〇日本民藝館 特別展『柳宗悦唯一の内弟子 鈴木繁男展-手と眼の創作』(2024年1月14日~3月20日)
鈴木繁男(1914-2003)は、柳宗悦の唯一の内弟子として1935年に入門、陶磁器、装幀、漆絵など多岐な分野にわたる作品を残した。没後20年に合わせ、工芸家・鈴木繁男の手と眼による仕事を顕彰する。というのは、本展を見たあとに、あらためて確認したもの。実は、鈴木繁男の名前もよく知らずに、ふらりと見に行った。
玄関を入ると、階段の壁には大きな藍染の布が2枚。暴れ熨斗と熨斗に菊散らしの文様でどちらもめでたい。踊り場の箪笥の上と、階段下の左右の展示ケースには螺鈿、漆絵、卵殻貼などの漆工芸品。なんだかとても懐かしい感じがした。同館は、中世ヨーロッパの木製椅子とか、アフリカや中南米の工芸品など、幅広い収蔵品を誇るけれど、やっぱり日本の風土に根ざした民藝が王道だと思う。
その気持ちは、2階の特別展示室に入ったときも感じた。「手の創作」つまり近代的な意味で鈴木を作者とする陶芸・漆芸・装幀などと、「眼の創作」すなわち鈴木が価値を見出した伝来品の両面から構成されているが、全てが「民藝」の王道の空気をまとって融和していた。陶芸では白磁の美しさが印象的だった。中でも、朝鮮時代の虎足文机(これは伝来品)の上に載って、阿弥陀の名号の掛軸(これは鈴木繁男作)に供えられていた、丸っこい白磁の蓋物が記憶に残っている。逆に鉄釉凸帯文水指は、真っ黒な表面に微かに緑の光が浮かぶようで美しかった。シャープな四角い皿を何度か作っているのもおもしろかった。
「眼の創作」で気になったのは、小さな木製の厨子。子供が積み木を積んだようなシンプルな造形だった。平安時代の灰釉蓮弁文壺は、歪み具合が味なのだと思う。
併設展はどの部屋も面白かった。「室町~江戸時代の絵画」は大津絵のほか、丹緑本や奈良絵本断簡など。『大江山図屏風』は、左上隅に首を斬られる酒呑童子も描かれている。こんな趣味の悪い(?)屏風を誰が用いていたのだろう。やっぱり遊女屋だろうか?などと考えた。「絵馬と神祭具」は、上辺の中央が尖った五角形の絵馬ばかりでなく、素朴な四角形の板に絵を描いたものも多数あった。願い事は分かるような分からないような。子供が入浴する絵は何だろう?と思ってネットで調べたら「子どもがお風呂好きになるようにとの願いが込められている」という論文が見つかった。本当だろうか?
2階の階段まわりにあった『熊野比丘尼図』(箱を抱え傘を差し、子供(?)を伴う)は、褪色のせいか白描のように見えた。同じ展示ケースには、東大寺の什物だという湯桶や盥。その隣り、壁に掛かっていたのは駕籠かきの葬儀用衣装で、袖がやや長く、紺色に横縞と花を散らした文様が配されていた。
階段まわりの反対側には、おなじみの朝鮮民画『山神図』。「朝鮮の石工と白磁」ではレモンイエローの石でできた煙草入れが目を引いた。「民藝運動の作家たち」では舩木研兒、その父親・舩木道忠の作品を見ることができた。くりっとした眼の山羊や鹿の絵がかわいい。
1階は「植物文様の焼物」「B・リーチ、濱田庄司、富本憲吉」「柚木沙弥郎の仕事」、そして玄関は「日本の漆工」だったのだな。柳に扇面の丸盆とか、柏文の瓶子とか、大好きな名品を見ることができて嬉しかった。