都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「若冲が来てくれました」 仙台市博物館
仙台市博物館
「若冲が来てくれましたープライスコレクション 江戸絵画の美と生命」
3/1-5/6

仙台市博物館で開催中の「若冲が来てくれましたープライスコレクション 江戸絵画の美と生命」のプレスプレビューに参加しました。
カリフォルニア在住のプライス夫妻が長年に渡って蒐集してきた江戸絵画コレクション。2006年には「人生最後の帰国展」(プライスさん談)として、東京・京都・名古屋・九州での里帰り展が実現。延べ80万名超の来場者を記録し、言わば一大江戸絵画ブームを呼び起こしました。
そのプライスコレクションが今度は東北の地に。まさに東北へ「若冲が来てくれました」。ここ仙台を皮切りに岩手、福島へと巡回します。
さて「最後の帰国展」を何故にプライスさんが再び開催することを決断したのか。それは言うまでもなくかの東日本大震災にあります。

第3章「プライス動物園」展示室風景
震災の状況をカリフォルニアの自宅で見知ったプライス夫妻は、その甚大な被害に強い衝撃を受け、ともかくも自分たちに何が出来るのかを自問自答したそうです。
そして2週間後。瓦礫に埋まっていた梅の木から白い花が咲いたというニュースに感銘を受けます。過酷な状況でも生きる花の力強さ、そして美しさ。そうしたものが何か心の支えになるのではないか。省みて美しい草花や生き生きとした動物たちを描いた自らの江戸絵画コレクションも、被災地で展示することで何か一つの慰めになるのではないか。そう考えて本展監修の辻惟雄氏に連絡。そこから結果的に2年越しの展覧会が実現したというわけなのです。(作品は無償で貸与されました。)

酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」 展示期間:3/1~4/7(1~6月)、4/9~5/6(7~12月)
前置きが長くなりました。ともかくそうしたプライス夫妻の想いが詰まったコレクション展。展示では如何に江戸絵画を楽しく、また分かりやすく接してもらうかに主眼が置かれています。
早速、この7つの章立てから。出品は約100点です。(展示替えリスト)
第1章「ようこそプライスワールドへ」
第2章「はる・なつ・あき・ふゆ」
第3章「プライス動物園」
第4章「美人大好き」
第5章「お話きかせて」
第6章「若冲の広場」
第7章「生命のパラダイス」
何ともキャッチー、それでいて江戸絵画の魅力を凝縮したようなテーマではないでしょうか。
さらに親しみやすく作品に接してもらう試みも。それがキャプションとタイトルです。一例を挙げましょう。

酒井抱一「三十六歌仙図屏風」 展示期間:3/1~4/7
例えば我らが抱一の「三十六歌仙図屏風」、言うまでもなく古来からの和歌の名人たちを生き生きと表した作品ですが、子ども向け作品名として「三十六人のうたの名人」とも表記。しかも実は35名しか描かれていないことを紹介するパネルも分かりやすい!

「三十六人のうたの名人」解説パネル
また「仏涅槃図」は、ずばり「おしゃかさまがお亡くなりになりました」。日本美術はとかくタイトルが難しいこともありますが、本展に限っては問題なし。ともかく感覚的に楽しむことが出来ました。

葛蛇玉「雪中松に兎・梅に鴉図屏風」 展示期間:3/1~4/7
さていつくかの作品をご紹介。既に江戸絵画では定評のあるプライスコレクション、見応えがあるのは言うまでもありませんが、例えば葛蛇玉の「雪中松に兎・梅に鴉図屏風」、通称「雪の夜の白いウサギと黒いカラス」における墨の明暗表現は実に見事。決して知名度の高い絵師ではありませんが、ともかく若い頃から「好きなものを買っていった。」というプライスさんの趣味が伺える作品です。

長沢盧雪「白象黒牛図屏風」 全期間展示
また盧雪の作品が充実しているのも見逃せないポイント。巨大な白象と黒牛、そして小さな鴉に白い子犬と、大小、白黒を対比させた「白象黒牛図屏風」(白いゾウと黒いウシ)も、硬軟使い分ける盧雪の魅力を味わえる大作ではないでしょうか。

第6章「若冲の広場」展示室風景
それにお目当ての若冲も20点弱展示。プライスさんが最初にコレクションした「葡萄図」をはじめ、アクロバットな鶏、そして筋目描の鯉、さらには裏彩色に透き通る鶴、また可愛らしい伏見人形などなどと、多様な若冲作品が一堂に会しています。
そしてトリを飾るのが升目描きの「鳥獣花木図屏風」。何とガラスケースを取っ払った露出展示です。ちなみに本作の別名は「花も木も動物もみんな生きている」。ここにプライスさんの本展にかけるメッセージがあります。
と言うのもこの展覧会、この作品だけでも日本に出したいというプライスさんの願いからスタートしているのです。

伊藤若冲「鳥獣花木図屏風」 全期間展示
震災後、毎日この屏風を拝むように眺めていたというプライスさん。夫妻は屏風の中に描かれた無数の動物たちが共存、ようは強い動物も弱い動物も一緒に花や草木とともにいる姿に、一種の楽園、仏画的平穏の世界を見て取っています。
だからこその「みんな生きている」というタイトル。生きていることの喜び。まさに生命讃歌です。もちろんこの作品については様々な議論もありますが、私自身、今回ほど「鳥獣花木図屏風」が美しく鮮やかに見えたことはありませんでした。

第6章「若冲の広場」展示室風景
さらに本展では「特別賛助出品」として三の丸尚蔵館、東京・奈良・京都の国立博物館、またMIHO MUSEUMからも計10点超の作品が出品。展示替えがあるため、一度に見られるわけではありませんが、3/26からは2008年に発見されて大いに話題を集めた若冲のクジラ、「象と鯨図屏風」(ゾウとクジラの呼び交わし)も登場します。

「若冲が来てくれました展」ミュージアムショップ
さて会場先には定番のミュージアムショップ。もちろん若冲などの江戸絵画モチーフの絵はがきやファイルなどが売られていますが、今回はいつもと一味も二味も違う工夫が。

「若冲が来てくれました展」オリジナルグッズ 日本酒セット
というのも東北三県に因んだオリジナルグッズを販売。うち中には津波によって倉庫を流されてしまった蔵本のお酒などもあります。こちらは改めて別エントリで紹介しますが、ともかく単なるコラボグッズとは一線を画したアイテムが登場しているのです。(グッズ売上の一部は被災地に寄付されます。)
「若冲が来てくれました展図録/日本経済新聞社」
そして最後にご紹介したいのが図録です。出品作の図版と解説が記されているのは言うまでもありませんが、本展にかけるプライス夫妻の意気込みの伝わるインタビュー記事なども充実。そして何よりも見開きには被災地の子どもたちの写真が。プライス夫妻が常に述べる「子どもたちにこそ見て欲しい。」そう、彼ら彼女らの未来が主役なのです。

「若冲が来てくれました展」図録見開き
図録は一般書籍として一部書店でも販売。入手可能です。是非ともお手にとってご覧ください。
最後に巡回の情報を改めて整理しておきます。
「若冲が来てくれましたープライスコレクション 江戸絵画の美と生命」(開催情報)
【宮城】仙台市博物館 3月1日(金)~5月6日(月・振休)
【岩手】岩手県立美術館 5月18日(土)~7月15日(月・祝)
【福島】福島県立美術館 7月27日(土)~9月23日(月・祝)
記者会見時に悦子・プライスさんが「色々批判はあろうとも、優しさの押し売りで良い。」とまで仰った展覧会。そして「日本人のもの作りの精神は江戸絵画でも同じ。今こそ見つめ直して欲しい。」という力強いメッセージもいただきました。(メッセージは公式サイトから動画で聞くことも出来ます。)

「若冲が来てくれました」展記者会見時のプライス夫妻(右のお二人)
5月6日(月・祝)までの開催です。もちろんおすすめします。高校生以下は無料です!
「若冲が来てくれましたープライスコレクション 江戸絵画の美と生命」 仙台市博物館
会期:3月1日(金)~5月6日(月・祝)
休館:毎週月曜日。但し3/11、4/29、5/6は開館。
時間:9:00~16:45(入館は16:15まで)
料金:一般・大学生800円、高校生以下無料。*10名以上の団体は100円引。*割引券
住所:仙台市青葉区川内26
交通:仙台駅西口バスプール9番乗場710~720系統のバス(718系統を除く)で約10分、博物館・国際センター前下車徒歩3分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「若冲が来てくれましたープライスコレクション 江戸絵画の美と生命」
3/1-5/6

仙台市博物館で開催中の「若冲が来てくれましたープライスコレクション 江戸絵画の美と生命」のプレスプレビューに参加しました。
カリフォルニア在住のプライス夫妻が長年に渡って蒐集してきた江戸絵画コレクション。2006年には「人生最後の帰国展」(プライスさん談)として、東京・京都・名古屋・九州での里帰り展が実現。延べ80万名超の来場者を記録し、言わば一大江戸絵画ブームを呼び起こしました。
そのプライスコレクションが今度は東北の地に。まさに東北へ「若冲が来てくれました」。ここ仙台を皮切りに岩手、福島へと巡回します。
さて「最後の帰国展」を何故にプライスさんが再び開催することを決断したのか。それは言うまでもなくかの東日本大震災にあります。

第3章「プライス動物園」展示室風景
震災の状況をカリフォルニアの自宅で見知ったプライス夫妻は、その甚大な被害に強い衝撃を受け、ともかくも自分たちに何が出来るのかを自問自答したそうです。
そして2週間後。瓦礫に埋まっていた梅の木から白い花が咲いたというニュースに感銘を受けます。過酷な状況でも生きる花の力強さ、そして美しさ。そうしたものが何か心の支えになるのではないか。省みて美しい草花や生き生きとした動物たちを描いた自らの江戸絵画コレクションも、被災地で展示することで何か一つの慰めになるのではないか。そう考えて本展監修の辻惟雄氏に連絡。そこから結果的に2年越しの展覧会が実現したというわけなのです。(作品は無償で貸与されました。)

酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」 展示期間:3/1~4/7(1~6月)、4/9~5/6(7~12月)
前置きが長くなりました。ともかくそうしたプライス夫妻の想いが詰まったコレクション展。展示では如何に江戸絵画を楽しく、また分かりやすく接してもらうかに主眼が置かれています。
早速、この7つの章立てから。出品は約100点です。(展示替えリスト)
第1章「ようこそプライスワールドへ」
第2章「はる・なつ・あき・ふゆ」
第3章「プライス動物園」
第4章「美人大好き」
第5章「お話きかせて」
第6章「若冲の広場」
第7章「生命のパラダイス」
何ともキャッチー、それでいて江戸絵画の魅力を凝縮したようなテーマではないでしょうか。
さらに親しみやすく作品に接してもらう試みも。それがキャプションとタイトルです。一例を挙げましょう。

酒井抱一「三十六歌仙図屏風」 展示期間:3/1~4/7
例えば我らが抱一の「三十六歌仙図屏風」、言うまでもなく古来からの和歌の名人たちを生き生きと表した作品ですが、子ども向け作品名として「三十六人のうたの名人」とも表記。しかも実は35名しか描かれていないことを紹介するパネルも分かりやすい!

「三十六人のうたの名人」解説パネル
また「仏涅槃図」は、ずばり「おしゃかさまがお亡くなりになりました」。日本美術はとかくタイトルが難しいこともありますが、本展に限っては問題なし。ともかく感覚的に楽しむことが出来ました。

葛蛇玉「雪中松に兎・梅に鴉図屏風」 展示期間:3/1~4/7
さていつくかの作品をご紹介。既に江戸絵画では定評のあるプライスコレクション、見応えがあるのは言うまでもありませんが、例えば葛蛇玉の「雪中松に兎・梅に鴉図屏風」、通称「雪の夜の白いウサギと黒いカラス」における墨の明暗表現は実に見事。決して知名度の高い絵師ではありませんが、ともかく若い頃から「好きなものを買っていった。」というプライスさんの趣味が伺える作品です。

長沢盧雪「白象黒牛図屏風」 全期間展示
また盧雪の作品が充実しているのも見逃せないポイント。巨大な白象と黒牛、そして小さな鴉に白い子犬と、大小、白黒を対比させた「白象黒牛図屏風」(白いゾウと黒いウシ)も、硬軟使い分ける盧雪の魅力を味わえる大作ではないでしょうか。

第6章「若冲の広場」展示室風景
それにお目当ての若冲も20点弱展示。プライスさんが最初にコレクションした「葡萄図」をはじめ、アクロバットな鶏、そして筋目描の鯉、さらには裏彩色に透き通る鶴、また可愛らしい伏見人形などなどと、多様な若冲作品が一堂に会しています。
そしてトリを飾るのが升目描きの「鳥獣花木図屏風」。何とガラスケースを取っ払った露出展示です。ちなみに本作の別名は「花も木も動物もみんな生きている」。ここにプライスさんの本展にかけるメッセージがあります。
と言うのもこの展覧会、この作品だけでも日本に出したいというプライスさんの願いからスタートしているのです。

伊藤若冲「鳥獣花木図屏風」 全期間展示
震災後、毎日この屏風を拝むように眺めていたというプライスさん。夫妻は屏風の中に描かれた無数の動物たちが共存、ようは強い動物も弱い動物も一緒に花や草木とともにいる姿に、一種の楽園、仏画的平穏の世界を見て取っています。
だからこその「みんな生きている」というタイトル。生きていることの喜び。まさに生命讃歌です。もちろんこの作品については様々な議論もありますが、私自身、今回ほど「鳥獣花木図屏風」が美しく鮮やかに見えたことはありませんでした。

第6章「若冲の広場」展示室風景
さらに本展では「特別賛助出品」として三の丸尚蔵館、東京・奈良・京都の国立博物館、またMIHO MUSEUMからも計10点超の作品が出品。展示替えがあるため、一度に見られるわけではありませんが、3/26からは2008年に発見されて大いに話題を集めた若冲のクジラ、「象と鯨図屏風」(ゾウとクジラの呼び交わし)も登場します。

「若冲が来てくれました展」ミュージアムショップ
さて会場先には定番のミュージアムショップ。もちろん若冲などの江戸絵画モチーフの絵はがきやファイルなどが売られていますが、今回はいつもと一味も二味も違う工夫が。

「若冲が来てくれました展」オリジナルグッズ 日本酒セット
というのも東北三県に因んだオリジナルグッズを販売。うち中には津波によって倉庫を流されてしまった蔵本のお酒などもあります。こちらは改めて別エントリで紹介しますが、ともかく単なるコラボグッズとは一線を画したアイテムが登場しているのです。(グッズ売上の一部は被災地に寄付されます。)

そして最後にご紹介したいのが図録です。出品作の図版と解説が記されているのは言うまでもありませんが、本展にかけるプライス夫妻の意気込みの伝わるインタビュー記事なども充実。そして何よりも見開きには被災地の子どもたちの写真が。プライス夫妻が常に述べる「子どもたちにこそ見て欲しい。」そう、彼ら彼女らの未来が主役なのです。

「若冲が来てくれました展」図録見開き
図録は一般書籍として一部書店でも販売。入手可能です。是非ともお手にとってご覧ください。
最後に巡回の情報を改めて整理しておきます。
「若冲が来てくれましたープライスコレクション 江戸絵画の美と生命」(開催情報)
【宮城】仙台市博物館 3月1日(金)~5月6日(月・振休)
【岩手】岩手県立美術館 5月18日(土)~7月15日(月・祝)
【福島】福島県立美術館 7月27日(土)~9月23日(月・祝)
記者会見時に悦子・プライスさんが「色々批判はあろうとも、優しさの押し売りで良い。」とまで仰った展覧会。そして「日本人のもの作りの精神は江戸絵画でも同じ。今こそ見つめ直して欲しい。」という力強いメッセージもいただきました。(メッセージは公式サイトから動画で聞くことも出来ます。)

「若冲が来てくれました」展記者会見時のプライス夫妻(右のお二人)
5月6日(月・祝)までの開催です。もちろんおすすめします。高校生以下は無料です!
「若冲が来てくれましたープライスコレクション 江戸絵画の美と生命」 仙台市博物館
会期:3月1日(金)~5月6日(月・祝)
休館:毎週月曜日。但し3/11、4/29、5/6は開館。
時間:9:00~16:45(入館は16:15まで)
料金:一般・大学生800円、高校生以下無料。*10名以上の団体は100円引。*割引券
住所:仙台市青葉区川内26
交通:仙台駅西口バスプール9番乗場710~720系統のバス(718系統を除く)で約10分、博物館・国際センター前下車徒歩3分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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