窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

第17回ネゴシエーション研究フォーラムに参加しました

2021年11月26日 | 交渉アナリスト関係


 オンラインという形ではありますが、約2年ぶりとなる第17回ネゴシエーション研究フォーラムが11月25日、開催されました。

 今回は、日本交渉協会の「表情分析プラクティショナー養成オンデマンドコース」開講に伴い、特別編として日本交渉協会特別顧問、空気を読むを科学する研究所代表の清水建二先生に「交渉に使える! 表情観察・分析力向上セミナー」 と題してお話しいただきました。

 実は清水先生、過去に二度日本交渉協会でお話しいただいておりますので、表情分析とはどのようなものか、宜しければそちらもご覧ください。

第11回ネゴシエーション研究フォーラム:「微表情を交渉で活かす」
情報収集テクニック研修:「微表情・しぐさから相手の心理を見抜く」

 さて、表情を含む、姿勢やしぐさなどの非言語コミュニケーションを観察する目的は、その源にある感情を推測することで、対人コミュニケーションをより良いものにしていくことです。しかしながら、表情一つとっても人間の表情は約1万種あると言われており、これにしぐさなどの会話のシグナルが加わると、それこそ情報源は無数に存在することになります。

 その中で、表情には万国共通と言われる表情が7つ(初期の研究では6つと言われていました)あります。まずはこの7つの基本感情表情(悲しみ、幸福、怒り、軽蔑、嫌悪、恐怖、驚き)を手掛かりに、売買交渉や接待などの場面で表情分析がどのように活用できるのかというのが、今回の趣旨です。

 因みに、新型コロナウィルスの影響で、世界中の学校で授業のオンライン化が急速に進みました。そうした中、画面を通じた受講者の表情を読み取り、授業の質の改善に役立てていこうという研究が早くも行われています。

1.売買交渉①:お客様の「分かる」、「分からない」を「見える化」する

 今回の講義の興味深いところは、模擬交渉で実際に現れた表情の動画が見られたという点です。動画①は、お客様に商品の説明をしている際、お客様の顔に現れた表情から隠された感情を読み取り、文脈に応じた適切な対処の方法を考えるというものです。

 動画①のお客様は、眉間にしわが寄り、眉毛が下がりました。これは表情について学んでいない方でもお分かりだと思いますが、熟考の表情です。熟考は表情筋の動きとしては基本感情の「怒り」と同じです。

 つまり、この方はよく考えたいという欲求を持っている、口では「なるほど」と言っていても実はこちらの説明が理解できていない可能性があると推測できます。そうであれば、理解しているかを確認する、質問があるか聞く、ゆっくり説明するなどの対応をとることで、お客様の中の不協和を和らげることができます。

 動画①は、非常にはっきりと表情が現れたので分かりやすいものでした。しかし、現実世界ではいつもこのように分かりやすく表情が出るとは限りません。そこで動画②では、同じ人による非常に微妙な熟考表情と、そうでない表情を見比べました。このような微妙な表情を微表情と言います。通常、0.5秒以下で現れ消える表情を微表情を指しています。実はこの微表情は意図的に制御することが難しいため、本当の感情を探る手掛かりとしてより有力なものとなります。その代わり、微表情が読み取れるようになるためにはある程度訓練が必要となります。

2.売買交渉②:お客様の「懐事情」を「見える化」し、交渉の流れを変える

 動画③は、売買交渉において提示した単価に対する相手の反応です。この交渉相手からは、驚きと嫌悪の表情が読み取れました。表情の意味するところは「不快なものを取り除きたい」ということですが、交渉の文脈から判断して、価格の理由を補う、条件付き割引を提示するなどの対応が考えられます。このように、表情を文脈から判断し、どこに感情が向けられているかを推測することが、一般的に「心を読む」と言われている行為だと言えます。

 研究によれば、表情認識力の高い売り手はモノを高く売ることができるという実験結果が出ているそうです。交渉学では、ZOPA(合意可能範囲)を推測することが良い交渉結果を生むために非常に重要だと言われています。表情認識から相手の留保価格を推測することができればZOPAを推測することが可能になりますので、より良い交渉結果を生むことにつながるというわけです。

 動画④では、提示された単価に対して、口角が横に広がり、頬が持ち上がる表情が読み取れました。これは恐怖と嫌悪であり、その価格を不都合だ、排除したいと考えていると同時に切羽詰まった状況であると推測できます。つまり、価格は満足できないが、かといって合意しないわけにもいかないと感じていると考えられるので、やはり条件付き割引といった代替案を提示することなどが対応として考えられます。

 一方、動画⑤では、提示された価格に対して、口角が上がりました。これは幸福、即ち心地よい状態が続いてほしいという感情です。つまり、ほぼ間違いなくZOPAに入っており、合意は可能だと推測できます。

3.接待:表情から相手の好みを探る

 動画⑥は、同じ人が水、美味しいもの、美味しくないものの三種類の飲み物を飲み、そこに現れた表情を読み取るというものでした。水の場合の表情は、その人のベースラインだと考えることができます。人によって顔つきは様々です。初めから眉毛が下がっていたり、口角が歪んでいる人などがいます。ですから、表情を読むにあたっては、その人の普通の顔(ベースライン)を観察しておくことも大切なのです。

 3つ並んだ動画の内、ある動画では眉が上がったあと下がり、口角下がりました。これは基本感情で言えば驚き、怒り、悲しみです。つまり、障害を取り除きたいという意味があり、その飲み物を美味しくないと感じていると推測できます。そういう場合は、さりげなくその飲み物を下げたり、次回に活かしたりするといった対応ができます。味覚と表情については、美味しいものより美味しくないものの方が出やすいようです。しかし、接待を受けていてあからさまに美味しくない表情をする人はそういないでしょうから、美味しそうなふりをしたマスキングされた表情から漏出するネガティブ表情を見逃さないことです。



 さて、以上で講義は終わり、質疑応答に移りました。参加者の皆さんからチャットで質問を受け付け、それを僕と清水先生との対談形式で回答していきました。表情分析に初めて触れたという方が多かったのではないかと思いますが、核心を突いた興味深い質問が数多く寄せられ、さらに議論を深めることができたと思います。

 表情分析に興味を持たれた方は、冒頭にご紹介した「表情分析プラクティショナー養成オンデマンドコース」でさらに理解を深めていただければと思います。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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