「知られざる歌舞伎座の名画」 山種美術館

山種美術館
「歌舞伎座建替記念特別展 知られざる歌舞伎座の名画」
9/17-11/6



歌舞伎座の再建60年を記念して、 同劇場の所蔵する日本画、洋画を展観します。山種美術館で開催中の「知られざる歌舞伎座の名画」展へ行って来ました。

既にかなり進んでいるのでご存じの方も多いかもしれませんが、現在、東銀座の歌舞伎座は2013年の新劇場完成へ向けて建替工事中です。

旧歌舞伎座では会場内に近代日本画や洋画の名品が飾られていましたが、今回は建替工事に合わせて、それらの多くをここ山種美術館で展示することになりました。


高橋由一「墨堤櫻女」1876-77年 カンヴァス・油彩 株式会社歌舞伎座蔵

歌舞伎座の絵画をまとめて公開するのは何と23年ぶりのことです。私自身は歌舞伎座へ一度も行ったことがなく、歌舞伎そのものの知識もありませんが、名だたる画家たちによる絵画を素直に堪能することが出来ました。

はじめは洋画ですが、いきなり思いがけないほどに充実した作品が登場します。


浅井忠「牛追い」1904年 カンヴァス・油彩 株式会社歌舞伎座蔵

それが浅井忠の「牛追い」です。京都・大原の牛追いの姿を捉えた一枚ですが、その力強い筆致には目を奪われます。

明るい光に照らされて輝く草、そしてどっしりとした牛の重み、またどこか可愛げな表情など、見どころの多い作品と言えるのではないでしょうか。

歌舞伎に因んだ作品として橋本邦助の「幕間」を挙げないわけにはいきません。右手奥に舞台を、左手前に大きくクローズアップした二名の女性の立ち姿が描かれています。前景と後景を対比して生まれた奥行き感のある画面構成も秀逸でした。

洋画10点ほどに対して、40点の規模で登場する日本画がメインです。

どこか見覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。松林桂月の「夜桜」は、東近美所蔵の「春宵花影図」の10年後に描かれたという、ほぼ同じ構図をとる作品でした。

仄かな月光に灯された夜桜の表情には深い味わいが感じられます。モノトーンながらも情景が浮かびあがってくる姿はなんとも儚気でした。

平塚の御舟展以来の対面かもしれません。大好きな御舟からは大作が一枚、「花ノ傍」が出品されています。


速水御舟「花ノ傍」1932年 紙本・彩色 株式会社歌舞伎座蔵

下絵が多く、本画も二度ほどやり直したという苦心の作ですが、ダリヤの花からツートーンカラーの服、そして緑色のストライプのテーブルクロスと、色が半ば乱れ舞う味わいは、なかなか他の日本画では楽しめません。 正面を向く白い犬の可愛らしい様子もまた印象的でした。


鏑木清方「さじき」1945年頃 絹本・彩色 株式会社歌舞伎座蔵

深水、清方、松園の美人画三点揃い踏みは展示のハイライトと言っても良いのではないでしょうか。


上村松園「円窓美人」1943年 絹本・彩色 株式会社歌舞伎座蔵

見つめあう二人に色気の香る深水、そしてオペラグラスを前に舞台を見やる女性を叙情的に示した清方、さらには円窓越しに佇む横顔の女性を完膚なき構図で描く松園と、三者三様の魅力を存分に楽しむことが出来ました。

なお余談ですが、深水は10月22日より平塚市美術館で回顧展が予定されています。こちらも楽しみにしたいところです。

「開館20周年記念展 伊東深水」 平塚市美術館(10/22-11/27)

私にとっては衝撃の一枚です。川端龍子の「青獅子」には度肝を抜かれます。

百獣の王獅子と百華の王牡丹の組み合わせという、能や歌舞伎でもお馴染みの主題ですが、ともかく青々とした獅子が白い大きな牡丹を噛み砕く様には後ずさりしてしまうほどの迫力があります。

以前、サントリー美術館の鳳凰と獅子展でも百川の同主題の作品に恐れおののいたことがありますが、この青獅子にも同じくらいにインパクトがありました。


木村荘八「歌舞伎もの十八番より勧進帳」1928年 絹本・彩色  株式会社歌舞伎座蔵

さて歌舞伎座ということで、主題だけでなく、もっと歌舞伎に直接因んだ作品が出ているのは言うまでもありません。

その一例が今回初公開となる「俳優帖」、もしくは「俳優書画帖」といった類の作品です。そこには歌舞伎俳優が自ら筆をとった画などが残されています。

また六代目中村歌右衛門による「紅白梅図」も興味深い作品ではないでしょうか。 彼が楽屋の欄間へ直接描いた紅白梅はなかなか軽妙でした。


「連合国最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥の手紙」1951年 株式会社歌舞伎座蔵

さらには二代国貞による「歌舞伎絵衝立」他、GHQ統治下にあった歌舞伎座に関する史料としてマッカーサーの手紙なども展示されています。(初公開)

そこには歌舞伎座再建に当たっての祝辞が述べられていましたが、同じく史料として、例えば検閲によってセリフの一部分が削られていたこと、またさらにそれ以前の大正期においても警察の統制で検閲が行われていたことなども紹介されていました。


東山魁夷「秋映」1959年 紙本・彩色 株式会社歌舞伎座

大半の作品は通期で展示されますが、一部は頁替、展示替があります。詳しくは出品リストをご参照下さい。

「知られざる歌舞伎座の名画」展出品リスト(PDF)

普段、劇場内に掛かっていることもあってか、サイズの大きな作品が目立ちます。また大観や玉堂の作は貴賓室や応接室にあったため、長らく一般向けに公開されてこなかったそうです。そうしたレアな作品も要注目ではないでしょうか。

11月6日まで開催されています。

「歌舞伎座建替記念特別展 知られざる歌舞伎座の名画」 山種美術館
会期:9月17日(土)~11月6日(日)
休館:月曜日。但し9/19、10/10は開館、翌火曜日は休館。
時間:10:00~17:00
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )