浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】堀田善衛『上海にて』(集英社文庫)

2016-07-28 23:09:11 | その他
 良い本にめぐりあった。堀田善衛の本、最近は読んでいなかったが、さすがにいろいろ考えさせられる。昨日、現代社会の“不幸”を嘆きあう会合があった。その場でよくでることばは、本を読まないと人間は利口にはならない、ということだ。

 私の場合は、知識を得るために読むものが多いが、時にみずからの思考を鍛えてくれるものも読む。『現代思想』(青土社)は、そうした本だ。今日、『現代思想』最新号が届いた。特集は「〈広島〉の思想」である。
 そして刺激を与えて思考の契機を与えてくれる本が、文学である。堀田の本は、そうした本だ。

 堀田の上海での戦争直後の体験と、その後に上海や重慶に旅した経験を織り交ぜながら、中国について様々な思考を巡らした、それが本書だ。

 まずこの文言を紹介したい。

 日本と中国との、歴史的な、また未来における、そのかかわりあい方というものは、単に国際問題などというよそよそしい、外在的なものではなくて、それは国内問題、というより、われわれ一人一人の、内心の、内在的な問題であると私は考えている。われわれの文化自体の歴史、いやむかしむかしからの歴史そのものでさえあるだろう。

 日本という国は、中国なしにはありえなかった。中国の文明に浴したからこそある日本。しかし近世中期頃から、「日本」を立ち上げ(7世紀後半に立ち上げようとしたことがあった。それが『古事記』『日本書紀』)、日本の“優秀性”を自覚する動きがでてきた。その延長線上に、明治維新がある。それからは、「脱亜」の動きが加速し、「大アジア主義」もあったがそれは換骨奪胎され侵略主義へとかたちをかえていき、そして日清戦争に日本人が従軍するなかで中国蔑視が民衆の間に広まった。

 近代日本において、中国を蔑視する心性が日本人の中に蔓延し、それが今も庶民の中に息づいている。日本人の現在の対中国観は、蔑視の土台の上に築かれていると思う。
 だからこそ、中国と日本の関係は、「内在的な問題」なのだ。

 私の考えでは、この優等生であり秀才でありつづけた、また現在もありつづけている日本が、どうしてアジアに対する災殃と日本自体にとっては1945年をもたらしたかということの、私たちの日本自体による究明がいまだに充分になされていない

 21世紀の今となっては、近代日本がアジアの中で「優等生」であったとことについての認識はぐらついているが、しかし少なくともアジアで文明化を成功裏に推し進めたことは事実であり、その日本が何故に1945年の惨敗をもたらしたかについての認識が、いまだに国民のそれになっていない。
 究明し、それを伝えようとすると、それが邪魔される、というのが日本である。

 このほか、中国国民党の特務の実態、そして中国が中華人民共和国へと転化したことの、中国内部の必然性を教えてもらった。

 良い本だ。安倍政権下、中国との関係が危なくなっているとき、本書は日本と中国との関係を考える手段となるはずだ。


 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする