都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「アーティスト・ファイル2013」 国立新美術館
国立新美術館
「アーティスト・ファイル2013」
1/23-4/1
国立新美術館で開催中の「アーティスト・ファイル2013」へいってきました。
開館以来、国内外の現代作家を個展形式で紹介するアーティストファイル。すっかり同館の現代アート展の定番ともなりましたが、今年は2年ぶりの開催。海外3作家を含む、計8名の作家が参加しています。
出品作家は以下の通りです。
ダレン・アーモンド(1971~英国、ロンドン在住)
東亭順(1973~東京、バーゼル在住)
ヂョン・ヨンドゥ(1969~韓国、ソウル在住)
利部志穂(1981~神奈川県、神奈川県在住)
國安孝昌(1957~北海道、茨城県在住)
ナリニ・マラニ(1946~インド、現パキスタン、ムンバイ在住)
中澤英明(1955~新潟県、岐阜県在住)
志賀理江子(1980~愛知県、宮城県在住)
それでは早速、順に印象に残った展示を簡単に。まずは韓国のヂョン・ヨンドゥ。絵画と写真でインスタレーションを展開するアーティストです。
ヂョン・ヨンドゥ「ワンダーランドよりお昼寝」2004年
クレヨンやペンで描いた子どもの絵と、そこに描かれたモチーフに似たような舞台の写真。明らかに互いに関係するような配置です。一体どのような意味があるのかと追っかけると実に巧妙。写真は子どもの描いた絵を元にヂョンが作り上げた架空の場所なのです。
ヂョン・ヨンドゥ「ワンダーランドよりお昼寝」2004年
つまり子どもの中にあるイメージを舞台上でヂョンが変換、それを写真に起こすという作業。タイトルも「シンデレラ」や「赤ずきん」といった物語から「歌手になりたい」というような一種の願望までと多様です。
面白いのはその両者のイメージが全て同一ではないこと。ヂョンが子どもの夢をまた別の形で表現。夢と現実、相互のイメージがない交ぜになって複層的に展開します。そこに今度は見る側の感性の入り込む余地が。とてもイメージを膨らませることの出来る作品だと感心しました。
さて新美の巨大なホワイトキューブ。それをとりわけ効果的に用いたのが國安孝昌です。ともかく積み上げられたブロックに木材、床から天井、そして壁面もいっぱいに埋め尽くす丸太。凄まじい重量感です。
アーティスト・ファイル2013展 國安孝昌展示風景
ブロックが土を焼いて作ったという陶製だそうですが、ともかく丸太もまるで花火を見るかのように大きく輪を描いて連なっています。この迫力。どこかプリミティブなエネルギーを感じさせながらも、何らかの祭祀を行う場のような荘厳な気配も漂っていました。
さて國安のインスタレーションが「剛」に「密」としたら、利部のそれは「柔」に良い意味での「粗」。あたかも空間からモノを引き算をして展開する利部のインスタレーションも極めて高い完成度を誇っています。
アーティスト・ファイル2013展 利部志穂展示風景
まず見事なのは空間を上下に分けた使い方。空間中央には何本ものパイプが横切り、上部にはフラッグを連想させるような三角形のモチーフが。そして下部にはお馴染みの「いらなくなったもの」、つまりはまさに打ち捨てられたようなビニールや針金、またぐるぐる巻きの紙などが一見ランダムに置かれています。
このモノ自体と空間と図像との複雑な関係。まるで一種の謎掛けのような展示ですが、そのモノや空間に身を置いていると、何物にも変え難いような心地よい感覚がわきあがってきます。
利部さん魅力を言葉にするのはすこぶる難しいのですが、言わば展示のキレはアーティストファイル中でも随一。簡単に立ち去ることを許しません。
なお作品は極めて繊細。思わず踏んでしまうような位置にも置かれています。それこそ見る者の感性、注意力を喚起させるような展示です。足元や身の回りに十分に気をつけてご覧ください。(出来れば人の少ない時間帯の観覧をおすすめです。)
宮城県名取市の北釜という場所の歴史と記憶と人々の生活を思いがけない手法で引き出した志賀利江子も充実しています。
志賀利江子「螺旋海岸」2010年
ちなみに思いがけないというのは写真ですが、単純にそれを壁面に並べているわけではありません。ここで志賀は写真を衝立て状に置き、観客の行く手を阻むように設置。その合間を歩いていると、いつしか実際の北釜を歩いているかのような錯覚すら覚えるのです。
志賀は2008年から北釜に住み込んで制作を続けているそうですが、住む者だからこそ分かり得るような土地の言わば臭い。それを作品から感じました。
ラストのダレン・アーモンドはまさに幻想的です。あえてネタバレしませんが、その淡くか弱い光に包み込まれた風景写真はまさに夢とも彼岸とも。この世のものとは思えないほどの美しさをたたえています。
ダレン・アーモンド「Fullmoon アイフェルにて2」2002年
山や森や水辺を包みこむ控えめな光の世界。すっと吸い込まれるような静寂の風景がここにありました。
いつもながらの個展形式ということで、全体に統一感があるわけでもありませんが、惹かれる作品も多く、非常に充実した展覧会だったのではないでしょうか。なお会場の展示はyoutubeの「アーティスト・ファイル2013」チャンネルに映像でアップされています。
「アーティスト・ファイル2013」youtubeチャンネル
貴重な制作風景、作家インタビューなどもあります。あわせてご覧ください。
アーティスト・ファイル2013展PR映像
4月1日まで開催されています。おすすめします。
「アーティスト・ファイル2013―現代の作家たち」 国立新美術館
会期:1月23日(水)~4月1日(月)
休館:火曜日
時間:10:00~18:00 *毎週金曜日は夜20時まで開館。*3/23(土)は「六本木アートナイト2013」開催にともない22時まで開館。*入場は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生500(300)円、高校生以下無料。
* ( )内は20名以上の団体料金。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
「アーティスト・ファイル2013」
1/23-4/1
国立新美術館で開催中の「アーティスト・ファイル2013」へいってきました。
開館以来、国内外の現代作家を個展形式で紹介するアーティストファイル。すっかり同館の現代アート展の定番ともなりましたが、今年は2年ぶりの開催。海外3作家を含む、計8名の作家が参加しています。
出品作家は以下の通りです。
ダレン・アーモンド(1971~英国、ロンドン在住)
東亭順(1973~東京、バーゼル在住)
ヂョン・ヨンドゥ(1969~韓国、ソウル在住)
利部志穂(1981~神奈川県、神奈川県在住)
國安孝昌(1957~北海道、茨城県在住)
ナリニ・マラニ(1946~インド、現パキスタン、ムンバイ在住)
中澤英明(1955~新潟県、岐阜県在住)
志賀理江子(1980~愛知県、宮城県在住)
それでは早速、順に印象に残った展示を簡単に。まずは韓国のヂョン・ヨンドゥ。絵画と写真でインスタレーションを展開するアーティストです。
ヂョン・ヨンドゥ「ワンダーランドよりお昼寝」2004年
クレヨンやペンで描いた子どもの絵と、そこに描かれたモチーフに似たような舞台の写真。明らかに互いに関係するような配置です。一体どのような意味があるのかと追っかけると実に巧妙。写真は子どもの描いた絵を元にヂョンが作り上げた架空の場所なのです。
ヂョン・ヨンドゥ「ワンダーランドよりお昼寝」2004年
つまり子どもの中にあるイメージを舞台上でヂョンが変換、それを写真に起こすという作業。タイトルも「シンデレラ」や「赤ずきん」といった物語から「歌手になりたい」というような一種の願望までと多様です。
面白いのはその両者のイメージが全て同一ではないこと。ヂョンが子どもの夢をまた別の形で表現。夢と現実、相互のイメージがない交ぜになって複層的に展開します。そこに今度は見る側の感性の入り込む余地が。とてもイメージを膨らませることの出来る作品だと感心しました。
さて新美の巨大なホワイトキューブ。それをとりわけ効果的に用いたのが國安孝昌です。ともかく積み上げられたブロックに木材、床から天井、そして壁面もいっぱいに埋め尽くす丸太。凄まじい重量感です。
アーティスト・ファイル2013展 國安孝昌展示風景
ブロックが土を焼いて作ったという陶製だそうですが、ともかく丸太もまるで花火を見るかのように大きく輪を描いて連なっています。この迫力。どこかプリミティブなエネルギーを感じさせながらも、何らかの祭祀を行う場のような荘厳な気配も漂っていました。
さて國安のインスタレーションが「剛」に「密」としたら、利部のそれは「柔」に良い意味での「粗」。あたかも空間からモノを引き算をして展開する利部のインスタレーションも極めて高い完成度を誇っています。
アーティスト・ファイル2013展 利部志穂展示風景
まず見事なのは空間を上下に分けた使い方。空間中央には何本ものパイプが横切り、上部にはフラッグを連想させるような三角形のモチーフが。そして下部にはお馴染みの「いらなくなったもの」、つまりはまさに打ち捨てられたようなビニールや針金、またぐるぐる巻きの紙などが一見ランダムに置かれています。
このモノ自体と空間と図像との複雑な関係。まるで一種の謎掛けのような展示ですが、そのモノや空間に身を置いていると、何物にも変え難いような心地よい感覚がわきあがってきます。
利部さん魅力を言葉にするのはすこぶる難しいのですが、言わば展示のキレはアーティストファイル中でも随一。簡単に立ち去ることを許しません。
なお作品は極めて繊細。思わず踏んでしまうような位置にも置かれています。それこそ見る者の感性、注意力を喚起させるような展示です。足元や身の回りに十分に気をつけてご覧ください。(出来れば人の少ない時間帯の観覧をおすすめです。)
宮城県名取市の北釜という場所の歴史と記憶と人々の生活を思いがけない手法で引き出した志賀利江子も充実しています。
志賀利江子「螺旋海岸」2010年
ちなみに思いがけないというのは写真ですが、単純にそれを壁面に並べているわけではありません。ここで志賀は写真を衝立て状に置き、観客の行く手を阻むように設置。その合間を歩いていると、いつしか実際の北釜を歩いているかのような錯覚すら覚えるのです。
志賀は2008年から北釜に住み込んで制作を続けているそうですが、住む者だからこそ分かり得るような土地の言わば臭い。それを作品から感じました。
ラストのダレン・アーモンドはまさに幻想的です。あえてネタバレしませんが、その淡くか弱い光に包み込まれた風景写真はまさに夢とも彼岸とも。この世のものとは思えないほどの美しさをたたえています。
ダレン・アーモンド「Fullmoon アイフェルにて2」2002年
山や森や水辺を包みこむ控えめな光の世界。すっと吸い込まれるような静寂の風景がここにありました。
いつもながらの個展形式ということで、全体に統一感があるわけでもありませんが、惹かれる作品も多く、非常に充実した展覧会だったのではないでしょうか。なお会場の展示はyoutubeの「アーティスト・ファイル2013」チャンネルに映像でアップされています。
「アーティスト・ファイル2013」youtubeチャンネル
貴重な制作風景、作家インタビューなどもあります。あわせてご覧ください。
アーティスト・ファイル2013展PR映像
4月1日まで開催されています。おすすめします。
「アーティスト・ファイル2013―現代の作家たち」 国立新美術館
会期:1月23日(水)~4月1日(月)
休館:火曜日
時間:10:00~18:00 *毎週金曜日は夜20時まで開館。*3/23(土)は「六本木アートナイト2013」開催にともない22時まで開館。*入場は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生500(300)円、高校生以下無料。
* ( )内は20名以上の団体料金。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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