都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ポール・デルヴォー展」 埼玉県立近代美術館
埼玉県立近代美術館
「ポール・デルヴォー展 夢をめぐる旅」
1/22~3/24
埼玉県立近代美術館で開催中の「ポール・デルヴォー展 夢をめぐる旅」へ行ってきました。
鹿児島、府中、下関、埼玉と全国巡回中のデルヴォー展。(以降、岡崎、秋田へと巡回。)
下記リンク先の府中展の感想にも書きましたが、知られざる初期作に目を向け、画業を一生涯に渡って見据えた回顧展。単に名品展ではない、デルヴォーの画業のエッセンスを提示する充実した展示となっています。
「ポール・デルヴォー展」@府中市美術館(昨年の府中展の感想です。)
関東の巡回は府中とここさいたま。実は私自身、巡回展を追っかけることは殆どありませんが、今回ばかりは別。もちろんデルヴォーが好きなこともありますが、埼近美だからこその出品作を回顧展の中で見たかったということもあります。
「森」1948年 埼玉県立近代美術館
それがまさに「森」。言うまでもなく埼玉県美のコレクションで本会場のみの展示。そしてまさにこれこそ私がデルヴォーに開眼した一枚。かつて常設で見て以来、デルヴォーを追っかけることになった作品です。
汽車に裸女、そして夜の森。まさにデルヴォーならではの幻想性に満ちあふれた世界が広がっています。率直なところ巡回先にも出して欲しかった気もしますが、やはりデルヴォーの筆ものった1950年前後の傑作。改めて魅惑的な作品だと感じました。
しかしながら興味深いのは本作の特異性。同館ニュース誌の「ソカロ」にもテキストがあるように、背後に広がる濃密な森林描写はおおよそデルヴォーらしからぬもの。と言うのも、彼の作品空間は基本的に古代を連想させる都市や室内などが多いのです。
しかもそれらはいずれも舞台のような奥行きを持っているのも特徴。ちなみにデルヴォーは画家を志す前にアカデミーで建築を学んでいます。
にも関わらずこの大森林。かき分けて進めば二度と帰れそうもないほど木々が鬱蒼と生い茂っています。そして裸女。デルヴォーの他の作品ではあまり表情を見せない女性が、ここではどこか恍惚としたようなうっとりした様子を浮かべています。
「トンネル」1978年 ポール・デルヴォー財団
「ソカロ」誌ではそこに最愛の女性タムとの17年ぶりの再会を読み取っていましたが、確かに他のデルヴォー画と見比べると明らかに個性的。画業を網羅する回顧展だからこそ浮かび上がってくる「森」の特異点。実に興味深いところでした。
「森」で長くなりました。さて本展、巡回展ということで、基本的には府中と同一内容。章立ても同じです。
第1章「写実主義と印象主義の影響」
第2章「表現主義の影響」
第3章「シュルレアリスムの影響」
第4章「ポール・デルヴォーの世界」
欲望の象徴としての女性、男性の居場所
生命の象徴としての骸骨
汽車、トラム、駅
建築的要素
ルーツとしての過去のオブジェ
フレスコ壁画
第5章「旅のおわり」
「グラン・マラドの水門」1921年 個人蔵
やはり面白いのはいわゆるデルヴォーがデルヴォーになった以前、つまりは印象派や表現主義の影響を受けていた作品群。「グラン・マラドの水門」(1921年)などはおおよそキャブションを確認しないとデルヴォーとは分かりません。
「タムの肖像」1949年 個人蔵
そして当然ながら展示の中核となるのが、生涯の伴侶タム。若かりしき頃、結婚を断念して別れ、20年後になって劇的に再会。そして生活をともにしたという運命の女性です。デッサンもいくつか出品されています。
さて埼玉会場の特徴としてはモチーフとなる汽車やランプなどの模型を作品と一緒に並べていること。デルヴォーは大変な汽車好きで、トラムを細かに描いたスケッチなどもありますが、例えば先ほどの「森」では、画中に出てくる汽車の模型「OB12」もあわせて紹介。他に手鏡なども。いずれもアトリエに残されていたものだそうです。
デルヴォーのアトリエにあった列車模型「OB12」 ポール・デルヴォー財団
これらの模型は府中展でも出ていましたが順路の最後でした。しかし埼玉では関連作品のすぐ隣に展示。絵と直接、見比べることが可能です。これが思いの外に楽しめました。
「カリュプソー」(1986年) ポール・デルヴォー財団
デルヴォーは晩年になって視力を失い、92歳になって最愛のタムを亡くしますが、その日を境に筆を置き、絵を描くことをやめてしまいます。晩年の「カリュプソー」(1986年)に何を見るのか。生涯にわたって愛したもの、夢見たものを自身のステージに立たせて描いたデルヴォー。その人生はタムの元へと旅だっていきました。
ところで所蔵家の健康上の理由により、当初からの出品が叶わず、会期中からの展示を検討してきた「バルコニー」は、結局、展示出来なくなりました。
「バルコニー」1948年 個人蔵(*非出品)
なお同館では「バルコニー」の観覧希望者の半券にスタンプを押すなどとして再入場可の措置をとっていましたが、今回出品不能になったのにも関わらず、そのスタンプを見せれば、再度入場することが出来るそうです。これはとても有り難い対応です。ありがとうございます。
出品作のうち半数は日本初公開。関東巡回のラストです。お見逃しなきようおすすめします。
3月24日まで開催されています。*埼玉展終了後、岡崎市立美術館(4/6~5/26)、秋田市立千秋美術館(7/20~9/1)へと巡回予定。
「ポール・デルヴォー展 夢をめぐる旅」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:1月22日(火)~3月24日(日)
休館:月曜日。但し2月11日は開館。
時間:10:00~17:30
料金:一般1100(880)円 、大高生880(710)円、中学生以下、65歳以上無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
「ポール・デルヴォー展 夢をめぐる旅」
1/22~3/24
埼玉県立近代美術館で開催中の「ポール・デルヴォー展 夢をめぐる旅」へ行ってきました。
鹿児島、府中、下関、埼玉と全国巡回中のデルヴォー展。(以降、岡崎、秋田へと巡回。)
下記リンク先の府中展の感想にも書きましたが、知られざる初期作に目を向け、画業を一生涯に渡って見据えた回顧展。単に名品展ではない、デルヴォーの画業のエッセンスを提示する充実した展示となっています。
「ポール・デルヴォー展」@府中市美術館(昨年の府中展の感想です。)
関東の巡回は府中とここさいたま。実は私自身、巡回展を追っかけることは殆どありませんが、今回ばかりは別。もちろんデルヴォーが好きなこともありますが、埼近美だからこその出品作を回顧展の中で見たかったということもあります。
「森」1948年 埼玉県立近代美術館
それがまさに「森」。言うまでもなく埼玉県美のコレクションで本会場のみの展示。そしてまさにこれこそ私がデルヴォーに開眼した一枚。かつて常設で見て以来、デルヴォーを追っかけることになった作品です。
汽車に裸女、そして夜の森。まさにデルヴォーならではの幻想性に満ちあふれた世界が広がっています。率直なところ巡回先にも出して欲しかった気もしますが、やはりデルヴォーの筆ものった1950年前後の傑作。改めて魅惑的な作品だと感じました。
しかしながら興味深いのは本作の特異性。同館ニュース誌の「ソカロ」にもテキストがあるように、背後に広がる濃密な森林描写はおおよそデルヴォーらしからぬもの。と言うのも、彼の作品空間は基本的に古代を連想させる都市や室内などが多いのです。
しかもそれらはいずれも舞台のような奥行きを持っているのも特徴。ちなみにデルヴォーは画家を志す前にアカデミーで建築を学んでいます。
にも関わらずこの大森林。かき分けて進めば二度と帰れそうもないほど木々が鬱蒼と生い茂っています。そして裸女。デルヴォーの他の作品ではあまり表情を見せない女性が、ここではどこか恍惚としたようなうっとりした様子を浮かべています。
「トンネル」1978年 ポール・デルヴォー財団
「ソカロ」誌ではそこに最愛の女性タムとの17年ぶりの再会を読み取っていましたが、確かに他のデルヴォー画と見比べると明らかに個性的。画業を網羅する回顧展だからこそ浮かび上がってくる「森」の特異点。実に興味深いところでした。
「森」で長くなりました。さて本展、巡回展ということで、基本的には府中と同一内容。章立ても同じです。
第1章「写実主義と印象主義の影響」
第2章「表現主義の影響」
第3章「シュルレアリスムの影響」
第4章「ポール・デルヴォーの世界」
欲望の象徴としての女性、男性の居場所
生命の象徴としての骸骨
汽車、トラム、駅
建築的要素
ルーツとしての過去のオブジェ
フレスコ壁画
第5章「旅のおわり」
「グラン・マラドの水門」1921年 個人蔵
やはり面白いのはいわゆるデルヴォーがデルヴォーになった以前、つまりは印象派や表現主義の影響を受けていた作品群。「グラン・マラドの水門」(1921年)などはおおよそキャブションを確認しないとデルヴォーとは分かりません。
「タムの肖像」1949年 個人蔵
そして当然ながら展示の中核となるのが、生涯の伴侶タム。若かりしき頃、結婚を断念して別れ、20年後になって劇的に再会。そして生活をともにしたという運命の女性です。デッサンもいくつか出品されています。
さて埼玉会場の特徴としてはモチーフとなる汽車やランプなどの模型を作品と一緒に並べていること。デルヴォーは大変な汽車好きで、トラムを細かに描いたスケッチなどもありますが、例えば先ほどの「森」では、画中に出てくる汽車の模型「OB12」もあわせて紹介。他に手鏡なども。いずれもアトリエに残されていたものだそうです。
デルヴォーのアトリエにあった列車模型「OB12」 ポール・デルヴォー財団
これらの模型は府中展でも出ていましたが順路の最後でした。しかし埼玉では関連作品のすぐ隣に展示。絵と直接、見比べることが可能です。これが思いの外に楽しめました。
「カリュプソー」(1986年) ポール・デルヴォー財団
デルヴォーは晩年になって視力を失い、92歳になって最愛のタムを亡くしますが、その日を境に筆を置き、絵を描くことをやめてしまいます。晩年の「カリュプソー」(1986年)に何を見るのか。生涯にわたって愛したもの、夢見たものを自身のステージに立たせて描いたデルヴォー。その人生はタムの元へと旅だっていきました。
ところで所蔵家の健康上の理由により、当初からの出品が叶わず、会期中からの展示を検討してきた「バルコニー」は、結局、展示出来なくなりました。
「バルコニー」1948年 個人蔵(*非出品)
なお同館では「バルコニー」の観覧希望者の半券にスタンプを押すなどとして再入場可の措置をとっていましたが、今回出品不能になったのにも関わらず、そのスタンプを見せれば、再度入場することが出来るそうです。これはとても有り難い対応です。ありがとうございます。
出品作のうち半数は日本初公開。関東巡回のラストです。お見逃しなきようおすすめします。
3月24日まで開催されています。*埼玉展終了後、岡崎市立美術館(4/6~5/26)、秋田市立千秋美術館(7/20~9/1)へと巡回予定。
「ポール・デルヴォー展 夢をめぐる旅」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:1月22日(火)~3月24日(日)
休館:月曜日。但し2月11日は開館。
時間:10:00~17:30
料金:一般1100(880)円 、大高生880(710)円、中学生以下、65歳以上無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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