藤原歌劇団 「ランスへの旅」

藤原歌劇団公演(2006)
ロッシーニ「ランスへの旅」

指揮 アルベルト・ゼッダ
演出 エミリオ・サージ
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
キャスト
 コリンナ 高橋薫子
 メリベーア侯爵夫人 森山京子
 フォルヴィル伯爵夫人 佐藤美枝子
 コルテーゼ夫人 小濱妙美
 騎士ベルフィオール 小山陽二郎
 リーベンスコフ伯爵 マキシム・ミロノフ
 シドニー卿 彭康亮
 ドン・プロフォンド 久保田真澄
 トロンボノク男爵 折江忠道
 ドン・アルバロ 牧野正人
 ドン・プルデンツィオ 柿沼伸美

2006/10/22 15:00- 東京文化会館大ホール 5階

藤原歌劇団にて「ランスの旅」を聴いてきました。ゼッダの素晴らしいロッシーニが聴けただけでも私は満足です。

最近の新国立劇場でリズム感の欠如したロッシーニやヴェルディを聴いた私にとって、今回のゼッダの指揮する「ランス」はまさに理想とするロッシーニの音楽でした。インテンポにて、鋭角的に刻まれる澱みない明快なリズム。体が浮き上がるような愉悦感と、手に汗握るようなスピード感が同時にやって来ます。重唱に次ぐ重唱の聴かせどころも、歌手をうまくのせながら全く遅滞せずにスムーズに進行しました。それこそこのオペラを良く知っているからこそ可能な演奏なのでしょう。決して状態の良くないオーケストラから、響きの問題(特にラッパが残念でした。)はともかくも、これほど輝かしいロッシーニを聴かせるとは、まさにゼッタの力が為した業と言う他ありません。この公演の主役は、一にも二にもアルベルト・ゼッダです。

藤原の歌手陣は総じて立派でしたが、ロッシーニの音楽を引き立てるような歌唱であったかと問われればかなり厳しかったと言うべきだと思います。ただし唯一、コリンナの高橋が真摯な歌声を披露していたのには好感を持てました。シャルル10世を讃える幕切れのソロは十分な存在感です。また期待のマキシム・ミロノフは、その美声こそ他のキャストを大きく凌駕していたように思いましたが、特に高音を中心とする不安定な歌唱が少し残念でした。もしかしたら調子が悪かったのかもしれません。キャパシティがロッシーニには大きく過ぎる点も否めませんが、もう一歩、力強い歌が聴ければと感じました。あれでは、総じて声を張り上げて、どこかヴェルディ調に歌う他の男性キャストに終始埋もれてしまいます。

 

サージの演出は簡潔そのものです。ステージに真っ白な木枠のセットを用い、その上にてドタバタ劇を繰り広げて行きます。キャストが行き来する度に、セットのきしむ音がホールに響き渡るのが気になりましたが、コミカルな演技を通じて、この作品にある「馬鹿らしいほどの愉しさ」を全面に押し出した演出だったと感じました。シャルル10世を半ばパロディー化して客席に登場させたのも、一種の体制賛美の続く歌合戦自体を茶化していたのではないでしょうか。暗がりに浮かぶ白い舞台に、キャストの纏うダークスーツ。背景の幕にもう一工夫あれば尚良かったと思いますが、総じて美しい舞台でした。

「ランスへの旅」はともかく大好きな作品なので、全く飽きることなく最後まで聴くことが出来ますが、改めて舞台に接してみると、ともかく台本の滑稽までの無意味さに逆に感心させられてしまいます。ここまで来ると、もはや劇の筋などどうでも良いのでしょう。指揮だけをとれば、この演奏で著名なアバド盤にも引けを取らないほど充実した内容でした。良いロッシーニの音楽は、知らない間に杯のすすむイタリアワインのようです。ゼッダの快活なロッシーニで、思う存分、その美酒に酔うことが出来ました。また是非日本でロッシーニを振っていただきたいと思います。
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