「広重 二大街道浮世絵展」 千葉市美術館 10/9

千葉市美術館千葉市中央区中央3-10-8
「東海道・木曾街道 - 広重 二大街道浮世絵展」
9/5-10/9(会期終了)



会期最終日の駆け込みで見てきました。千葉市美術館で今日まで開催されていた「広重 二大街道浮世絵展」です。広重の名作「東海道五拾三次」と「木曾街道六十九次」を、ともに初摺りの作品にて全部拝見出来るという贅沢な展覧会でした。

著名な「東海道五拾三次」を初摺りの作品で見るのはともかく、あまり聞き慣れない「木曾街道六十九次」を拝見するのは初めてかもしれません。ちなみに「木曾街道」とは、五街道の一つである中仙道の別称です。江戸・板橋から高崎、それに軽井沢を経由し、佐久方面から諏訪、さらには中津川と関ヶ原を抜けて、草津から京・三条大橋へと向かいます。陽光眩しい駿河路を抜ける東海道と比較すると、遠回りでかつ山がちなので、あまり利用されなかったのではないかと勘ぐってしまいますが、実際にはそれこそ「東西二大街道」の一つとしてたくさんの行き来があったそうです。そしてこの「木曾街道六十九次」では、そんな往時の賑わいを情緒豊かに表現しています。あたかも近世の日本へタイムスリップしたかのような旅情気分を味わいました。



「木曾街道六十九次」のうち、24枚ほどは、美人画の巨匠でもある渓斎英泉の手がけた作品です。つまりこの作品は、広重と英泉の共作と言っても良いでしょう。大胆なデフォルメを凝らしながら、全体の構図には見通しが良い広重と、風景を比較的忠実に描き写しながらも、時に圧倒的な自然の険しさを伝える迫力ある英泉の作品。旅行く人々の情緒は英泉の方が上手く表現されていますが、美感溢れる風景の一コマを鋭く切り取っているのは広重です。当時、初めに描かれた英泉の作品には人気がなく、広重の手に渡ってようやく知名度が増したそうですが、ともに補完し合うかのような別々の魅力を味わうのもまた面白いと思いました。

初摺りの「木曾街道」+「東海道」も見応え十分ですが、それ以上に重要なのは、広重の旅行絵日記の中で唯一現存する作品という、「甲州日記写生帳」(1841)でした。残念ながら、公開はその見開き一ページ分のみで、他は数点のパネル写真が出ているだけでしたが、広重が風景をどのようにして捉えたのかという、その片鱗を楽しめる作品だったと思います。ちなみにこれは、明治時代にイギリスへ渡り、今回何と110年ぶりに里帰りをした作品なのだそうです。これでは次に何時公開されるか見当もつきません。良いタイミングで拝見出来ました。



広重風景画の最高峰とされる「木曾街道六十九次之内 洗馬」の幽玄さは格別です。不気味に照る満月と、おどろおどろしく靡く柳の木の連なり。川面からは夜のジメジメした湿り気が漂い、まるで幽霊でも出てくるような荒涼とした景色が広がります。そして足早に過ぎ行く舟。奥に佇む家々がまるで山の頂ように見えるのも印象的でした。夜の静寂を巧みに表した作品です。

良く出来た図録もまた楽しめます。予想以上に充実した展覧会でした。
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