都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」 パナソニック汐留美術館
パナソニック汐留美術館
「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」
2020/1/11~3/22
パナソニック汐留美術館で開催中の「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」のプレス内覧会に参加してきました。
日本に戦前から戦後にかけ、暮らしにモダンデザインを根付かせるべく、多様に活動した建築家やデザイナーらがいました。
そうしたモダンデザインの形成過程を追うのが「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」で、ブルーノ・タウトや井上房一郎、それに剣持勇、イサム・ノグチなど7名の作家の作品や資料、約160点が展示されていました。
ブルーノ・タウト「煙草入れ」 1934年 他
はじまりは1933年に来日し、工芸デザインの指導や執筆活動を行った建築家、ブルーノ・タウトで、彼のデザインした煙草入れなどの工芸品や書簡などが紹介されていました。ここで重要なのは、タウトを高崎に迎えた実業家、井上房一郎の存在で、軽井沢と銀座に出店し、タウトのデザインした家具や工芸を販売した「ミラテス」に関する作品も目立っていました。
右上:アントニン・レーモンド「シュリ・アウロビンド・アシュラム宿舎透視図」 1934〜1942年
その井上と親交を持ったのが、チェコ出身でアメリカ人建築家のアントニン・レーモンドと、フランス出身でデザイナーのノエミ・レーモンド夫妻でした。ここではレーモンドの設計した様々な建築の図面などが展示されていて、インドの修道院宿舎を水彩で美しく描いた透視図などに目を引かれました。
「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」 レーモンド関連展示風景
日本の伝統建築を取り入れたレーモンドスタイルと呼ばれる木造住宅は、当時の人々の心を捉え、後に井上はレーモンドの自邸を写した「旧井上房一郎邸」を建築しました。
右:アントニン・レーモンド「抽象」
レーモンドは建築設計のみならず、絵や作陶にも造詣が深く、建物の中に夫妻のデザインした壁画や陶芸などを設置しました。また音楽にも関心を寄せていて、アマチュアのチェロの演奏家でもありました。マルチな芸術家と言えるかもしれません。
剣持勇「スタッキングスツール202」 1959年 他
「ジャパニーズモダン」を提唱したことで知られる剣持勇は、タウトに家具デザインを学んでいて、彼のデザインした椅子もいくつか並んでいました。戦前、技術官僚として素材と代用品の研究に勤しんだ剣持は、戦後、進駐軍の家族住宅用家具などの生産にも携わり、1955年に独立すると、事務所の1階にデザイン商品を販売する「リビングアート」を併設しました。
剣持勇「丸椅子C-316」 1960年 他
こうした椅子が展示の中心を占めているのも特徴で、剣持のアームチェアやナカシマのコノイド・チェアをはじめ、井上、タウトらの設計した名作椅子が約35点ほど公開されていました。
ジョージ・ナカシマ「グラスシート・チェア」 1944年 他
日系二世アメリカ人のジョージ・ナカシマは、1934年から東京のレーモンド事務所に勤めた経歴を持っていて、軽井沢の聖ポール教会(現在の軽井沢聖パウロカトリック教会)などの建築現場監督の仕事を担いました。
ジョージ・ナカシマ「コノイドベンチ」 1972年 他
また後に建築を離れると家具作りに邁進し、1960年には方持ち梁を用いた、彫刻的とも言える「コノイド・チェア」を発表しました。ナカシマは日本の伝統木工技術に学びつつ、手工業の産業化を目指しては、家具を生産しました。
「慶應義塾大学 萬來舎 模型」
彫刻や庭園、家具デザインと幅広い分野で業績を残したイサム・ノグチは、1950年に画家の猪熊弦一郎の紹介にて剣持勇を訪ね、工芸指導所内にて家具や彫刻を製作しました。そして父・米次郎が教授を勤め、谷口吉郎の設計した慶應義塾大学の萬來舎のインテリアと庭園のデザインを手掛けました。
イサム・ノグチ「あかり」シリーズ
ラストはノグチの作品でも有名な「あかり」シリーズで、実際に光を灯した状態にて置かれていました。1940年代から内部に光源を持つルナー彫刻を作っていたノグチは、1951年に鵜飼見学で岐阜を訪ねると、伝統的な提灯に興味を抱き、和紙と竹による照明彫刻、すなわち「あかり」を考案しました。
「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」会場風景
会場のデザインは、2019年度の日本建築学会賞を受賞した前田尚武が手掛けていて、梁、柱、床を構成した日本の伝統的空間をモチーフとしていました。ともかく作品や資料は所狭しと並んでいて、斜めに切り込むような動線も特徴的と言えるかもしれません。
「旧井上房一郎邸」
なお本展は、タウトや井上にゆかりのある高崎市美術館を皮切りに、東北歴史博物館、そしてここパナソニック汐留美術館へと続いて開催されてきた巡回展です。そして高崎市美術館には、先にも触れた「旧井上房一郎邸」がそのまま保存されています。
「旧井上房一郎邸」
実のところ、私はこの展覧会を高崎でも見ましたが、各デザイナーらの作品を別々の空間で紹介していたのに対し、汐留ではそれぞれの交流を強調したような構成になっていて、互いの影響関係について良く知ることが出来ました。基本的にはほぼ同じ作品が出展されていたものの、また違った印象が与えられるかもしれません。
「旧井上房一郎邸」 *いずれも高崎で撮影
レーモンドスタイルを色濃く反映した「旧井上房一郎邸」は、2010年以降、美術館の開館日に広く一般に公開されています。改めて見学に出かけるのもまた良いかもしれません。
ノエミ・レーモンド「照明」 1930年代
本エントリの写真は主催者の許可を得て内覧会で撮影しましたが、一般会期中もノグチの「あかり」のコーナーのみ撮影が出来ます。
3月22日まで開催されています。
「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」 パナソニック汐留美術館
会期:2020年1月11日(土)~3月22日(日)
休館:水曜日。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
*2月7日(金)、3月6日(金)は20時まで開館。
料金:一般800円、大学生600円、中・高校生400円、小学生以下無料。
*65歳以上700円、20名以上の団体は各100円引。
*ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分
注)写真はプレス内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。
「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」
2020/1/11~3/22
パナソニック汐留美術館で開催中の「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」のプレス内覧会に参加してきました。
日本に戦前から戦後にかけ、暮らしにモダンデザインを根付かせるべく、多様に活動した建築家やデザイナーらがいました。
そうしたモダンデザインの形成過程を追うのが「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」で、ブルーノ・タウトや井上房一郎、それに剣持勇、イサム・ノグチなど7名の作家の作品や資料、約160点が展示されていました。
ブルーノ・タウト「煙草入れ」 1934年 他
はじまりは1933年に来日し、工芸デザインの指導や執筆活動を行った建築家、ブルーノ・タウトで、彼のデザインした煙草入れなどの工芸品や書簡などが紹介されていました。ここで重要なのは、タウトを高崎に迎えた実業家、井上房一郎の存在で、軽井沢と銀座に出店し、タウトのデザインした家具や工芸を販売した「ミラテス」に関する作品も目立っていました。
右上:アントニン・レーモンド「シュリ・アウロビンド・アシュラム宿舎透視図」 1934〜1942年
その井上と親交を持ったのが、チェコ出身でアメリカ人建築家のアントニン・レーモンドと、フランス出身でデザイナーのノエミ・レーモンド夫妻でした。ここではレーモンドの設計した様々な建築の図面などが展示されていて、インドの修道院宿舎を水彩で美しく描いた透視図などに目を引かれました。
「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」 レーモンド関連展示風景
日本の伝統建築を取り入れたレーモンドスタイルと呼ばれる木造住宅は、当時の人々の心を捉え、後に井上はレーモンドの自邸を写した「旧井上房一郎邸」を建築しました。
右:アントニン・レーモンド「抽象」
レーモンドは建築設計のみならず、絵や作陶にも造詣が深く、建物の中に夫妻のデザインした壁画や陶芸などを設置しました。また音楽にも関心を寄せていて、アマチュアのチェロの演奏家でもありました。マルチな芸術家と言えるかもしれません。
剣持勇「スタッキングスツール202」 1959年 他
「ジャパニーズモダン」を提唱したことで知られる剣持勇は、タウトに家具デザインを学んでいて、彼のデザインした椅子もいくつか並んでいました。戦前、技術官僚として素材と代用品の研究に勤しんだ剣持は、戦後、進駐軍の家族住宅用家具などの生産にも携わり、1955年に独立すると、事務所の1階にデザイン商品を販売する「リビングアート」を併設しました。
剣持勇「丸椅子C-316」 1960年 他
こうした椅子が展示の中心を占めているのも特徴で、剣持のアームチェアやナカシマのコノイド・チェアをはじめ、井上、タウトらの設計した名作椅子が約35点ほど公開されていました。
ジョージ・ナカシマ「グラスシート・チェア」 1944年 他
日系二世アメリカ人のジョージ・ナカシマは、1934年から東京のレーモンド事務所に勤めた経歴を持っていて、軽井沢の聖ポール教会(現在の軽井沢聖パウロカトリック教会)などの建築現場監督の仕事を担いました。
ジョージ・ナカシマ「コノイドベンチ」 1972年 他
また後に建築を離れると家具作りに邁進し、1960年には方持ち梁を用いた、彫刻的とも言える「コノイド・チェア」を発表しました。ナカシマは日本の伝統木工技術に学びつつ、手工業の産業化を目指しては、家具を生産しました。
「慶應義塾大学 萬來舎 模型」
彫刻や庭園、家具デザインと幅広い分野で業績を残したイサム・ノグチは、1950年に画家の猪熊弦一郎の紹介にて剣持勇を訪ね、工芸指導所内にて家具や彫刻を製作しました。そして父・米次郎が教授を勤め、谷口吉郎の設計した慶應義塾大学の萬來舎のインテリアと庭園のデザインを手掛けました。
イサム・ノグチ「あかり」シリーズ
ラストはノグチの作品でも有名な「あかり」シリーズで、実際に光を灯した状態にて置かれていました。1940年代から内部に光源を持つルナー彫刻を作っていたノグチは、1951年に鵜飼見学で岐阜を訪ねると、伝統的な提灯に興味を抱き、和紙と竹による照明彫刻、すなわち「あかり」を考案しました。
「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」会場風景
会場のデザインは、2019年度の日本建築学会賞を受賞した前田尚武が手掛けていて、梁、柱、床を構成した日本の伝統的空間をモチーフとしていました。ともかく作品や資料は所狭しと並んでいて、斜めに切り込むような動線も特徴的と言えるかもしれません。
「旧井上房一郎邸」
なお本展は、タウトや井上にゆかりのある高崎市美術館を皮切りに、東北歴史博物館、そしてここパナソニック汐留美術館へと続いて開催されてきた巡回展です。そして高崎市美術館には、先にも触れた「旧井上房一郎邸」がそのまま保存されています。
「旧井上房一郎邸」
実のところ、私はこの展覧会を高崎でも見ましたが、各デザイナーらの作品を別々の空間で紹介していたのに対し、汐留ではそれぞれの交流を強調したような構成になっていて、互いの影響関係について良く知ることが出来ました。基本的にはほぼ同じ作品が出展されていたものの、また違った印象が与えられるかもしれません。
「旧井上房一郎邸」 *いずれも高崎で撮影
レーモンドスタイルを色濃く反映した「旧井上房一郎邸」は、2010年以降、美術館の開館日に広く一般に公開されています。改めて見学に出かけるのもまた良いかもしれません。
ノエミ・レーモンド「照明」 1930年代
本エントリの写真は主催者の許可を得て内覧会で撮影しましたが、一般会期中もノグチの「あかり」のコーナーのみ撮影が出来ます。
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— Pen Magazine (@Pen_magazine) January 29, 2020
3月22日まで開催されています。
「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」 パナソニック汐留美術館
会期:2020年1月11日(土)~3月22日(日)
休館:水曜日。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
*2月7日(金)、3月6日(金)は20時まで開館。
料金:一般800円、大学生600円、中・高校生400円、小学生以下無料。
*65歳以上700円、20名以上の団体は各100円引。
*ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分
注)写真はプレス内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。
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