映画「天間荘の三姉妹」を観た。
「子供は親の言うことを聞いとらええ」という台詞に代表される、パターナリズム満載の作品である。家族はこうあらねばならぬ、これが家族だみたいな、家族第一主義を恥ずかしげもなく押し出しているのだ。理想の家族像のようなものの外見を繕うために子供は我慢しなければならないという理不尽な理屈が全編を通底している。
唯一まともなのが山谷花純が演じた元いじめられっ子の優那で、家族も友達も嘘っぱちだと看破するが、それさえも、個人の自由よりも家族の体面が大事という古い価値観に飲み込まれてしまう。
人と人の繋がりを大事にしているように見えて、実は個人の人格を蹂躙している社会のありようを全力で肯定しているのが本作品である。戦前の全体主義のパラダイムにそっくりな世界観だ。皮肉なことに女優陣は揃って熱演で、その世界観を存分に表現しているものだから、最初から最後まで気持ち悪かった。
のぞみかなえたまえの三姉妹の名前はテレビ番組「欽ちゃんのどこまでやるの」で結成されたユニットわらべの三姉妹と同じだ。許可は得ていると思うが、オリジナリティの欠片もない。
柳葉敏郎が柳刃包丁を使って刺身を引いているシーンだけがちょっと笑えたが、製作者の意図した笑いではないだろう。
人権侵害の親は子供に「お前のために叱ったり叩いたりしているんだ」と言いながら虐待をする。主役ののんが演じたのは、構ってくれるだけでもありがたいという「いい子」のたまえ。アニメ映画「この世界の片隅で」で北條すずという大役の声優を務めたのんが、こんな役を演じてしまったのは酷く残念である。なんだか弱い者いじめみたいな作品だった。