワーク国防副長官との会談)と。「今後はPACOM(太平洋軍=アジア・太平洋地域担当)、CENTCOM(米中央軍=中東担当)、AFRICOMとの連携を強化して参りたい」(デンプシー統合参謀本部議長との会談)とも言っています。

――勝手に世界中で米軍と協力すると約束しているんですね。

 ジブチを拠点にしてウイングを広げる。テロとの戦いにも自衛隊を送り込む。米軍が世界で展開する6つの統合軍のうち、3つで協力する。そういうことを宣言したも同然です。

 米軍が重視しているのは自衛隊が集団的自衛権を行使できる存立危機事態ではなく、米軍を後方支援する重要影響事態法と平和支援法の方です。弾薬を運ぶことや給油なんて、自衛隊がやらなくても米軍は自己完結している。自衛隊に一番やってほしいのは捜索救助活動でしょう。遠からず、米軍のために自衛隊の犠牲者が出ると思います。政府内部でも国会でも議論していないのに、米軍トップと勝手に話を進める制服組の暴走に、背広組も内心、穏やかではないでしょう。


――戦前をほうふつさせるようなイヤな動きですね。

 それでなくても、安倍政権は今年3月、「文官統制」を葬り去っている。防衛省設置法を改正して、背広組も制服組も対等に大臣を補佐できるようになり、文官優位が崩された。戦前は陸海軍大臣が反対すれば、内閣は総辞職です。その反省もあり、文官スタッフ優位制という特殊な日本的仕組みができた。この3月にそれが実質的になくなった。

――ますますこの政権には、監視と選挙での鉄槌が必要ですね。

 選挙で負けさせ、政権交代を実現させて、昨年7月1日の閣議決定を撤回させることが必要です。あの閣議決定で、安倍政権は憲法解釈を変えてしまった。新3要件を満たせば、限定的な集団的自衛権は許される。今後はこの解釈が法律の運用の基本になっていく。それだけで社会がどんどん変わっていく。

■「安保関連法廃止法案」を議員立法で

――忘却戦術に乗ってはいけませんね。

 そのためには安保関連法廃止法案を議員立法で出すことです。すでに盗聴法や政党助成法などに廃止法案が議員立法で出されています。参考になるのは07年の「イラク特措法廃止法案」で、衆院で3度、参院で1度出され、参院では可決されています。大マスコミが報じないので騒がれなかったが、安保法制の違憲性を明示し、訴え続けるには有効です。

――それにしても、この政権は露骨ですね。

 普通の自民党政権なら要職に就けないタイプの異様な人材が跋扈している。そういう人々が安倍首相の使えるうちに、今まで世論や憲法によって抑制されてきたことを全部やっちまえ、と焦っているのです。消費税増税、派遣労働の拡大、原発の再稼働等々、十分な議論が必要な課題をサクサクと決めていってしまう。民主国家とは思えない乱暴さが目立ちます。

――特定秘密保護法から武器輸出三原則の見直し、経団連の武器商人化、憲法破壊まで、あれよあれよですものね。

 登場人物も筋悪ですよ。法的安定性を否定した礒崎陽輔首相補佐官は、法制局参事官になりたいけどなれなかった過去がある。政治家になってから「俺が自民党の法制局長官だ」と威張っている。コンプレックスが議員になってからいびつな形で表れています。

――安倍首相も同じようにいわれますね。

 この政権で重用されている官僚、政治家には同じようなタイプが多い。コースから外れた人が、首相のお友達ということで、序列を超えて重要なポストに就いている。世襲3代目の北朝鮮の恣意的人事とそっくりですよ。能力に疑問符がつくので、その分、恐怖支配になる。警察、国税、検察を押さえて、マスコミを脅し、ビビらせている。能力的に最弱の政権が最強の権力を振りかざしているように見えますね。
▽みずしま・あさほ 1953年生まれ、早大大学院修了。広島大助教授などを経て早大法学部教授。2004年から早大法学学術院教授。専門は憲法・法政策論。
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