「ハマスホイとデンマーク絵画」 東京都美術館

東京都美術館
「ハマスホイとデンマーク絵画」
2020/1/21~3/26



東京都美術館で開催中の「ハマスホイとデンマーク絵画」を見てきました。

2008年に国立西洋美術館で「ハンマースホイ」として紹介され、口コミなどで評判をよんだデンマークの画家、ヴィルヘルム・ハマスホイの作品が、約10年あまりの歳月を経て、再び日本へとやって来ました。

それが「ハマスホイとデンマーク絵画」展で、タイトルが示すようにハマスホイの単独の回顧展ではなく、同時代のデンマークの画家の絵画をあわせ見る構成となっていました。

冒頭は1800年から1860年頃の「デンマーク絵画の黄金期」とされる作品で、同国の何気ない街角や港を望む風景を描いた絵画が展示されていました。

父がパン職人だったクレステン・クプゲは、「パン屋の傍の中庭、カステレズ」において板塀の横の小道を進む荷車を描いていて、塀越しに見える朱色の屋根や木立、さらには点景の子どもの姿などを明るい色彩で表していました。

またクプゲの「フレズレクスポー城の棟ー湖と町、森を望む風景」は、手前に城の屋根を配しつつ、上の3分の2ほどを広い空が占めていて、城の向こうの湖の際には家々も立ち並んでいました。屋根の前景と家々の後景の対比が際立っているため、かなり俯瞰的な構図と言えるかもしれません。

1870年頃、デンマークの画家が集った北部の漁師町を舞台とした、いわゆるスケーイン派の作品も見どころの1つでした。うちオスカル・ビュルクの「スケーインの海に漕ぎ出すボート」は、砂浜でボートを漕ぐ男たちをダイナミックなタッチで表していて、漁師をモデルとしながらも、あたかも英雄たちが集うような光景を作り上げていました。


ピーザ・スィヴェリーン・クロイア「スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア」 1893年 ヒアシュプロング・コレクション

同じくスケーイン派の画家である、ピーザ・スィヴェリーン・クロイアの「スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア」も魅惑的ではないでしょうか。白く青みを帯びた砂浜には、二人の人物が寄り添っていて、その左側には薄い水色の海が広がっていました。実にシンプルな構図ながら、淡く差し込む光の効果なのか、どことなく幻想的に感じられるかもしれません。

デンマークでは19世紀末になると、首都コペンハーゲンにおいて室内を主題とした作品が人気を博し、主に身近な家族の団欒などを捉えた絵画が制作されました。


ヴィゴ・ヨハンスン「きよしこの夜」 1891年 ヒアシュプロング・コレクション

ヴィゴ・ヨハンスンの「きよしこの夜」も、画家の家族のクリスマス・イヴの様子を表していて、夫婦6人の子どもたちが蝋燭の灯るツリーを囲みながら踊っていました。家族を包み込むような多幸感、あるいは母子の親密な関係が滲み出てはいないでしょうか。


ピータ・イルテルズ「ピアノに向かう少女」 1897年 アロス・オーフース美術館

ハマスホイの義理の兄のピータ・イルテルズも室内画を得意とした画家で、「ピアノに向かう少女」では、水色のワンピースの少女がピアノに向き合う姿を表しました。

アンティークな家具の置かれた部屋や、人物の後ろ姿などはハマスホイの画風を連想させましたが、戸外の緑を望む窓や全体を包み込むような色彩は明るく、より開放的な雰囲気も感じられました。

こうした親密な室内画の一方、20世紀が近づくにつれ、端的に室内空間のみをモチーフとした絵画が描かれるようになりました。その一枚がカール・ホルスーウ「室内」で、彫像や燭台、それに花瓶の置かれた鏡台、壁に飾られたプレートなどを細かなタッチで表現していました。言うまでもなく無人の室内ゆえに、静けさに満ちていて、静物画を目の当たりにするかのような印象も与えられました。

会場の後半で紹介されるのがハマスホイの絵画で、全部で約40点ほど展示されていました。ハマスホイは初期に肖像や風景画を描いた一方で、1898年にコペンハーゲンの旧市街のアパートに移り住むと、無人の室内や妻のイーダをモチーフとした室内画を制作しました。


ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内」 1898年 スウェーデン国立美術館

「室内」は、ハマスホイの自宅を舞台としていて、薄暗がりの部屋やぼんやりとした光、または最低限の簡素な家具、さらには後ろ姿の女性など、画家に特徴的なモチーフで構成されていました。


ヴィルヘルム・ハマスホイ「背を向けた若い女性のいる室内」 1903~1904年 ラナス美術館

「背を向けた若い女性のいる室内」もハマスホイの代表作として知られる作品で、パンチボウルの置かれたピアノの前で、銀色のトレイを持った後ろ姿の女性を描いていました。振り向きざまのポーズは意味ありげながらも、特に何かをしているようにも見えず、謎めいていて、ともすると不気味にも思えるかもしれません。なお会場では、本作に登場するパンチボウルの実物も展示されていて、絵画と見比べることも出来ました。

「ピアノを弾く妻イーダのいる室内」では、妻のイーダをモデルに、開け放たれた白い扉の向こうでピアノを弾く姿を捉えていて、手前の円い机の上には、先の「背を向けた若い女性のいる室内」で女性が手にしていたトレイが置かれていました。左から差し込む光は、白い扉に当たりつつ、奥の妻へと視線を誘うようにのびていて、ひんやりとした空気感も感じられました。


ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内ー開いた扉、ストランゲーゼ30番地」 1905年 デーヴィズ・コレクション

画家の無人のダイニングルームを描いたのが「室内ー開いた扉、ストランゲーゼ30番地」で、白い扉が左右に開け放たれた室内には一切の調度品もなく、扉の一部に歪みを感じるからか、まるで迷路の中を彷徨うかのような錯覚を覚えました。


前回のハマスホイ展は画家の単独の展示ゆえに、ハマスホイの個性が際立っていましたが、今回は他のデンマークの画家を参照することによって、ハマスホイの画業の立ち位置が分かるような展覧会だったかもしれません。私としては前半のデンマーク絵画に思いがけないほど惹かれるものを感じました。

会期の早い段階で出かけましたが、会場内には比較的余裕がありました。



新型コロナウイルスの状況次第では会期が変更になる場合があります。お出かけの際は公式ページをご確認ください。



3月26日まで開催されています。なお東京展終了後、山口県立美術館(2020年4月7日~6月7日)へと巡回します。

「ハマスホイとデンマーク絵画」@denmark_2020) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:2020年1月21日(火)~3月26日(木)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日、2月19日(水)、3月18日(水)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日、2月25日(火)。但し2月24日(月・休)、3月23日(月)は開館。
料金:一般1600(1400)円、大学生・専門学校生1300(1100)円、65歳以上1000(800)円、高校生800(600)。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *3月20日(金・祝)~26日(木)は18歳以下無料。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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