解説動画で楽しみたい「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開催直前で延期となった「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」展の特設サイトでは、見どころを動画で楽しめるコンテンツを公開しています。



「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」特設サイト
https://artexhibition.jp/london2020/

近年、大型展を中心に、youtubeなどでプロモーション動画が公開されることは珍しくありませんが、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」で注目したいのは、展覧会を構成する7つの全ての章を、主任研究員の川瀬祐介さんが作品を参照しながら丁寧に解説していることでした。

冒頭では「コンセプト紹介|ロンドン展の見どころ&おススメ作品」と題し、展覧会のコンセプトが語られていて、イギリスの美術に対する趣味の反映された、ロンドン・ナショナル・ギャラリーのコレクションの内容についても紹介していました。



続く第1章では、今回の目玉の1つでもあるクリヴェッリの「聖エミディウスを伴う受胎告知」を拡大しながら解説していて、極めて精緻に描かれたモチーフを映像でつぶさに確認することが出来ました。それに天使や聖人の役割、小鳥の意味など、個々の描写が受胎告知の場面をどのように築いているのかについても理解し得るのではないでしょうか。また第1章が8角形の展示室であることについてのエピソードも面白く感じました。



私が特に印象に残ったのは、第5章の17世紀スペイン絵画のセクションでした。ここではムリーリョの「幼い洗礼者聖ヨハネと子羊」が引用されていましたが、そもそも17世紀のスペイン絵画を国外で初めて評価したのは、19世紀のイギリスやフランスであって、さらにムリーリョに関しては、イギリスが存命中から高く称賛していたということでした。またメランコリックな少年や少女をモチーフとした作品は特に人気を集めていて、実際に「幼い洗礼者聖ヨハネと子羊」は、収集当時、ロンドン・ナショナル・ギャラリーにて最も模写された作品の1つでもあったそうです。ムリーリョとイギリス絵画の思わぬ接点が浮かび上がっていると言えるかもしれません。



イギリスで珍重された肖像画についても見るべき点が多いのではないでしょうか。第3章の「親しみある肖像画」では、ライト・オブ・ダービーの「トマス・コルトマン夫妻」が紹介されていて、「カンバセーション・ピース」と呼ばれるイギリスに独自の肖像画の特徴についての知見を得ることが出来ました。まさに「親しみ」、「リアル」などもキーワードなのかもしれません。



川瀬さんは以前、「失われたアートの謎を解く」のトークイベントでご一緒したことがあり、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」についてお話ししていただきましたが、専門的な見地に基づきながら、気取らずに見どころを語って下さり、とても引き込まれるものを感じました。解説動画を拝聴しても明らかですが、話題の尽きない、澱みない語り口も大いに魅力です。



初めにも触れましたが、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」は、展示の設営が終了したものの、いまだ開幕を迎えられていません。こうした状況によるのか、前売券の販売も終了になりました。

「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 完全ガイドブック/AERAムック」

ただ東京の国立西洋美術館(開幕日未定〜6月14日)の後は、大阪の国立国際美術館(7月7日〜10月18日)への巡回も予定されています。


がらんとした展示室を動画で見れば見るほど、実際の作品を鑑賞したくなるかもしれませんが、開催に希望を持ちながら、全40分を超える川瀬さんの力の入った解説にじっくり耳を傾けるのも良いのではないでしょうか。

「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」@london_2020art) 国立西洋美術館@NMWATokyo
会期:2020年3月3日(火)~6月14日(日) *開幕延期(開催日未定)
休館:月曜日。但し3月29日、5月4日は開館。
時間:9:30~17:30 
 *毎週金・土曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1700(1500)円、大学生1100(1000)円、高校生700(600)円。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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