「春日の風景」 根津美術館

根津美術館
「春日の風景 麗しき聖地のイメージ」
10/8-11/6



奈良・春日野にまつわる絵画、工芸を展観します。根津美術館で開催中の「春日の風景 麗しき聖地のイメージ」のプレスプレビューに参加してきました。

奈良市中心部、御蓋山(三笠山)の山裾に広がる春日野の地は、現在でも日本有数の観光地として知られていますが、その地位は当然ながら何も一朝一夕に確立したわけではありません。

それこそ神の山として崇拝された三笠山をはじめ、藤原氏の氏寺・氏神である興福寺や春日大社など、古代より春日野の地は風光明媚な名所であると同時に、神と仏の存在する聖地として尊重されてきました。


展示風景

この展覧会ではそのような春日大社に因む曼荼羅の他、春日の里にまつわる物語絵、さらには名所図屏風や、工芸品など37件が一堂に会しています。

まさに春日の地におけるイメージの展開をひも解く展覧会です。根津美術館のコレクションだけでなく、三の丸尚蔵館や奈良国立博物館、それに法隆寺や長谷寺、さらには春日大社所蔵の品など、同館の70周年の特別展に相応しい貴重な品々が揃っていました。


中央、「春日宮曼荼羅」 絹本着色 13世紀 奈良 南市町自治会

その目玉としてまず挙げられるのが、奈良南市町自治会の「春日宮曼荼羅」(13世紀)です。これは春日大社の社殿を表した宮曼荼羅と呼ばれる作の最高峰としても知られるもので、縦1メートルにも及ぶ巨大な画面の中に、参道から上部の社に至る境内の全景が描かれています。

また作品の左下にある塔にも注目です。これはかつて春日大社の入口にそびえていたもので、高さは40メートルにも達していました。残念ながらこの塔は南都の焼き討ちや落雷で2度消失、その後に再建されることはありませんでした。なお本作が関東で公開されたことはこれまで1、2度しかありません。是非とも会場で確認してみてください。


右、「春日宮曼荼羅」 観舜筆 絹本着色 正安2年(1300) 湯木美術館 *10/8-10/23展示

さて曼荼羅を好んだ王朝人にとって『現世の浄土』でもあった春日野の地ですが、彼らは言わば『絵を見ながら参拝していた。』というのも興味深いことです。湯木美術館の「春日宮曼荼羅」(1300年)には長い参道も描かれていますが、社殿への道なりを絵に示すことで、そのバーチャルな参拝行為に一つのリアリティーを与えていました。ようは道を目でなぞることが、実際の参拝行為とリンクしているというわけです。

根津美術館の「春日社寺曼荼羅」(14世紀)は修復後、初めての公開です。鹿が多数描かれているのも見逃せませんが、上部に春日の境内と下部に興福寺の仏像を表するという、二層構造をとっているのも重要なポイントです。


左、「春日社寺曼荼羅」 絹本着色 14世紀 根津美術館

これは春日社と興福寺の密接な関係を示すのと同時に、当時の藤原氏の権勢を表しています。二つの社寺の関係を見ても明らかなように、春日野は神仏習合の思想が色濃く反映されていますが、それをよく示す作品でもあるとのことでした。

さて春日野を描いた作品は曼荼羅に限るわけではありません。奈良南市町自治会の「春日宮曼荼羅」と並び、本展のハイライトとして重要なのが、宮内庁三の丸尚蔵館の「春日権現験記絵」です。


展示風景(展示ケースの右から左までが全て「春日権現験記絵」です。)

これは藤原氏の発展を願って社に奉納された絵巻物で、全20巻にも及ぶ長大な画面に春日社の由来や神の霊験などが描かれています。


「春日権現験記絵 巻第1」 詞 鷹司基忠 絵 高階隆兼 絹本着色 鎌倉時代 延慶2年(1309)頃 宮内庁三の丸尚蔵館

本展ではそのうち、近年に修復を終えた第1巻と第19巻が公開されています。紙ではなく絹本ということもあり、絵具の鮮やかさも驚くべきものがありますが、細部の細部まで優雅に示された人物や社殿の表現など、ともかく見どころは満載でした。


「春日権現験記絵 巻第19」 詞 鷹司基忠 絵 高階隆兼 絹本着色 延慶2年(1309)頃 宮内庁三の丸尚蔵館

中でも私として一推しにしたいのが巻第19の春日山を描いた部分です。雪に覆われた春日の山並みがパノラマ的構図にて表されています。また山の一部には雲が靡いていますが、これはいわゆる霊気だそうです。神聖な春日野のイメージがよく伝わってきました。


「春日神鹿御正体」 銅製鋳造鍍金・木造彩色 13‒14世紀 細見美術館

さて春日野といえば鹿でもありますが、鹿曼荼羅と呼ばれる作品もいくつか出ています。一例が奈良国立博物館の「春日鹿曼荼羅」(13-14世紀)です。神の使者である鹿の上には、同じく神を宿すという榊が置かれ、そこには五体の仏が描かれています。そして遠くには春日山と月を望んでいます。神仏習合の春日信仰の世界観を如実に表す一作とのことでした。


「伊勢物語絵 上巻」 紙本着色 16世紀 個人

伊勢物語の最初の段は「春日の里」です。展示では住吉如慶による「伊勢物語絵」(17世紀)も出ています。


「春日山蒔絵硯箱」木胎漆塗 15世紀 根津美術館

また秋草に鹿と月があしらわれた「春日山蒔絵硯箱」(15世紀)も優美な作品でした。


右、「奈良吉野名所図屏風」紙本金地着色 6曲1双 18世紀 個人
左、「奈良名所図屏風」 紙本金地着色 6曲1隻 17世紀 細見美術館


洛外洛中図など、京都を描いた名所絵は多数ありますが、奈良を描いたものは意外と多くありません。この展覧会では屏風形式をとる奈良の名所図が二点ほど出品されています。こちらもあわせて楽しみたいところです。

春日と言えば曼荼羅など、宗教美術が全面に押し出される傾向もありますが、こうした屏風や硯箱などに接すると、風光明媚な土地そのもの魅力を味わうことが出来ます。ちらし表紙にも掲げられた「日本の自然は、かくも美しく、気高い。」という一文がずしりと響いてきました。

さて本展は根津美術館学芸課長、白原由起子氏が担当されましたが、その白原氏の展示に関するインタビュー記事が、お馴染みの「弐代目・青い日記帳」に掲載されています。

「担当学芸員に聞く『春日の風景』展の見どころ。」@弐代目・青い日記帳

インタビューで白原氏が「照明もバッチリ調整し美しい姿をお見せ出来るはず。」と述べた青色の「琉璃灯籠」は、確かに息をのむばかりの美しさでした。こちらも会場で是非とも楽しんで下さい。


展示風景

短期決戦の展覧会です。会期は一ヶ月しかありません。また一部作品には展示替えもあります。詳細は「出品リスト」(PDF)をご参照下さい。

また先日リリースされた根津美術館アプリでも情報更新中です。(紹介記事



11月6日まで開催されています。

「春日の風景 麗しき聖地のイメージ」 根津美術館
会期:10月8日(土)~11月6日(日)
休館:毎週月曜日 *但し10月10日(月・祝)は開館、翌11日(火)閉館。
時間:10:00~17:00
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「ドラゴンクエスト展」 森アーツセンターギャラリー

森アーツセンターギャラリー
「誕生25周年記念 ドラゴンクエスト展」
10/8-12/4



森アーツセンターギャラリーで開催中の「誕生25周年記念 ドラゴンクエスト展」のプレビューに参加してきました。



実のところ私自身、ファミコンやスーパーファミコンに直接お世話になった世代ですが、そうしたゲームのオールドファンにとってもはまたとない機会が森アーツセンターにやってきました。

それが誰もが知るロールプレイングゲームの殿堂、「ドラゴンクエスト」の一大展覧会です。1986年発売以来、現在の第9作まで、総計5800万本を出荷した通称「ドラクエ」ですが、その全貌を、制作の細かな技術面はおろか、ゲームの手法、さらにはグッズなどを通して、存分に味わうことが出来ます。



いわゆる家庭用ゲームでは初めてとなる展覧会とのことでしたが、これがまたドラクエファンはもとより、ゲームにあまり馴染みのない方々にまで楽しめるように工夫されていました。



そのキーワードがずばり体験型です。まず入口にある職業選択の地「ダーマの神殿」にて、ドラクエでは重要な「職業」の代表的な4つ、つまりは戦士、武道家、魔法使い、僧侶を選び、「冒険の書」を手にします。それを片手にしながら館内のフィールドとダンジョンへと進んでいくわけです。まさにここにドラクエの冒険の追体験がスタートしました。



ドラクエの歴代シリーズがパネルなどで紹介されたダンジョンには、ドラキーやさまようよろいやスライムナイトなどが待ち構えます。ファンとしてはこれらのマスコットだけでぐっときてしまいますが、さらに嬉しいのがこのポジションでは撮影が許可されているということです。



スライムナイトをバックに写真を撮れる機会など滅多にあるわけではありません。ここはパシャパシャと遠慮なくカメラを向けてしまいました。



さて体験型のハイライトとなるのがアトラクションです。なんとここでは実際にドラクエ1のラスボスの竜王とリアルで対決できます。

職業の役割を最大限に活かし、武器をとり、呪文を唱え、みんな一緒になって最大の敵と戦うこそ、ドラクエならではのパーティー制の醍醐味です。



なおこのアトラクション、一度に50~60名程度ほど入場出来るそうです。(所要は5~6分程度。)どうしても並ぶかもしれませんが、列自体は意外と進みます。是非とも体験してみてください。



さてラスボスを無事倒した後にお目見えするのがドラクエに関する貴重な資料です。まさにファン感涙のセクションです。これ以降は撮影が出来ませんが、鳥山明によるキャラクター原画、そしてドラクエのファンファーレでも名高い作曲家のすぎやまこういちの楽譜、そしてゲームデザイナーの堀井雄二による直筆の制作仕様書などが展示されていました。

なんでも鳥山明の原画が展覧会という形で整理されて紹介されるのは極めて珍しいことだそうです。また堀井雄二の仕様書にも要注目です。ダンジョンや街の仕様はおろか、海におけるモンスターの出現率を書いたものなども出ています。そういえばドラクエをプレイしていた時、特定の場所ばかりモンスターが出現することに悩まされた方も多いのではないでしょうか。それも全てはこうした仕様書のなせる業であったというわけでした。



歴代シリーズを一挙に遊べる「ドラゴンクエスト試遊コーナー」もまたオールドファンにとって懐かしいスポットかもしれません。ここではドラクエ1から最新の9までのシリーズを実機でプレイすることが出来ます。もちろん1~4はファミコンです。あの懐かしいゲーム音、そして独特の味わいのある画面を、まさに当時のままに楽しめました。



私としてはやはり2と3、それに4に思い入れがあります。2で難儀したロンダルキアへの洞窟、そして3で驚いた下の世界への展開、さらには章立てでのストーリーに入り込んだ4と、かつてハマったドラクエの面白さを久々に思い出すことが出来ました。

最後は現在開発中のドラクエ10に関する情報です。ショップこと「どうぐや」にはドラクエ関連のグッズがずらりと勢揃いしていました。



展覧会のあとは「ルイーダの酒場」がお待ちかねです。六本木5丁目にある「LUIDA'S BAR」の特別出店です。ドラクエに因んだフード、ドリンク、そしてアルコールが用意されています。私もスライム肉まんにパルプンテウォッカをいただいて会場を後にしました。

早速、本日の初日はなかなかの盛況だったようです。会期は12月までの約60日間ですが、なるべく早めの方が良いかもしれません。なお嬉しいことに森アーツセンターは連日夜間22時まで、また金・土・祝全日は23時まで開館しています。その辺も狙い目ではないでしょうか。もちろん会期中は無休です。



メタボリズム展、または展望台チケットにプラス300円で楽しめるドラクエの冒険の旅へ、いざ出発してみては如何でしょうか。



12月4日まで開催されています。

「誕生25周年記念 ドラゴンクエスト展」 森アーツセンターギャラリー
会期:10月8日(土)~12月4日(日)
休館:無休
時間:11:00~22:00 金・土・祝前日は23:00まで開館。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )

「進藤環 蒔いた種を探す」 hpgrp GALLERY東京

hpgrp GALLERY東京
「進藤環 蒔いた種を探す」
9/23-10/16


「包囲・岩」 2011, type C print, 600x420mm

hpgrp GALLERY東京で開催中の進藤環個展、「蒔いた種を探す」へ行ってきました。

作家プロフィール、及び展示概要については同ギャラリーWEBサイトをご覧下さい。

進藤環「蒔いた種を探す」@hpgrp GALLERY東京

つい2ヶ月ほど前、8月に東京・京橋のINAXギャラリーでも個展がありました。そちらをご記憶の方も多いのではないでしょうか。

さて私自身もそのINAXの個展で初めて接した進藤の作品ですが、このhpgrp GALLERY東京でも作風はほぼ同様であると言えるかもしれません。

一見、写真とも、また絵画にも見える自然の森の風景は、実際のところ全てコラージュです。進藤は撮りためた草花の写真などを切り、そしてコピーし、デジタルではなく自らの手で加工することによって、このような奇景を作り出しています。

作品はINAXの際よりも小品が多めです。群れるシダにどこかエキゾチックな花々、さらには大きな岩などが複雑に交錯しつつ、一定の景色を生み出します。雪も舞うような寒々しい光景と突如明るくなる南国風の風景が同居しています。一定の秩序を保ちつつも、そこに投げ込まれた時間と場所は全てカオスでした。

またキャビネットの引き出しの中にも作品が収められています。こちらもお見逃しなきようご注意下さい。

この奇景、一体どういった地点へと向かっていくのでしょうか。その旅の行方にも注目したいと思います。



なお作家、進藤は現在、新宿のルミネでも展示を行っているようです。小冊子の表紙も飾っています。

「LUMINE MEETS ART」@LUMINE SHINJUKU 1.2 9/27-10/31

10月16日までの開催です。

「進藤環 蒔いた種を探す」 hpgrp GALLERY東京@hpgrpgallery
会期:9月23日(金祝)~10月16日(日)
休廊:月曜日
時間:11:00~19:30
住所:渋谷区神宮前5-1-15 CHビルB1F
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A1出口より徒歩3分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「モホイ=ナジ/イン・モーション」 DIC川村記念美術館

DIC川村記念美術館
「視覚の実験室 モホイ=ナジ/イン・モーション」
9/17-12/11



「20世紀美術に新しいヴィジョンをもたらした」(同館サイトより引用)ハンガリー生まれの芸術家、モホイ=ナジ・ラースロー(1895-1946)の全貌を詳らかにします。DIC川村記念美術館で開催中の「視覚の実験室 モホイ=ナジ/イン・モーション」のプレスプレビューに参加してきました。

フォトグラムやグラフィックデザインから、舞台芸術に絵画、そしてバウハウスの教員と、非常に多岐に渡る分野で業績を残したモホイ=ナジですが、国内でその全体像を知る機会はなかなかありませんでした。

本展ではそうした総合芸術家モホイ=ナジの創作を、遺族の全面協力の元、国内外から集められた約270点にも及ぶ作品群にて明らかにしています。先行した京都国立近代美術館、及び神奈川県立近代美術館葉山に続き、国内最後の開催地として、このほど千葉のDIC川村記念美術館へと巡回してきました。


展示について解説する井口壽乃埼玉大学教授

プレスプレビューでは本展の監修を担当した埼玉大学教授の井口壽乃氏のレクチャーが行われました。ここではその内容に沿って、展示の様子をご紹介します。

はじめに構成です。

1.ブダペスト 1917-1919 芸術家への道
2.ベルリン 1920-1922 ダダから構成主義へ
3.ワイマール-デッサウ 1923-1928 視覚の実験
4.ベルリン-ロンドン 1928-1937 舞台芸術、広告デザイン、写真、映画
5.シカゴ 1937-1946 アメリカに渡ったモダンアートの思想


これまではどちらかと言うとナジの芸術は、例えばフォトグラム、あるいは絵画のみと、ジャンル別に紹介されることが殆どでした。しかしながら今回はそうではありません。あえてジャンルをない交ぜにして時系列に並べることで、ナジの制作の変遷はもとより、それぞれの作品の関連を探る仕掛けとなっていました。


右、「自画像」1919-20年

冒頭にはポストカード大のスケッチが登場します。ナジはブダペストの大学の法学部に入学しましたが、すぐに第一次大戦が勃発したために戦地へ赴き、そこで配給された小さなカードに戦争の様子などを多く描きました。これらは全部で400種類もあるそうです。ナジが正規の美術教育を受ける前の『手の訓練』ともなりました。


左、「風景(オーブダの造船場の橋)」、右「工場の風景」 ともに1918年-19年

終戦後、ブダペストの美術学校の夜間クラスへ進学し、そこで美術を学び始めます。面を線で捉えたクロッキーの他、キュビズム的構成をとる「風景」(1918-1919)などは、ナジが画家として確立した最初期のスタイルを伺い知れる作品と言えるかもしれません。

そして1919年、ハンガリーの前衛芸術運動のアーティスト集団「MA」に参加します。また同年にはハンガリーの政治状況の混乱からウィーンへ亡命し、翌年にはベルリンへと移って、構成主義へと至る新たな境地へと進みました。

ナジの多様な芸風はこの時期に確立したと言っても過言ではありません。ベルリンでいわゆる進歩的な思想に触れたナジは、フォトグラムやタイポグラフィと言った作品を次々と手がけていきます。

そしてこの20代の作品で最も重要なのが、両面に絵画を表した「建築1あるいは青の上の構成」と「無題」(表1922年、裏1920-21年)です。


「建築1あるいは青の上の構成」(表)1922年

元々この作品は表部分しか知られていませんでしたが、調査により裏面の絵画の存在が明らかになり、それがナジのいわば成長過程を知ることにも繋がりました。


「無題」(裏)1920-21年

ポイントは表裏の比較です。後に描かれた表面は形態が完全抽象であるのに対し、その前に描かれた裏面はまだ具象の面影を残しています。この裏はベルリンの構造物、つまりは風景を示したものです。ようは裏面の発見により、ナジはベルリンへやって来てから僅か1~2年で、具象から抽象、言わば構成主義的な絵画を描きはじめていたことが分かりました。


左手前、「MA」第7巻5-6号 1922年5月(復刻版)

また前衛的芸術集団「MA」発行の雑誌でも作品を発表します。展示では一連の雑誌の復刻版なども紹介されていました。


左、「無題(ガラス建築シリーズ)」1920-21年

ナジはタイポグラフィに関して、ポスター、つまり印刷物という複製技術の中で、どうやって表現をしていくかということに関心を持っていたそうです。また建築物を幾何学的に表した「ガラス建築シリーズ」(1920-21)も、この時期のナジの制作をよく示す作品として挙げられていました。

1923年にナジはバウハウスの教員の地位につきます。そしてその1923年から1928年までの5年間の仕事を紹介する3章の「ワイマール-デッサウ」こそ、この展覧会の最も重要なセクションかもしれません。

彼は構成主義風の写真を手がけますが、その中で最も知られているのが「フォトグラム」と呼ばれる作品です。


ナジのフォトグラム

これはカメラを使わずに印画紙の上に直接物を置いて制作された写真のことですが、実は最もはじめに「フォトグラム」と名付けたのも、この種の作品を最も多く残したのもナジでした。


左、「無題」、右「自画像」 ともに1926年

ここで重要なのは「自画像」(1926年)と妻のルチアをモチーフとした「無題」(1926年)です。ナジの最初の妻であるルチアは写真家で、バウハウスでつくられた作品の撮影を担当していましたが、そもそもナジに写真を教えたのは彼女ではないかという説も存在しています。

ナジはこの「フォトグラム」で、芸術が生まれていくプロセスに、いかにして近代の技術を介入させていくのかということをテーマとしていました。


左、「バウハウス叢書8 絵画・写真・映画」1925年

またバウハウスとしての活動で象徴的なのは、自身のプランによる「バウハウス叢書」の仕事です。ここでナジはクレーやカンディンスキーらとともに、建築や写真技術に関する記述を著しています。さらにバウハウスの展覧会のカタログにも執筆していました。

タイポグラフィ、そしてフォトグラムを通し、ナジは文字と絵柄、さらには写真を交差させ、新たな視覚伝達、ヴィジュアル・コミュニケーションの在り方を模索していきました。

展覧会のハイライトとして挙げられるのが「ライト・スペース・モデュレータ(電気舞台のための光の小道具)」(1930年代)の再現展示です。これはナジの代表作としても知られるキネティック彫刻(動く彫刻)ですが、ここではオリジナルのコピーが出品されています。


「ライト・スペース・モデュレータ」1930年

ガラスや金属の玉、そしてスクリューなどが組み合わさった幾何学的な造形自体、独特の美しさが感じられますが、それを自動で回転させ、さらに光を反射させることで当てることで生まれて変化する『影』も大きな見どころであるのは言うまでもありません。

展示では外部より光を当てていますが、ナジの当初のプランでは箱の中に120個の電球を置いて照らしたそうです。出品元の要請により、この「ライト・スペース」は30分に一度、約2分間ほどしか稼働しませんが、ここは是非じっくり構えて作品と光と影の織りなすイリュージョンを楽しんではいかがでしょうか。


左、「ライト・スペース・モデュレータ」、右上、映画「光の戯れ 黒・白・灰」(6分) ともに1930年

また「ライト・スペース」を稼働させて撮った映画作品、「光の戯れ 黒・白・灰」(1930年)も重要です。ナジは構成主義の段階においても円や対角線がリズミカルに交錯する絵画などを描いていましたが、この「光の戯れ」でそれをさらに進化させたと言えるかもしれません。運動によって解放された光と影のイメージは、三次元の空間へと広がっていきました。

常に変化するナジの創作の旅はこれに留まりません。バウハウスを辞したナジはベルリンへ戻り、今度はデザイナーとしての仕事をはじめます。


左下、「紳士用上着の形をした宣伝用リーフレット」1932年

これがまたジャンルを問いません。紳士服の立体広告のデザインにはじまり、演劇「ベルリンの商人」の舞台美術、さらにはオペラ「蝶々夫人」の舞台や衣装デザインを手がけました。


ナジのストレートフォト

それにもう一つ、この時期の制作として見逃せないのがストレート・フォトです。ナジは移り住んだ都市や農村の風景、また人物のポートレートなどをいくつか撮影しています。展示ではさほど強調されていませんでしたが、私としては強く惹かれました。

さてナチスの台頭によりベルリンでの活動に制約を感じたナジは、ドーバーを越えてロンドンへと移ります。

ここでも航空会社のデザイン、ウィンドウ・ディスプレイ、また絵画としてアクリル樹脂を用いた作品をつくるなど、ナジの制作意欲は全く止むことがありません。


映画「ロブスターの一生」(16分)1935年

展示ではこの頃にナジが制作した記録映画が何本かスクリーンで紹介されています。中でもロブスター会社のコマーシャルフィルム、「ロブスターの一生」は注目の一作ではないでしょうか。ロブスターが漁師によって収穫されるシーンからはじまりますが、最後は何とも思いがけない形で結末を迎えます。その展開には驚かされました。

終焉の地はシカゴです。ナジは1937年、シカゴの「ニュー・バウハウス」の学長に就任すべく渡米します。当初、彼は高い理想を掲げ、この「ニュー・バウハウス」での教育活動に邁進しますが、学校の経営は困難を極め、僅か一年で閉校してしまいました。

しかしながらここで簡単に引き下がらないのがナジです。「ニュー・バウハウス」では殆ど無報酬であり、なおかつ運営資金のために作品を描き、販売しながら講義をしたそうですが、そうした努力も報われたのか、1939年に新たな「スクール・オブ・デザイン」を設立することに成功します。

そしてアメリカへと渡ったナジの芸術でとりわけ注視すべきなのは平面の展開です。


左、「V-003:CH6」1941年、右、「スペース・モデュレータ・スピッグ」1942年

中でも興味深いのがいわゆるオプティカル・アートとして知られる「スペース・モデュレータ・スピッグ」(1942年)ではないでしょうか。これはフレームの中に二つの円と透明なアクリル板を置くことで、立ち位置によって見え方が変わるものですが、ナジはこの頃インタラクティブアートに関心を持ち、このような作品と観客との関係を問うシリーズをいくつか生み出しました。


左、「スペース・モデュレータ CH For Y」、右「スペース・モデュレータ CH For C」 ともに1942年

また同じく「スペース・モデュレータ」シリーズのペインティングも見応えがあります。ナジはこうした絵画の領域において、アメリカのモダンアートの先鞭をつけました。

1943年にはそれまでの教育実践をまとめた「ヴィジョン・イン・モーション」の執筆にとりかかります。また1945年には原爆投下に心を痛め、それに関する連作にも着手しました。


右上、「ヴィジョン・イン・モーション」1947年

ナジが人生の幕をとじたのは1946年、まだまだこれからという51歳の時です。「ヴィジョン・イン・モーション」は生前刊行されることがありませんでしたが、没後、すぐに妻の手によって世に出版されました。それらは日本の「実験工房」の芸術家たちにも伝わります。幅広いジャンルで横断的に活動したナジは、その後の美術やデザインの世界においても様々な影響を与えました。


「5.シカゴ 1937-1946」展示室

さて展覧会に関する情報です。まず直近では10月12日より16日まで、「FOLK notebooksとDRAWING AND MANUALによる視覚の実験室」と題したイベントが予定されています。

FOLK notebooksとDRAWING AND MANUALによる視覚の実験室」(PDF) 庭園内付属ギャラリー 10/12(水)~16(日)
ノート職人・黒澤俊介氏による工房「FOLK notebooks」とNTTドコモのCM「森の木琴」を手掛けた「DRAWING AND MANUAL」が、インタラクティブな仕掛けを施されたノートで楽しく遊べる実験室を5日間限定でオープンします。ご自分の頭の中のイメージが羽ばたいていく実験をお楽しみください。
会場では、自分好みの仕様が選べるセミオーダーメード・ノートの制作実演販売も予定しています。
 *公式サイトより転載。

また11月末より会期中の土日の6日間、千葉市美術館との間に無料シャトルバスが運行されます。

「川村記念美術館-千葉市美術館無料シャトルバス」
運行日:11月26日(土)、27(日)、12月3日(土)、4日(日)、10日(土)、11日(日)
千葉市美術館発 13:00 / 15:00
DIC川村記念美術館発 14:00 / 16:00 所要時間:40~50分。


千葉市美術館での「瀧口修造とマルセル・デュシャン展」(11/22~2012/1/29)の開催にあわせたバスです。以前も一度、運行されたことがあり、私も利用したことがありましたが、思いがけないほどに両美術館が近くて驚かされました。瀧口+デュシャン展とナジ展をはしごするには最適ではないでしょうか。

facebookのアカウントをお持ちの方には朗報です。ナジ展の公式ファンページが開設されています。

「モホイ=ナジ展 視覚の実験室」@facebook

様々なジャンルに業績を残したナジは、かのレオナルドにも例えられることがあるそうです。それはともかくも、彼の辿った波瀾万丈の生き様と、何物にもとらわれない創作への探求心は、日本初となるこの一大回顧展からもひしひしと伝わってきました。


モホイ=ナジ写真

12月11日まで開催されています。

「視覚の実験室 モホイ=ナジ/イン・モーション」 DIC川村記念美術館
会期:9月17日(土)~12月11日(日)
休館:月曜日。但し9/19と10/10は開館、10/11(火)は休館。
時間:9:30~17:00
住所:千葉県佐倉市坂戸631
交通:京成線京成佐倉駅、JR線佐倉駅下車。それぞれ南口より無料送迎バスにて30分と20分。東京駅八重洲北口より高速バス「マイタウン・ダイレクトバス佐倉ICルート」にて約1時間。(一日一往復)

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「知られざる歌舞伎座の名画」 山種美術館

山種美術館
「歌舞伎座建替記念特別展 知られざる歌舞伎座の名画」
9/17-11/6



歌舞伎座の再建60年を記念して、 同劇場の所蔵する日本画、洋画を展観します。山種美術館で開催中の「知られざる歌舞伎座の名画」展へ行って来ました。

既にかなり進んでいるのでご存じの方も多いかもしれませんが、現在、東銀座の歌舞伎座は2013年の新劇場完成へ向けて建替工事中です。

旧歌舞伎座では会場内に近代日本画や洋画の名品が飾られていましたが、今回は建替工事に合わせて、それらの多くをここ山種美術館で展示することになりました。


高橋由一「墨堤櫻女」1876-77年 カンヴァス・油彩 株式会社歌舞伎座蔵

歌舞伎座の絵画をまとめて公開するのは何と23年ぶりのことです。私自身は歌舞伎座へ一度も行ったことがなく、歌舞伎そのものの知識もありませんが、名だたる画家たちによる絵画を素直に堪能することが出来ました。

はじめは洋画ですが、いきなり思いがけないほどに充実した作品が登場します。


浅井忠「牛追い」1904年 カンヴァス・油彩 株式会社歌舞伎座蔵

それが浅井忠の「牛追い」です。京都・大原の牛追いの姿を捉えた一枚ですが、その力強い筆致には目を奪われます。

明るい光に照らされて輝く草、そしてどっしりとした牛の重み、またどこか可愛げな表情など、見どころの多い作品と言えるのではないでしょうか。

歌舞伎に因んだ作品として橋本邦助の「幕間」を挙げないわけにはいきません。右手奥に舞台を、左手前に大きくクローズアップした二名の女性の立ち姿が描かれています。前景と後景を対比して生まれた奥行き感のある画面構成も秀逸でした。

洋画10点ほどに対して、40点の規模で登場する日本画がメインです。

どこか見覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。松林桂月の「夜桜」は、東近美所蔵の「春宵花影図」の10年後に描かれたという、ほぼ同じ構図をとる作品でした。

仄かな月光に灯された夜桜の表情には深い味わいが感じられます。モノトーンながらも情景が浮かびあがってくる姿はなんとも儚気でした。

平塚の御舟展以来の対面かもしれません。大好きな御舟からは大作が一枚、「花ノ傍」が出品されています。


速水御舟「花ノ傍」1932年 紙本・彩色 株式会社歌舞伎座蔵

下絵が多く、本画も二度ほどやり直したという苦心の作ですが、ダリヤの花からツートーンカラーの服、そして緑色のストライプのテーブルクロスと、色が半ば乱れ舞う味わいは、なかなか他の日本画では楽しめません。 正面を向く白い犬の可愛らしい様子もまた印象的でした。


鏑木清方「さじき」1945年頃 絹本・彩色 株式会社歌舞伎座蔵

深水、清方、松園の美人画三点揃い踏みは展示のハイライトと言っても良いのではないでしょうか。


上村松園「円窓美人」1943年 絹本・彩色 株式会社歌舞伎座蔵

見つめあう二人に色気の香る深水、そしてオペラグラスを前に舞台を見やる女性を叙情的に示した清方、さらには円窓越しに佇む横顔の女性を完膚なき構図で描く松園と、三者三様の魅力を存分に楽しむことが出来ました。

なお余談ですが、深水は10月22日より平塚市美術館で回顧展が予定されています。こちらも楽しみにしたいところです。

「開館20周年記念展 伊東深水」 平塚市美術館(10/22-11/27)

私にとっては衝撃の一枚です。川端龍子の「青獅子」には度肝を抜かれます。

百獣の王獅子と百華の王牡丹の組み合わせという、能や歌舞伎でもお馴染みの主題ですが、ともかく青々とした獅子が白い大きな牡丹を噛み砕く様には後ずさりしてしまうほどの迫力があります。

以前、サントリー美術館の鳳凰と獅子展でも百川の同主題の作品に恐れおののいたことがありますが、この青獅子にも同じくらいにインパクトがありました。


木村荘八「歌舞伎もの十八番より勧進帳」1928年 絹本・彩色  株式会社歌舞伎座蔵

さて歌舞伎座ということで、主題だけでなく、もっと歌舞伎に直接因んだ作品が出ているのは言うまでもありません。

その一例が今回初公開となる「俳優帖」、もしくは「俳優書画帖」といった類の作品です。そこには歌舞伎俳優が自ら筆をとった画などが残されています。

また六代目中村歌右衛門による「紅白梅図」も興味深い作品ではないでしょうか。 彼が楽屋の欄間へ直接描いた紅白梅はなかなか軽妙でした。


「連合国最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥の手紙」1951年 株式会社歌舞伎座蔵

さらには二代国貞による「歌舞伎絵衝立」他、GHQ統治下にあった歌舞伎座に関する史料としてマッカーサーの手紙なども展示されています。(初公開)

そこには歌舞伎座再建に当たっての祝辞が述べられていましたが、同じく史料として、例えば検閲によってセリフの一部分が削られていたこと、またさらにそれ以前の大正期においても警察の統制で検閲が行われていたことなども紹介されていました。


東山魁夷「秋映」1959年 紙本・彩色 株式会社歌舞伎座

大半の作品は通期で展示されますが、一部は頁替、展示替があります。詳しくは出品リストをご参照下さい。

「知られざる歌舞伎座の名画」展出品リスト(PDF)

普段、劇場内に掛かっていることもあってか、サイズの大きな作品が目立ちます。また大観や玉堂の作は貴賓室や応接室にあったため、長らく一般向けに公開されてこなかったそうです。そうしたレアな作品も要注目ではないでしょうか。

11月6日まで開催されています。

「歌舞伎座建替記念特別展 知られざる歌舞伎座の名画」 山種美術館
会期:9月17日(土)~11月6日(日)
休館:月曜日。但し9/19、10/10は開館、翌火曜日は休館。
時間:10:00~17:00
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

10月の展覧会・ギャラリーetc

10月中に見たい展示をリストアップしてみました。

展覧会

・「アール・デコの館」 東京都庭園美術館(10/6~10/31)
 #夜間開館イベント:「夜の美術館」(ライトアップ+野外映像プロジェクション) 10/28~30 16:00~21:00
・「彫刻の時間 継承と展開」 東京藝術大学大学美術館(10/7~11/6)
 #彫刻科教授によるギャラリートークあり。木戸修、深井隆、北郷悟→スケジュール
・「春日の風景」 根津美術館(10/8~11/6)
・「特別展 モーリス・ドニ」 損保ジャパン東郷青児美術館(~11/13)
・「酒井抱一と江戸琳派の全貌」 千葉市美術館(10/10~11/13)
 #オープニングトーク(先着制)の他、記念講演会(事前申込制)多数あり→スケジュール
・「アートラインかしわ2011」 柏駅周辺一帯(10/15~11/13)
・「池大雅 中国へのあこがれ」 ニューオータニ美術館(10/18~11/20)
・「驚異の部屋へようこそ」 町田市立国際版画美術館(10/8~11/23)
 #講演会:「驚異と自然 時空の旅」 講師:巖谷國士(明治学院大学名誉教授) 10/16 14:00~ 先着200名、入場無料。
・「開館20周年記念展 伊東深水」 平塚市美術館(10/22~11/27)
 #対談:「父を語る」 講師:朝丘雪路(女優)、草薙奈津子(当館館長) 10/23 14:00~ 先着150名
・「法然と親鸞 ゆかりの名宝」 東京国立博物館(10/25~12/4)
・「南蛮美術の光と影 泰西王侯騎馬図屏風の謎」サントリー美術館(10/26~12/4)
・「ヴェネツィア展」 江戸東京博物館(~12/11)
・「モダン・アート、アメリカン」 国立新美術館(~12/12)
 #講演会:「アメリカ・モダニズムの誕生をめぐって」 講師:松本典久(元慶応義塾大学教授)10/16 14:00~
・「長谷川等伯と狩野派」 出光美術館(10/29~12/18)
・「ウィーン工房 モダニズムの装飾的精神」 パナソニック電工汐留ミュージアム(10/8~12/20)
・「生誕130年 松岡映丘 日本の雅」 練馬区立美術館(10/9~12/23)
 #講演会:「最後のやまと絵師・松岡映丘を応援する」 講師:山下裕二(明治学院大学教授) 11/5 14:00~ 要事前申込(10/15まで)
・「トゥールーズ=ロートレック展」 三菱一号館美術館(10/13~12/25)
・「野見山暁治展」 ブリヂストン美術館(10/28~12/25)
・「ゼロ年代のベルリン」 東京都現代美術館(~2012/1/9)
・「建築、アートがつくりだす新しい環境」 東京都現代美術館(2011/10/29~2012/1/9)
 #トークセッション:「建築、アートがつくりだす新しい環境」 出演:SANAA、ビジョイ・ジェイン(スタジオ・ムンバイ)、セルガスカーノ、長谷川祐子他(予定) 10/29 15:30~ 先着200名、無料(要展示チケット)
・「プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影」 国立西洋美術館(10/22~2012/1/29)
 #講演会:「ゴヤ 光と影 出品作品をめぐって」 出演:マヌエラ・メナ・マルケス(プラド美術館 18世紀・ゴヤ絵画部長)/ホセ・マヌエル・マティーリャ・ロドリゲス(同素描・版画部長) 10/22 14:00~ 先着140名、同時通訳付き

ギャラリー

・「ニューアート展 曽谷朝絵/荒神明香/ミヤケマイ」 横浜市民ギャラリー(~10/19)
・「石川直樹 8848」 SCAI THE BATHHOUSE(~10/22)
・「TWS-Emerging 木戸龍介/熊野海/前田雄大/茅根賢二」 トーキョーワンダーサイト本郷(~10/23)
・「桑島秀樹 TTL」 ラディウム-レントゲンヴェルケ(10/7~10/27)
・「おまえはどうなんだ?展」 松の湯二階(10/8~10/29)
・「ULTRA004 オクトーバー・サイド」 スパイラルガーデン(10/28~30)
・「大槻香奈展」 ニュートロン東京(10/12~10/30)
・「山田純嗣展」 日本橋高島屋美術画廊X(10/12-10/31)
・「大谷有花 対話の記憶」 GALLERY MoMo両国(10/8~11/5)
・「αM2011成層圏 宮永亮」 gallery αM(10/22~11/26)
・「淺井裕介 パギとソレ」 ARATANIURANO(10/21~11/26)
・「長島有里枝展」 1223現代絵画(~11/27)
・「小瀬村真美 闇に鳥、灰白の影」 Yuka Sasahara Gallery(10/29~12/3)

今月始まりの展覧会がかなり多いので目移りしてしまいますが、まず私として断然におすすめしたいのが千葉市美術館で開催される「酒井抱一と江戸琳派の全貌」です。



「酒井抱一と江戸琳派の全貌」 千葉市美術館(10/10~11/13)

姫路、千葉、京都(細見)と三会場の巡回展ですが、うち最も出品数が多いのが千葉展とのことです。なお公式サイトにも記載がありますが、展示替えも2度ほど予定されています。(10/24、10/31の二度展示替え)

開始早々には其一の「夏渓流図屏風」(1、2週)が、以降、抱一の「四季花鳥図屏風」(3、4、5週)、そして「夏秋草図屏風」が会期最後(4、5週)に出るそうです。展示スケジュールを含めた詳細な出品リストの公開も待たれますが、まずは初日を狙って行くつもりです。

現代アートに関する個性派の展覧会を2つほどご紹介します。

まずは千葉県柏市で行われる現代アートのプロジェクト「アートラインかしわ」です。



「アートラインかしわ2011」 柏駅周辺一帯(10/15-11/13)

会期中、柏駅周辺を中心に各種イベント、また様々な展示が行われますが、中でもこのところ展示機会の多い椛田ちひろの個展は要注目ではないでしょうか。期待したいと思います。

続いて注目したいのは、新宿区山吹町、江戸川橋駅付近の銭湯「松の湯」を会場に行われる「おまえはどうなんだ?展」です。



「おまえはどうなんだ?展」 松の湯二階(10/8~10/29)

銭湯の二階という特殊な会場を用い、12名の作家が絵画に彫刻、またインスタレーションなどの様々な展示を繰り広げます。また同展ではオフィシャルのツイッターがこまめに情報を発信しています。そちらも是非ご覧ください。(@omaehadounanda

日本画家の巨匠、伊東深水と松岡映丘の回顧展が、それぞれ平塚と練馬で開催されます。



「生誕130年 松岡映丘 日本の雅」 練馬区立美術館(10/9-12/23)
「開館20周年記念展 伊東深水」 平塚市美術館(10/22-11/27)


平塚では同館の開館20年を記念した特別展です。出品数は100点にも及びます。また練馬の映丘展は画家の回顧展としては30年ぶりです。ともに待たれていた方も多いのではないでしょうか。



話題のロートレック、そして満を持してのゴヤなども10月スタートです。こちらはなるべく混まないうちに行きたいと思います。

それでは今月も宜しくお願いします。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「和紙に魅せられた画家たち」(前期) 明治神宮文化館宝物展示室

明治神宮文化館宝物展示室
「和紙に魅せられた画家たち - 近代日本画の挑戦」(前期)
10/1-11/27(前期:10/1-10/26、後期:10/28-11/27)



明治神宮宝物殿、及び聖徳記念絵画館の重文指定を記念し、「えりすぐり」(チラシより引用)の近代日本画を展観します。明治神宮文化館宝物展示室で開催中の「和紙に魅せられた画家たち - 近代日本画の挑戦」へ行ってきました。

そもそも聖徳記念絵画館の開館当時に、壁画制作のための専用の紙、つまりは「神宮紙」がつくられ、近代日本画の発展に大きな貢献をしたそうですが、今回はそれに因んで、紙そのものも味わい深い、近代日本画の佳作が約70点(前後期あわせて。)ほど展示されています。

しかも聖徳記念絵画館絡みということで神宮の所蔵品のみかと思いきや、国内の様々な美術館、及び個人蔵の作品が殆どです。

明治神宮での日本画展は滅多に見られない作品が出ることも少なくありませんが、今回も同様ではないでしょうか。特に京都市美、愛知県美、日光の放庵記念館などの所蔵品が目立っていました。

冒頭の芋銭がまた佳作です。「因指見月」(茨城県近代美術館)には、河童の芋銭の名の通りの河童がモチーフとして描かれています。墨の濃淡を活かした表現も巧みですが、ここで注目したいのがやはり紙そのものです。

芋銭は紙にかなり拘りを持っていたそうで、ここでは本紙だけでなく表具も紙でつくられていました。


小杉放庵「緑陰対局」 昭和27年頃 小杉放庵記念日光美術館

展示で充実しているのは小杉放庵です。上でも触れましたが、日光の放庵記念館より6点ほどが出品されています。まさに木陰でのんびりと碁を打つ老人を捉えた「緑陰対局」(小杉放庵記念日光美術館)など、繊細なタッチで軽妙に情景を写し出す放庵の魅力を味わうことが出来ました。


横山大観「或る日の太平洋」 昭和27年 横山大観記念館

前期のハイライトは大観の「或る日の太平洋」(横山大観記念館)かもしれません。このイメージ、見覚えのある方も多いかもしれませんが、実は東近美所蔵の同名の作品とほぼ同じ主題を扱っています。

まずは金に輝く富士、そして胡粉の舞う力強い波などに目が奪われるところですが、ここでも紙に注目です。キャプションにもありましたが、波の下部は実は何も描かれていない、つまりは紙そのものの地だけが表現されています。

紙を意識することで開けてくる表現というのも、この展覧会を楽しむ一つのポイントといえるかもしれません。

資料、パネルによる紙にまつわる展示も見どころの一つです。越前和紙の職人、岩野平三郎の開発した雲肌麻紙は大観らの注目も受け、それまでの中国紙に変わり、近代日本画を描く上での欠かせない紙として扱われるようになりました。


岸田劉生「秋閑小彩」(部分) 昭和4年 愛知県美術館

また大正天皇の皇后である貞明皇后の色紙や、手漉き和紙のスケッチ帖なども並んでいます。小冊子の図録もありました。

なお手狭な展示室です。会期の前後期で出品作が全て入れ替わります。(前期36点、後期30点。書簡等数点含む。)

前期:10月1日(土)~10月26日(水)
後期:10月28日(金)~11月27日(日)



前田青邨「罌粟」(部分) 昭和5年 光記念館 *後期展示 

ちなみにチラシ表紙を飾る注目の前田青邨の「罌粟」(光記念館蔵)は後期に登場します。こちらも是非見に行きたいと思います。

前期展示は10月26日まで開催されています。

「和紙に魅せられた画家たち - 近代日本画の挑戦」 明治神宮文化館宝物展示室
会期:10月1日(土)~11月27日(日) 前期:10月1日(土)~10月26日(水)、後期:10月28日(金)~11月27日(日)
休館:10月27日(水)
時間:9:00~16:30
住所:渋谷区代々木神園町1-1
交通:JR線原宿駅、東京メトロ千代田線・ 副都心線明治神宮前駅より徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
   次ページ »