「法然と親鸞展」 東京国立博物館

東京国立博物館
「法然と親鸞 ゆかりの名宝」
10/25-12/4



法然没後800回忌、親鸞没後750回忌を機に、その偉業をゆかりの品々とともに辿ります。東京国立博物館で開催中の「法然と親鸞 ゆかりの名宝」展のプレスプレビューに参加してきました。

これまでにも今年の京博の法然展など、単独の展覧会で取り上げられることはあった鎌倉新仏教の祖、法然と親鸞ですが、今回のように二人合わさった形で紹介されてきたことは一度もありませんでした。


展示風景

言わば法然と親鸞の800年ぶりの再会です。彼らが築き上げた浄土宗、浄土真宗の全面的な協力のもと、国宝、重文90点を含む、全180点の貴重な美術品が一堂に会していました。

まずは展覧会の構成です。

第一章 人と思想
第二章 伝記絵にみる生涯
第三章 法然と親鸞をめぐる人々
第四章 信仰の広がり


経典に書、仏画、そして絵巻物から仏像、はたまた鎌倉から応挙に至る屏風絵と、実に盛りだくさんな内容です。


「歎異抄」 蓮如筆 2巻 室町時代・15世紀 京都・西本願寺 *上巻(~11/13)、下巻(11/15~)

冒頭に法然と親鸞が実際に記した肉筆の資料を据え、以降、伝記絵における生涯、そして弟子たちの活動、さらには太子信仰から、浄土宗、浄土真宗ゆかりの品々を見る流れとなっていました。

法然と親鸞の業績を記した解説パネルなどに続き、前半はひたすら経典や肖像画などが続きますが、ここで見逃せないのが親鸞の主著、「教行信証」です。


「教行信証(坂東本)」親鸞筆 6冊 鎌倉時代・13世紀 京都・東本願寺 *第一、二冊(~11/6)、第三、四冊(11/8~11/20)、第五、六冊(11/22~)

これはまさに浄土真宗の根本経典として知られる重要な作品ですが、ここでは親鸞唯一の直筆の「坂東本」と言われる計六冊のうちの二冊が、それぞれ二週間毎の展示替えを挟んで公開されています。

そもそも親鸞は悪人正機、ようはこれまでの仏教では見捨てられてきた人々も南無阿弥陀仏を唱えれば救われると解き続けましたが、いわばその画期的な教えのあり方を、事細かな筆致にて記しました。

親鸞はこの教えを60歳頃に表し、80歳を数えた最晩年に至るまで改訂を何度も繰り返しましたが、それは無数に書き込まれた記号や朱筆などを見てもよくわかるかもしれません。

またこの時期、親鸞は教行信証の執筆と並行して「西方指南抄」にも取り組んでいます。こちらは全891ページにも及ぶ大作ながらも、僅か三カ月間で完成されたものですが、いずれも自身の教えを生きた言葉として残そうとした晩年の親鸞の思いをくみ取れる作品とも言えるのではないでしょうか。


「観無量寿経註」 親鸞筆 1巻 鎌倉時代・13世紀 京都・西本願寺 *~11/6

またこれらの晩年の作品と並び、20代の頃に記したのが「観無量寿経註」です。会場では両者の作品が比較的近い場所で展示されています。是非とも見比べ下さい。


展示風景

「法然上人絵伝」をはじめとした伝記絵が怒涛のように登場する第二章だけて大変なボリュームがありますが、それを経由して現れるのがやや小ぶりの仏様です。


「阿弥陀如来立像」 1躯 鎌倉時代・建暦2年(1212) 京都・浄土宗 *通期

それが「阿弥陀如来立像」です。法然の弟子、源智が師の没後一周忌にあわせて造った仏像ですが、どこか力強くも美しい造形はもとより、像にまつわるエピソードも聞き逃すことは出来ません。

というのも修復の際、仏像の内部から、何と4万6千名にも及ぶ姓名を記した文書が発見されました。

これらはもちろん阿弥陀を通し、法然に縁を求めた人々の名前に他なりませんが、中には頼朝や後鳥羽院らと言った有力者の名もあったそうです。もちろん頼朝らは既に没していたため、本人が実際に結縁したわけではありませんが、源智が言わば貴賤を問わず、たくさんの人々と法然を結ぶことこそ善になると考えて、このような名前を記しました。

また像には金泥でなく金箔が貼られています。そもそも阿弥陀とは無量の光を表すという意味もあり、このような輝かしい仏像が造られたそうですが、剥離が進んでいるものの、一部からの強い光は今も良く見ることが出来るのではないでしょうか。

また小像であるのは、いわゆる専修念仏の教えから、そもそも仏像を必要とされなかったことにも由来しているそうです。

もちろんそうした教えも時代が進むと変化し、後に見られるような巨大な仏像も造られていきます。


「阿弥陀三尊坐像」 3躯 鎌倉時代・中尊 正安元年(1299)・両脇侍 13世紀 神奈川・浄光明寺 *通期

それが「阿弥陀三尊坐像」です。「阿弥陀如来立像」から約80年後、鎌倉後期に造られたこの如来像の総高は、約4メートルにも及んでいます。

この両脇侍が坐った形の像は鎌倉期ではかなり珍しいそうですが、少し首を傾げ、憂いをたたえたような表現には惹かれるものがありました。


展示風景

この後も太子信仰に因んだ立像、また絵巻に屏風と続きますが、最後の最後に登場するのが今回の最大の目玉、「阿弥陀二十五菩薩来迎図」、通称「早来迎」です。


「阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)」 1幅 鎌倉時代・14世紀 京都・知恩院 *~11/13

鎌倉来迎図を最も代表する名宝ですが、ともかくも山肌から阿弥陀聖衆が湧き出してくるかのような構図、そしてそのトドドという音まで聞こえてくるかのようなスピード感、さらには身体をくねらせて踊るような菩薩の躍動的な表現などには強く感心させられるのではないでしょうか。

また金に覆われた阿弥陀をはじめ、右下の宮殿など、細部の表現もかなり緻密です。 これ一点だけでも展覧会を見る価値は十分にありました。


左、「竹雀図襖」 円山応挙筆 4面 江戸時代・寛政3年(1791) 京都・東本願寺 *~11/6

さて早来迎をはじめ、基調な品々は全て通期で展示されるわけではありません。11月中旬の展示替えを挟み、文書と絵画の大半が入れ替わります。出品スケジュールは以下のリンク先をご参照下さい。

「法然と親鸞 ゆかりの名宝 作品リスト」@東京国立博物館

※早来迎は11月13日までの展示。

またともすると取っ付きにくい仏教美術の展示ですが、今回はそうした面にもよく配慮した作りとなっていました。


展示風景

立体の解説パネルや、法然と親鸞でキャプションの色を区別するなど、よりわかりやすい形で作品を味わえるように工夫されています。またライティングは空海と密教美術展を思わせるようなコントラストの強いものでした。仏像展示などでは影がくっきりと浮かび上がっています。



お馴染みのベアブリックもグッズとして登場しています。数量限定、会場内だけの発売です。お求めの方は早めにどうぞ。

まずは早来迎です。繰り返しますが、展示期間は11月中旬までと僅かです。お見逃しなきようご注意下さい。

12月4日まで開催されています。

「法然と親鸞 ゆかりの名宝」 東京国立博物館・平成館
会期:10月25日(火)~12月4日(日)
休館:月曜日
時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで) *会期中の金曜日は20:00まで開館。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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