見もの・読みもの日記

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ヴェルディ歌劇の愉悦/METライブ・ナブッコ

2024-02-27 22:48:43 | 行ったもの2(講演・公演)

METライブビューイング2023-24『ナブッコ』(新宿ピカデリー)

 先日、東劇にシネマ歌舞伎を見に行ったら、MET(ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場)ライブビューイングのチラシが置かれていて、そういえば、オペラは(実演も映像も)久しく見ていないなあ、と思った。私の好きなヴェルディ作品、今シーズンは『ナブッコ』がエントリーされていた。写真を見ると演出もよさそうなので、思い切って、見て来た。

 作品のあらすじは大体知っていたけれど、全編通しで視聴するのは、たぶん初めてだったと思う。しかし全く問題はなくて、第1幕から(いや、序曲から)雄弁で美しい旋律をシャワーのような浴びせられ、幸福感に浸った。

 舞台は紀元前6世紀のエルサレム。神殿に集まったヘブライ人たちは、バビロニア国王ナブッコの来襲に怯えている。ヘブライ人たちに人質として囚われているのはナブッコの娘・フェネーナ。エルサレム王の甥・イズマエーレは彼女を庇う。やがてフェネーナの姉・アビガイッレが現れ、イズマエーレに「自分の愛を受け入れれば民衆を助けよう」と取引を提案するが、イズマエーレは拒絶。 エルサレムはナブッコ王のバビロニア軍に制圧される。気性の激しい姉と優しい妹。国の興亡を左右する恋のさやあて。古装ファンタジーの世界みたいだ~と嬉しくなってしまった。

 第2幕。王女アビガイッレは、自分が奴隷女の出自であること、父ナブッコが妹のフェネーナに王位を譲るつもりであることを知り、王位を奪う決意を固める。腹を立てたナブッコは「自分は神だ」と宣言したことで、神の怒りを招き、雷に撃たれる。

 第3幕。力も権威も失ったナブッコは、アビガイッレに命じられるまま、異教徒たちとともにフェネーナも死刑とする文書に押印してしまう。ナブッコの嘆きと後悔。追いつめられたヘブライ人たちが、絶望の底から絞り出し、湧き上がるように歌うのが「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」。いや、これは泣くわ。作品中ではヘブライ人の歌だけれど、今、世界中でふるさとを失った、あるいは失おうとしている全ての人々に届く歌声だと思う。

 第4幕。復活したナブッコは、エホバの神を讃え、ヘブライ人たちを釈放する。アビガイッレは服毒し自殺する。きれいな「勧善懲悪」のハッピーエンドで終わるのは、比較的若書きの作品であるためだろうか。ヴェルディ作品というと、もっと不条理で悲劇的な作劇の印象が強いのだが。

 出演者で印象的だったのは、イズマエーレ役のテノール、ソクジョン・ベク。名前のとおり韓国出身で、これがMETデビューだという。田舎のお兄ちゃんみたいな顔立ちは、役柄によってはマイナスかも、と思ったが、声が素晴らしくよい。タイトル・ロールのナブッコは、ヴェルディらしい陰影に富んだバリトンの役柄で、ジョージ・ギャグニッザは、戦士王の威厳にも満ちていた。しかし、なんといっても素晴らしかったのは、リュドミラ・モナスティルスカのアビガイッレ! 強い意志を感じさせる、華やかさと力強さに痺れた。第2幕と3幕の間に、舞台裏でのインタビュー映像が流れたけど、彼女はウクライナの出身なのね。ちなみにギャグニッザはジョージア(グルジア)出身で、この作品では独裁者が力を失い、悔い改める、現実にもそのような変化が起きるといいですね、みたいなことを淡々と述べていた。ちなみにフェネーナ役のマリア・バラコーワはロシア出身である。

 オケや舞台上のメンバーを見ていると、アジア系やアフリカ系の顔立ちもけっこう混じっていたが、特に違和感はなかった。そんなことはどうでもいいくらい、(音楽)作品の普遍性が強いのだと思う。あと、指揮者のダニエレ・カッレガーリさん、表情豊かでお茶目なのと、途中のインタビューで、楽譜に書かれていることを大切にするとおっしゃっていたのが、気に入ってしまった。また聴きに行きたい。ウェブサイトも見つけた!

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