都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」 国立新美術館
国立新美術館
「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」
2020/1/11~2/16
国立新美術館で開催中の「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」を見てきました。
文化庁の「新進芸術家海外研修制度」に参加したアーティストの活動を紹介する「DOMANI・明日展」も、今年度で第22回目を迎えました。
今回は「傷ついた風景の向こうに」のサブタイトルの元、様々な世代より選ばれた計11名のアーティストが、写真や絵画、彫刻、映像やインスタレーションなどの作品を出展していました。
石内都 展示風景
プロローグの「身体と風景」における石内都と米田知子の写真に魅せられました。石内は人間の皮膚を接写した「傷跡」シリーズなどを出品していて、モノクロームに沈んだ傷跡が、皮膚の細かな肌理と相まってか、まるで古い彫刻を捉えたような静謐な雰囲気を醸し出していました。
左:米田知子「ビーチ ノルマンディー上陸作戦の海岸/ソードビーチ・フランス」 2002年 IZU PHOTO MUSEUM
一方の米田は、多くの人々が命を落とした、20世紀の世界大戦の戦場などを撮影していて、時を経て大きく変化した光景を有り体に写し出していました。今や海水浴場とも化したノルマンディーなどの光景は、あまりにも平穏でかつ美しいため、かつて悲しい記憶や歴史があったことすら気が付かないかもしれません。
藤岡亜弥「川はゆく 2020」 2013〜2019年 作家蔵
写真家の藤岡亜弥も「傷ついた風景」を写した人物の1人でした。その場所とは、藤岡の故郷である広島で、爆心地のまわりを、同地に流れる川の視点から捉えていました。
藤岡亜弥「川はゆく 2020」より 2013〜2019年 作家蔵
川の周辺に行き交う人々の様子を写した写真は、まさに広島の日常そのものでしたが、その向こうに垣間見える原爆ドームの存在などによって、かつての記憶が否応なしに呼び覚まされるのかもしれません。
佐藤雅晴「福島尾行」 2018年 個人蔵
実写を元にアニメーションを描くロトスコープの技法で知られる佐藤雅晴は、原発事故によって大きな影響を受けた富岡町や南相馬に取材し、映像の「福島尾行」を制作しました。
佐藤雅晴「福島尾行」 2018年 個人蔵
ここでは人のいない公園やフレコンバックの積み上げられた風景とともに、常磐線の車窓などがロードムービー風に映されていて、アニメと実写が交錯しつつも、紛れもない福島のリアルが捉えられていました。
佐藤雅晴「福島尾行」 2018年 個人蔵
なお佐藤は、震災後の福島の風景を、病に侵されていく自らの身体と重ねながら映像を作っていましたが、2019年の3月に亡くなられてしまいました。深くご冥福をお祈りしたいと思います。
日高理恵子 展示風景
30年以上も空を見上げては樹木を描き続ける日高理恵子による、岩絵具によって空と樹木を描いた「空との距離」も魅惑的ではないでしょうか。
日高理恵子「空との距離 II」 2002年 新潟県立近代美術館・万代島美術館
いずれも白んだ空の下、枝や幹を四方に広げる光景を表していて、葉を繁らせている樹木がある一方で、ほぼ全く付けていないものもありました。真冬の寒い曇天の下、樹木を見上げた時に目に飛び込む風景などを連想させるかもしれません。どこか刹那的でもありました。
宮永愛子「景色のはじまり」 2011〜2012年 高橋龍太郎コレクション、作家蔵
12万枚もの金木犀の剪定葉を用い、天井高のある新美術館のスペースにて見事なインスタレーションを制作したのが、現代美術家の宮永愛子でした。
宮永愛子「景色のはじまり」 2011〜2012年 高橋龍太郎コレクション、作家蔵
金木犀の葉は薄いベールのように天井付近から床の台へと垂れ下がっていて、まるで水が落ちて小波が起きたかのように広がっていました。
宮永愛子「景色のはじまり」 2011〜2012年 高橋龍太郎コレクション、作家蔵
この「景色のはじまり」は、震災のあった2011年春に完成した作品で、宮永はただひたすらに葉を集め、地図を作るように制作したとしています。
宮永愛子「景色のはじまり」 2011〜2012年 高橋龍太郎コレクション、作家蔵
いずれも葉肉を取り、脱色した葉脈の部分が浮き上がっていて、当然ながら触れることは叶いませんが、手にした瞬間に溶けてしまうかのようなはかなさも感じました。
畠山直哉 展示風景
東日本大震災によって実家を失った写真家の畠山直哉の写した、故郷の陸前高田をはじめとする、津波の痕跡の残る三陸地方の風景を捉えた新シリーズも見逃すことができません。
今回ほど全体を貫く軸が際立った「DOMANI展」もなかったかもしれません。戦争や原爆の惨禍、それに東日本大震災と原発事故などに伴う「傷ついた風景」が、各作家の作品によって繋がれつつ、「明日」を見据えているように思えました。
気がつけば会期末を迎えていました。2月16日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。
「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」(@DOMANI_ten) 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:2020年1月11日(土)~2月16日(日)
休館:火曜日。但し2月11日(火・祝)は開館、2月12日(水)は休館。
時間:10:00~18:00
*毎週金・土曜日は20時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生500(300)円。高校生、18歳以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」
2020/1/11~2/16
国立新美術館で開催中の「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」を見てきました。
文化庁の「新進芸術家海外研修制度」に参加したアーティストの活動を紹介する「DOMANI・明日展」も、今年度で第22回目を迎えました。
今回は「傷ついた風景の向こうに」のサブタイトルの元、様々な世代より選ばれた計11名のアーティストが、写真や絵画、彫刻、映像やインスタレーションなどの作品を出展していました。
石内都 展示風景
プロローグの「身体と風景」における石内都と米田知子の写真に魅せられました。石内は人間の皮膚を接写した「傷跡」シリーズなどを出品していて、モノクロームに沈んだ傷跡が、皮膚の細かな肌理と相まってか、まるで古い彫刻を捉えたような静謐な雰囲気を醸し出していました。
左:米田知子「ビーチ ノルマンディー上陸作戦の海岸/ソードビーチ・フランス」 2002年 IZU PHOTO MUSEUM
一方の米田は、多くの人々が命を落とした、20世紀の世界大戦の戦場などを撮影していて、時を経て大きく変化した光景を有り体に写し出していました。今や海水浴場とも化したノルマンディーなどの光景は、あまりにも平穏でかつ美しいため、かつて悲しい記憶や歴史があったことすら気が付かないかもしれません。
藤岡亜弥「川はゆく 2020」 2013〜2019年 作家蔵
写真家の藤岡亜弥も「傷ついた風景」を写した人物の1人でした。その場所とは、藤岡の故郷である広島で、爆心地のまわりを、同地に流れる川の視点から捉えていました。
藤岡亜弥「川はゆく 2020」より 2013〜2019年 作家蔵
川の周辺に行き交う人々の様子を写した写真は、まさに広島の日常そのものでしたが、その向こうに垣間見える原爆ドームの存在などによって、かつての記憶が否応なしに呼び覚まされるのかもしれません。
佐藤雅晴「福島尾行」 2018年 個人蔵
実写を元にアニメーションを描くロトスコープの技法で知られる佐藤雅晴は、原発事故によって大きな影響を受けた富岡町や南相馬に取材し、映像の「福島尾行」を制作しました。
佐藤雅晴「福島尾行」 2018年 個人蔵
ここでは人のいない公園やフレコンバックの積み上げられた風景とともに、常磐線の車窓などがロードムービー風に映されていて、アニメと実写が交錯しつつも、紛れもない福島のリアルが捉えられていました。
佐藤雅晴「福島尾行」 2018年 個人蔵
なお佐藤は、震災後の福島の風景を、病に侵されていく自らの身体と重ねながら映像を作っていましたが、2019年の3月に亡くなられてしまいました。深くご冥福をお祈りしたいと思います。
日高理恵子 展示風景
30年以上も空を見上げては樹木を描き続ける日高理恵子による、岩絵具によって空と樹木を描いた「空との距離」も魅惑的ではないでしょうか。
日高理恵子「空との距離 II」 2002年 新潟県立近代美術館・万代島美術館
いずれも白んだ空の下、枝や幹を四方に広げる光景を表していて、葉を繁らせている樹木がある一方で、ほぼ全く付けていないものもありました。真冬の寒い曇天の下、樹木を見上げた時に目に飛び込む風景などを連想させるかもしれません。どこか刹那的でもありました。
宮永愛子「景色のはじまり」 2011〜2012年 高橋龍太郎コレクション、作家蔵
12万枚もの金木犀の剪定葉を用い、天井高のある新美術館のスペースにて見事なインスタレーションを制作したのが、現代美術家の宮永愛子でした。
宮永愛子「景色のはじまり」 2011〜2012年 高橋龍太郎コレクション、作家蔵
金木犀の葉は薄いベールのように天井付近から床の台へと垂れ下がっていて、まるで水が落ちて小波が起きたかのように広がっていました。
宮永愛子「景色のはじまり」 2011〜2012年 高橋龍太郎コレクション、作家蔵
この「景色のはじまり」は、震災のあった2011年春に完成した作品で、宮永はただひたすらに葉を集め、地図を作るように制作したとしています。
宮永愛子「景色のはじまり」 2011〜2012年 高橋龍太郎コレクション、作家蔵
いずれも葉肉を取り、脱色した葉脈の部分が浮き上がっていて、当然ながら触れることは叶いませんが、手にした瞬間に溶けてしまうかのようなはかなさも感じました。
畠山直哉 展示風景
東日本大震災によって実家を失った写真家の畠山直哉の写した、故郷の陸前高田をはじめとする、津波の痕跡の残る三陸地方の風景を捉えた新シリーズも見逃すことができません。
DOMANI・明日2020「傷ついた風景の向こうに」https://t.co/A27GgHktJk~ 2/16(日)まで。 #国立新美術館 会場でアンケート未記入の方、お声をお聞かせください。ご協力お願いいたします。https://t.co/wIjBs5yk5m pic.twitter.com/b2zkegudzu
— DOMANI・明日展 (@DOMANI_ten) January 29, 2020
今回ほど全体を貫く軸が際立った「DOMANI展」もなかったかもしれません。戦争や原爆の惨禍、それに東日本大震災と原発事故などに伴う「傷ついた風景」が、各作家の作品によって繋がれつつ、「明日」を見据えているように思えました。
気がつけば会期末を迎えていました。2月16日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。
「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」(@DOMANI_ten) 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:2020年1月11日(土)~2月16日(日)
休館:火曜日。但し2月11日(火・祝)は開館、2月12日(水)は休館。
時間:10:00~18:00
*毎週金・土曜日は20時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生500(300)円。高校生、18歳以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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