「池田学展 『景色』」 ミヅマアートギャラリー 9/30

ミヅマアートギャラリー目黒区上目黒1-3-9 藤屋ビル5階)
「池田学展 『景色』」
9/13-10/14

恐ろしいまでに精緻に描かれたミクロな空想世界が、そのままアメーバのように増殖して巨大化しました。一つの作品をこれほど時間をかけて見たのは久しぶりです。時空間ともに交錯した世界が、細密でありながらも圧倒的なスケールにて展開されています。



展示室正面に置かれていた「興亡史」(2006)からして圧巻です。2メートル四方の紙に、まさに職人芸的な精巧なタッチ(ペンとインクのみ!)による物語絵巻が、画面からはち切れんばかりに膨張して表現されています。桜の木に城、鉄道や塔、それに滝や河などと、その描かれたモチーフを挙げるとキリがありません。そしてそれらが渾然一体となって、まるで一つの物語を紡ぐかのように連関して配されている。展覧会タイトルの「景色」はあまり適当ではありません。時に、アニメーション的にも描かれた小さな戦国武者たちが、この奇怪極まりない物体に群がり、その覇権争いを繰り広げています。あくまでもここにあるのは時間の止まった「景色」ではなく、悠久に流れ行く「歴史物語」なのです。人物の白いシルエットはその残像かもしれません。



瓦から木々まで、ともかくあるもの全てが変形しています。一つ一つがしっかりとした形を持っているのではなく、あたかもまるで生き物のように寄り合い、蠢いている。水に屋根、そして怪物や鉄道が、廻りくねって合わせ重なり、今にも崩れるかのように繋がっていました。もしかしたら随所にて既に崩落が始まっているのかもしれません。その意味では、ものの迫力よりも儚さをも感じさせる作品です。



一作を仕上げるのに一年以上かけることもあるそうですが、見る側にもそれなりの忍耐と覚悟を要求します。この壮大な絵画物語をひも解くのに一体どのくらいの時間がかかるのか。途方もなく深い世界が待ち構えていました。

当時開催中の天明屋展と合わせて、是非おすすめしたいと思います。
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