「アート・スコープ 2005/2006」 原美術館 10/1

原美術館品川区北品川4-7-25
「アート・スコープ 2005/2006 - インターフェース・コンプレックス」
9/9-10/22



昨年に引き続き開催された、原美術館の「アート・スコープ」展です。去年は殆ど良い印象を持ちませんでしたが、今年はそれなりに楽しめました。日本からは森弘治と名和晃平、ドイツからはカーチャ・シュトルンツとゲオルグ・ヴィンターが、それぞれに作品を発表、展示しています。私は断然、日本人アーティスト、つまり森と名和の作品が印象に残りました。

名和晃平のオブジェは、その真っ白な空間に置かれた展示形態を含め、インスタレーション的な魅力に溢れています。まず、たくさんのガラス玉に閉じ込められた鹿の剥製が見つめる「Water Cell」(2006)からして美しい作品です。液体の入った透明な直方体の中で、気泡がゆっくりと上へ向かっている。その姿は、まるでふつふつと魂が沸き立つような、生命の誕生を司る培養液でした。そして白く輝く照明も、この樹脂を美しく演出しています。白い静寂に包まれる感覚です。

二つの立方体、「Air Cell」(2006)も見事でした。こちらはアクリル製のキューブに透明なドットがいくつも挟み込まれた作品ですが、そのドットが見る角度によって色々と表情を変えていきます。上から眺めると、ドットがまるで底なし沼のような白みへ突き刺さり、また横から見るとあたかも原子運動のようにハコの中を飛び回っている。閉じ込められながらも、四方八方に群がり、また無限の直線を引いていました。これは視覚を操られる作品です。しばらく見ていると酔ってしまうほどでした。

森弘治のビデオ・インスタレーションでは、大きなスクリーンを使って映し出された「美術のための応援」(2006)にインパクトがありました。これは、大仰な振り付けと絶叫が華々しい大学の応援団が、それこそ美術のために応援を繰り広げる作品です。一見するとその姿が滑稽に感じられますが、しばらく拝見していると、そのひた向きな応援に力強さを感じ、何やらその気迫に包み込まれてしまいます。私はこの純粋さを買いたいと思いました。



ドイツ人アーティストでは、シュトルンツの「恐怖への招待」(2005)が印象的です。シンバルのようなオブジェがいくつも並び、まるでバンドかオーケストラのような共同体を形成しています。そして注目すべきなのは、その奥に映し出されるシルエットです。オブジェと並んで立つと自分の姿が写し出されます。あたかもここで自分が演奏しているかのような演出です。

昨年同様、展示から、アーティストを相互の国へ派遣するという「アート・スコープ」のコンセプトは感じられませんでしたが、作品自体には見応えのあるものも目立ちました。今年1月のSCAIの個展などで楽しめた名和ファン(?)には、特におすすめしたいと思います。今月22日までの開催です。
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ハーディングをFMで聴く NHK音楽祭2006

NHK-FM ベストオブクラシック(10/5 19:00 - ) NHK音楽祭2006(1)

曲 モーツァルト 交響曲第6番 K.43
         ピアノ協奏曲第20番 K.466
  ブラームス  交響曲第2番 作品73

指揮 ダニエル・ハーディング
演奏 マーラー・チェンバー・オーケストラ
ピアノ ラルス・フォークト

収録:NHKホール(生中継) 2006/10/5

実際にホールへ足を運びたかったのですが、都合がつかなかったので録音で楽しむことにしました。今日から始まったNHK音楽祭より、ハーディング&マーラー・チェンバー・オーケストラの演奏会です。



ハーディングは聴衆へのサービス精神に溢れた指揮者だと思います。これほど音楽をダイナミックに分かり易い形で、しかもそれこそ楽しく演奏出来る方も珍しいのではないでしょうか。K.466では、第二楽章をロマン風味にこってりと味付け、その一方で三楽章を颯爽に流していました。もちろん、単なるインテンポ系の演奏ではありません。時折揺れ動くフレージングがまるでジャズのスイングのような効果をもたらし、時に音の流れを断ち切るかのような乾いた金管が緊張感を与えている。聴かせどころはテンポを落として、とても丁寧に演奏していたのが印象的でした。明暗の表裏一体となったモーツァルトです。

ブラームスでは響きのバランス感が優れています。音の情報量が極めて多い演奏です。木管と弦、それに金管が、それぞれに主張しながらも美しく合わせ重なって聞こえてきました。木管を強調する際には弦を控えめに、また金管を強めに吹かせる際は一瞬の間合いを入れる。音量バランスへの配慮が絶妙です。フォルテでも単に音が増幅するわけではありません。

刹那的な第二楽章がとても濃厚でした。特に終結部では、まるで煙のようにもやもやと立ち上がりながらも分厚い響きが訪れるワーグナーのような音楽になっていたのには驚きました。贅肉を徹底して削ぎ落とし、鮮烈な音の渦を作り出す古楽器系の演奏の面白さだけでなく、時に往年の名指揮者が聴かせたようなロマン的な音楽を加味するのもハーディングの良さなのかもしれません。(後者への志向が強いとさえ思いました。)

ノリントン、ルイージ、そしてアーノンクールと続く今年のNHK音楽祭は聞き逃せません。今後もチェックしていきたいです。
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